ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#百四十八話

十月三十一日。

放課後、帰り支度をしていた#朔夜のスマートフォンが震えた。

画面には、アヤメから送られてきた写真が表示されている。カボチャのモンブラン、黒猫のマカロン、コウモリ型のチョコレート。どれも駅前の商業施設で販売されている、ハロウィン限定スイーツらしい。

『今日までだそうです。皆さんで行きませんか?』

送信された直後、ナツメが反応した。

『行く!』

『黒猫のマカロン、かわいいわね』

しずかも続き、間を置かずにもう一件通知が届く。

『その黒猫マカロン、何時まで残ってるの?』

送り主の名前を見て、#朔夜は目を瞬いた。

『猫娘さん、いつの間に!?』

『この前ナツメと連絡先を交換したのよ。何かあった時に便利でしょ』

緊急連絡用のはずなのに、反応した話題は限定スイーツだった。

#朔夜がそっと画面を閉じようとすると、ナツメから新しいメッセージが飛んでくる。

『#朔夜も来るよね?』

『え、僕も?』

『四時に駅前集合ね!』

『待って。まだ行くって言ってない』

『人数が多い方が、いろいろ分けられるもの』

『荷物を持ってくれる人も必要ね』

しずかと猫娘まで話へ加わり、最後にアヤメが集合場所の地図を送ってきた。

#朔夜はしばらく画面を見つめた。

『えぇ……もう決定なんだ.....』

結局、集合時刻の五分前には駅前に着いていた。

 

     ◇

 

大通りは橙色と黒色の飾りで埋め尽くされていた。

街路樹にはカボチャ型のランタンが吊られ、仮装した子どもたちが菓子袋を手に走り回っている。

「最初がカボチャのモンブラン、次が黒猫マカロン、その次が墓石ティラミスです」

アヤメはスマートフォンに作った順路を確認しながら言った。

「予定表まで作ったんだ」

「数量限定ですから、順番が大切です」

女郎蜘蛛の事件から数日。アヤメが自分から出掛けようと言い出したことに、皆は少なからず安心していた。

「じゃあ、行こう!」

ナツメの声で一行が歩き始める。

気付けば、#朔夜の両手には紙袋が二つあった。

「え、これ僕が持つの?」

「撮影用の小物よ」

猫娘が当然のように答える。

「そうじゃなくて、どうして僕が……」

「今、一番手が空いてるから」

「そうだけど……」

反論している間にも、ナツメからもう一つ袋を渡される。

「えぇ……増えた」

「あとで一口あげるから」

「……分かったよ」

その返事に、ナツメとしずかが小さく笑った。猫娘も口元を緩める。

#朔夜が女子ばかりの輪に混ざっていることを、猫娘はもう不思議がらなかった。ナツメたちの接し方を見て、何か察しているのかもしれない。

[newpage]

