ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#第百四十話

やめて。

その一言だけが、#朔夜の心の中で何度も何度も響いていた。

目の前には、青ざめた表情でこちらを見つめるナツメたち。

助けようとしてくれている。

近づいてきてくれている。

それなのに――

「来ないでッ!」

叫ぼうとした声は、玄武の嗤いに掻き消された。

#朔夜の意思とは無関係に腕が振り上げられる。

掌から青白い妖力が溢れ出し、瞬く間に無数の刀身へと結晶化していく。

まるで扇を広げるように放射状へ展開された刃。

『――[[rb:月下扇 > げっかせん]]。』

玄武が静かに告げる。

次の瞬間。

無数の結晶刀が雨のように飛び散った。

「危ない!」

トウマが叫び、全員が咄嗟に身を伏せる。

石床へ突き刺さる刃が火花を散らし、神殿中へ鋭い金属音が響いた。

「#朔夜!」

ナツメの悲痛な声。

(違う……!)

(僕じゃない!)

届かない。

指一本。

まぶた一つ。

身体はもう、自分のものではなかった。

まるで誰かに糸で操られている操り人形。

いや、それ以上だ。

感覚だけを残し、意思だけを閉じ込められた牢獄。

(返して……。)

震える想いだけが闇へ落ちていく。

すると、頭の奥で低く笑う声がした。

『返してほしいか。』

玄武だった。

その声には嘲りしかない。

『そこまで望むなら、奪い返してみよ。』

(返して……。)

『ならば抗え。』

冷酷な笑みが浮かぶ。

『それができぬのなら、この肉体は我が借り受ける。』

#朔夜は歯を食いしばることしかできなかった。

[newpage]

「どうする……!」

ケータが低く叫ぶ。

誰も動けない。

目の前にいるのは敵。

だが、その身体は#朔夜なのだ。

「攻撃なんてできるわけないよ!」

ナツメが拳を握り締める。

「でも、このままじゃ……!」

アキノリも歯噛みした。

その一瞬の迷いを、玄武は見逃さなかった。

ゆっくりと右腕を天へ向ける。

青白い粒子が空中へ集まり、一本、また一本と巨大な矢へ姿を変えていく。

『――[[rb:玄天箭雨 > げんてんせんう]]。』

無数の妖力の矢が天井いっぱいに並んだ。

「伏せろ!」

ケータの声と同時。

矢の豪雨が降り注ぐ。

轟音。

爆音。

石床を砕きながら降り注ぐ矢を、一同は必死に避け続けた。

朱雀は翼を広げ、風で軌道を逸らす。

ジバニャンとコマさんも仲間を庇いながら駆け回る。

それでも。

一本、また一本。

確実に逃げ場を削られていく。

 

◇ ◇ ◇

 

(もう、やめて……。)

心の奥底から叫ぶ。

(みんなを傷つけたくない。)

その瞬間。

振り下ろそうとしていた腕が、ぴたりと止まった。

『……ほう?』

玄武の声に、初めて僅かな驚きが混じる。

右腕が震える。

#朔夜は必死だった。

全身が裂けそうなほど力を込める。

(お願い……。)

(動かないで……!)

あと少し。

あと少しだけ。

その隙を、ジバニャンは見逃さなかった。

「今ニャン!」

赤い残像を残し、一気に距離を詰める。

「百烈肉球!!」

拳の嵐が#朔夜へ叩き込まれ――

直前。

目の前へ一枚の青い鏡が現れた。

『――[[rb:玄鏡 > げんきょう]]。』

鏡のように透き通った水面。

ジバニャンの拳は、その表面へ吸い込まれた。

次の瞬間。

衝撃が逆流した。

「なッーーッ!?」

自分の放った百烈肉球が、そのまま自分へ返ってきた。

吹き飛ばされ、石柱へ激突するジバニャン。

「ジバニャン!」

駆け寄ろうとしたコマさんだったが、

『愚か。』

玄武は冷たく呟く。

足元から大量の水が噴き上がった。

[newpage]

瞬く間に巨大な水球となり、ジバニャンを包み込む。

『――[[rb:蒼牢結界 > そうろうけっかい]]。』

「ニャんだッ!?」

暴れる。

引っ掻く。

殴る。

しかし水球はびくともしない。

空気がない。

苦しそうにもがくジバニャンの姿に、ナツメは悲鳴を上げた。

「やめてぇ!」

だが、その叫びすら届かない。

 

◇ ◇ ◇

 

「コマさん!」

「ッ!?」

コマさんもまた水球へ閉じ込められる。

ミッチー。

ウィスパー。

妖怪たちが次々と拘束されていく。

ケータも。

トウマも。

アキノリも。

抵抗虚しく、水牢へ囚われた。

最後に残ったナツメも、水流に足を取られて膝をつく。

「#朔夜……!」

その声に。

一瞬だけ。

#朔夜の瞳が揺れた。

(逃げて……。)

(お願いだから……。)

だが、その願いは玄武の力に呑まれていく。

[newpage]

『終わりだ。』

玄武は静かにゲンブ法典斧を握り直した。

その刃先から、膨大な妖力が溢れ出す。

神殿全体が低く震え始めた。

湖の水が呼応するように轟き、地鳴りにも似た音が辺りへ響く。

斧をゆっくりと天へ掲げる。

水が。

空へ昇る。

まるで湖そのものが持ち上げられていくかのように。

誰もが息を呑んだ。

身動きの取れない仲間たちは、その光景を見上げることしかできない。

(やめて……。)

(お願い……。)

(みんなを――)

玄武は薄く目を細めた。

そして。

神の奥義を、小さく告げた。

[chapter:[__[rb:玄海嘯 > げんかいしょう]]]

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