ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#百四十四話

土蜘蛛の妖気が、元町タワー一帯を覆い尽くしていた。

舞い上がった土煙は未だ晴れず、崩れた瓦礫が軋む音だけが辺りへ響く。

その中で。

#朔夜は静かにゲンブ法典斧を構えた。

「来ます。」

直後だった。

四方八方から白い閃光が走る。

否。

蜘蛛糸だ。

先ほどまでとは比べものにならないほど細く、それでいて数は何倍にも増えている。

「月下扇。」

#朔夜が妖聖剣を横へ払う。

放射状に広がった無数の水刃が蜘蛛糸を次々と切り裂いた。

ヒュンッ――!

ヒュンッ――!

白い糸が宙を舞い、そのまま灰となって消えていく。

「すごい……。」

猫娘は思わず息を呑む。

鬼太郎も指鉄砲を放ちながら援護へ回る。

「#朔夜!」

「右だ!」

「はい!」

指鉄砲で土蜘蛛の注意が逸れた一瞬。

#朔夜は身体を滑らせるように踏み込み、蜘蛛脚を法典斧で受け流した。

重い。

しかし止まることはない。

玄武の力が身体を支えてくれる。

反対側では酒呑童子へ近付こうとした蜘蛛糸を、ジバニャンの百烈肉球が弾き飛ばす。

コマさんが旋風を巻き起こし、ケータたちも避難誘導を続ける。

妖怪も人間も関係なく、今は皆が一つだった。

だが。

土蜘蛛は笑っていた。

「まだだ。」

「まだ終わらぬ。」

その八つの眼だけが、不気味に光る。

#朔夜は違和感を覚えていた。

(攻撃が単調すぎる……。)

(違う。)

(何かを狙っている。)

心の奥で玄武も静かに告げる。

『奴は時を待っておるようだ。』

「はい。」

#朔夜は短く答え、再び蜘蛛糸を切り払う。

その時だった。

「危ない!」

鬼太郎の声。

避難していた消防隊員の一人へ蜘蛛糸が伸びていた。

#朔夜は迷わない。

法典斧を翻す。

「月下扇。」

一閃。

蜘蛛糸は真っ二つとなり、隊員は尻餅をつきながらも難を逃れる。

「ありがとうございます!」

だが。

その一瞬だけだった。

#朔夜の意識が前方へ向いた、その刹那。

背後の土煙から。

音もなく。

一本の極細の蜘蛛糸が伸びていた。

[newpage]

「――!」

気付いた時には遅かった。

蜘蛛糸は朔夜の両腕へ絡み付き、一気に締め上げる。

ギチッ!

法典斧が持ち上がらない。

さらに。

腰。

脚。

肩。

身体中へ蜘蛛糸が巻き付き、#朔夜を宙へ吊り上げた。

[newpage]

「#朔夜!」

鬼太郎が駆け出す。

しかし、その前へ無数の蜘蛛糸が立ちはだかる。

「くっ……!」

猫娘も爪を振るう。

だが切り裂いた端から再生していく。

土蜘蛛が甲高く笑った。

「掛かったわね!」

「玄武の器!」

#朔夜は身体をよじる。

しかし拘束は緩まない。

法典斧を振る腕すら自由にならない。

(しまった……。)

その時。

胸元の青い宝石から、何かが流れ出していく感覚があった。

「……!」

息が苦しい。

身体が急激に重くなる。

この感覚。

(この感じ……。)

思い出す。

蜘蛛糸を断つため、小刀を創り出したあの日。

あの時と同じ。

いや、それ以上だった。

宝石に宿る力そのものが、蜘蛛糸を伝って吸い上げられていく。

「なるほど……。」

土蜘蛛は満足そうに笑う。

「人間の身で神の力を扱うなど滑稽。」

「その力ごと喰らってくれる。」

青い宝石が脈打つ。

ピカッ。

……。

ピカッ。

……。

その輝きは少しずつ弱まっていた。

「まずい!」

目玉おやじが叫ぶ。

鬼太郎は蜘蛛糸を掻き分けながら叫ぶ。

「#朔夜!」

#朔夜は苦しそうに目を閉じる。

身体から力が抜けていく。

玄武の姿も薄れていくのが分かった。

白蛇が悲しげに鳴き、緑の羽織も淡く霞み始める。

[newpage]

心の中で玄武が静かに呟いた。

『……ここまでか。』

その声に。

#朔夜は小さく笑った。

「いいえ。」

『……?』

「僕は、一人じゃありませんよ。」

玄武は黙る。

その言葉の意味を理解する前に。

宝石の光が、最後に一度だけ大きく脈動した。

ドクン――。

青白い閃光が宝石から溢れ出す。

誰もが目を細めた。

光は空高く昇ることなく。

一直線に駆け抜ける。

「……?」

トウマが目で追う。

その光は自分へ向かってくる。

「僕!?」

思わず身構えた、その瞬間。

光はトウマの横をすり抜けた。

「え?」

次の瞬間。

一本の剣が、眩い雷光に包まれる。

――不動雷鳴剣。

バチッ!!

バチバチバチッ!!

雷鳴が轟き、剣は独りでに宙へ浮かび上がった。

「雷鳴剣が……!」

トウマは目を見開く。

剣は黄金色の雷を纏いながらゆっくりと回転を始める。

やがて光は人の形を取り始めた。

小柄な身体。

少年の輪郭。

風になびく髪。

雷光が少しずつ収まっていく。

鬼太郎も。

猫娘も。

土蜘蛛でさえ。

その光景を見つめていた。

最後の雷光が消え去った時。

そこには、一人の少年が静かに立っていた。

その瞳は真っ直ぐに、蜘蛛糸へ囚われた#朔夜だけを見つめていた――。

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