最初のカフェも、店内までハロウィン一色だった。

窓にはコウモリの切り絵が貼られ、テーブルには小さなカボチャが並んでいる。

空いている席を探していると、奥から声がした。

「あれ? #朔夜くん?」

振り向けば、買い物袋を持ったまなが立っていた。

「まなさん。お久しぶりです」

「やっぱり! みんなでスイーツを食べに来たの?」

「はい。アヤメさんが見つけてくれて」

「いいなあ。私も一緒にいていい?」

「もちろん!」

ナツメが即答する。

まなは嬉しそうに皆を見回し、猫娘の前で動きを止めた。

「わあ……すごい仮装ですね!」

「か、仮装?」

まなは猫娘の紫色の髪、大きな赤いリボン、黄色い瞳を興味深そうに眺めた。

「猫をイメージしてるんですか? すごく似合ってます!」

「まあ……そんなところよ」

猫娘は一瞬言葉に詰まりながらも、話を合わせた。

「猫の仮装かぁ……」

まながぽつりと呟く。

その言葉を聞いた猫娘の表情が、わずかに揺れた気がした。

次の瞬間、まなは顔を上げ、猫娘へぐっと詰め寄った。

「あの! 猫姉さんって呼んでいいですか!?」

「……え?」

「猫っぽくて格好いいお姉さんだから、猫姉さんです! 駄目ですか!?」

「ちょ、ちょっと近いってば……」

「駄目ですか?」

普段なら人の勢いに流されそうにない猫娘が、珍しく押されている。

しばらくまなの顔を見つめた後、猫娘は小さく息を吐いた。

「……別に、いいけど」

「本当ですか!? やった! 猫姉さん!」

「一度で聞こえてるわよ」

顔を背けた猫娘の表情は、まなの勢いに困っているようにも、どこか曇っているようにも見えた。

「皆さん、席が埋まってしまいます」

アヤメの声で、皆は慌てて空席へ向かった。

 

     ◇

 

テーブルには、カボチャのモンブランや目玉を模したゼリー、コウモリ型のクッキーが並んだ。

「食べる前に写真を撮ろう!」

ナツメがスマートフォンを差し出す。

「#朔夜、お願い」

「え、僕が?」

「全員で写りたいから」

「僕も一応、全員の中に入ってるんだけど……」

戸惑いながらも受け取ると、まなはすぐ猫娘の隣へ座った。

「猫姉さん、もう少しこっち!」

「引っ張らないでってば!」

「撮りますよ」

#朔夜が撮影を終えると、今度はしずかが店員へ頼み、#朔夜まで写真の中へ押し込んだ。

「え、僕も?」

「皆で来たんだから当然でしょ」

猫娘に言われ、#朔夜は端へ腰を下ろした。

やがてスイーツを口にしたアヤメが、ほっとしたように笑う。

「美味しいです。皆さんと来られてよかった」

「次のお店も楽しみだね」

ナツメが答えた。

事件の影はまだ完全には消えていない。それでも、今日くらいは普通に笑っていてもいい。

そんな穏やかな時間の中で、まなが不意に窓の外を指差した。

「あの人、俳優さんかな!?」

ガラスの向こう、通りの反対側に背の高い男が立っていた。

仕立てのよい濃紺のスーツ。整えられた長い髪。落ち着いた雰囲気の中に、どこか野性的な鋭さがある。確かに、映画から抜け出してきた俳優のようだった。

「格好いい……! イベントのゲストかな?」

まなが目を輝かせる。

#朔夜も一度だけ男を見る。

「そうかもしれないね」

見覚えはなかった。少なくとも、すぐに思い出せる相手ではない。

視線を戻しかけた時、隣にいた猫娘の表情が険しくなったように見えた。

同時に、窓の外の男がゆっくりこちらへ顔を向ける。

その瞬間だった。

「あっ! 早く行かないと、次のスイーツがなくなっちゃう!」

ナツメが勢いよく立ち上がった。

「え、もう行くの?」

「次は数量限定だよ!」

まなも時計を確認し、慌てて鞄を持つ。

「一日三十個です」

アヤメまで真剣な顔で言った。

「そんなに急ぐ……?」

#朔夜が戸惑うと、猫娘が吹き出した。

「今日はスイーツ巡りに来たんでしょ?」

「そうだけど……」

「#朔夜くん、限定スイーツを甘く見ちゃ駄目だよ!」

真顔で言い切るまなに、ナツメが笑い出す。しずかとアヤメもつられ、猫娘まで肩を揺らした。

「ほら、行くよ!」

「猫姉さん、次は黒猫マカロンですよ!」

「分かったから引っ張らないの!」

皆は笑いながら店を出ていく。

#朔夜はテーブルの下に置いていた紙袋を持ち上げ、その後を追った。

「えぇ……また増えてる」

「早く、#朔夜!」

「今行く!」

人混みへ入る直前、#朔夜は何となく振り返った。

先ほどまで通りの向こうに立っていた男の姿は、もう見えなかった。

だが、そのことを深く考えるより先に、前方からまた名前を呼ばれる。

「待って。置いていかないでよ」

両手の荷物を抱え直し、#朔夜は皆の背中を追いかけた。

ハロウィンの音楽と笑い声に紛れ、ガラス越しの小さな違和感は、すぐに意識の外へ押し流されていった。

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