ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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ショック療法。これしか思いつかなかった。ごめん。


#百五十話

人混みを縫うようにして、一行はショッピングモールの出口を目指していた。

日が沈んでから、館内の混雑はさらに激しくなっている。魔女や狼男、幽霊に扮した人々が通路を埋め、少し気を抜けば隣を歩いていた相手さえ見失いそうだった。

「みんな、離れないで!」

先頭を進む猫娘の声が、人々の話し声と音楽に紛れる。

#朔夜は手元に残った共有の紙袋を抱えながら、すぐ隣を歩くまなの様子を確かめた。

先ほどから、吸血鬼の仮装をした者が妙に多い。

ハロウィンなのだから、それ自体は不自然ではない。けれど、彼らの視線や立ち位置には、説明できない違和感があった。

浮かれているようには見えない。

人々に紛れながら、何かを探しているような――。

「わあ……!」

隣から上がった声に、#朔夜は振り向いた。

まなが足を止め、通路の端に立つ一人の吸血鬼を見つめている。

黒いマントに、血の気を失ったような白い肌。口元から覗く牙は作り物には見えず、赤い瞳まで闇の中で鈍く光っていた。

周囲にいる仮装客とは、明らかに完成度が違う。

「すごい……! レイヤーさんですか!?」

「え?」

止める間もなかった。

まなは目を輝かせながら、その吸血鬼へ向かって人混みの中へ入っていく。

「ちょっと、まなさん!」

#朔夜は慌てて後を追った。

前を横切る仮装客を避け、紙袋を身体へ引き寄せながら進む。ようやく追いついた時には、まなは先ほどの吸血鬼を見失い、きょろきょろと周囲を見回していた。

「あれ? どこに行ったんだろう」

「もう……急に離れたら危ないよ」

「ごめんね。でも、本当にすごい仮装だったから、写真を撮らせてもらおうと思って」

#朔夜は小さく息を吐き、後ろを振り返った。

「猫娘さんたちは――」

言葉が止まる。

猫娘も、ナツメも、しずかもアヤメもいない。

見えるのは、途切れることなく流れていく仮装客ばかりだった。

「……いない」

「え?」

「はぐれたみたい」

まなが慌てて背伸びをするが、これほどの人混みでは見つけられるはずもない。

#朔夜はスマートフォンを取り出そうとして、すぐに手を止めた。

先ほどから感じていた違和感が、いつの間にか濃くなっている。

血鬼の仮装をした者たちが、少しずつ二人へ近づいていた。

視線だけをこちらへ向け、出口へ続く通路を塞ぐように位置を変えている。

[newpage]

「まなさん、行こう」

「え? でも、みんなを探さないと」

「ここにいない方がいい」

#朔夜はまなの手首を掴んだ。

普段よりも強い口調になったためか、まなは目を瞬く。

「#朔夜ちゃん?」

「説明は後。入り口まで戻るよ」

最も人が多い方角を選び、まなを連れて歩き出す。

弓は持ってきていない。

スイーツ巡りへ行くのに、武器を持ってショッピングモールを歩くわけにはいかなかった。

それでも、何か起きる可能性は常に考えていた。

周囲の出入り口。

警備員の位置。

身を隠せそうな店。

逃げ道になりそうな通路。

#朔夜は歩きながら、視界へ入るものを一つずつ確認していく。

正面に、ショッピングモールの入り口が見えた。

あと少し。

外へ出れば、人目も増える。猫娘たちへの連絡も取りやすくなる。

「もう少しだから」

まなの手を引き、歩調を速める。

しかし、出口まで数メートルというところで、黒いマントが目の前を横切った。

足が止まる。

正面に二人。

左右にそれぞれ三人。

背後からも、複数の気配が近づいてくる。

いつの間にか、二人は吸血鬼の集団に囲まれていた。

「……やっぱり」

#朔夜は抱えていた紙袋を床へ置く。

箱が傾き、中からカボチャ型の飾りが転がり出した。

「まなさん、僕の後ろにいて」

「え……?」

まなはまだ状況を理解できていないようだった。

「どうしたの? この人たちも仮装してるだけじゃ……」

「違うと思う」

#朔夜はまなを庇うように前へ立つ。

吸血鬼たちは一言も発しない。

ただ赤い瞳で二人を眺め、口元をゆっくりと吊り上げた。

尖った牙が露わになる。

その牙から滴り落ちたものが床へ落ち、小さな音を立てた。

まなの顔から笑みが消える。

「え……」

一体が、人間ではあり得ない動きで天井近くまで跳び上がった。

黒いマントが大きく広がる。

別の一体は床を這うように姿勢を低くし、二人の逃げ道を塞いだ。

仮装ではない。

目の前にいるのは、本物の吸血鬼だ。

「そんな……」

まなの声が震えた。

#朔夜は最も人数の少ない右側を確認する。

一人を押し退けられれば、まなだけでも逃がせるかもしれない。

だが、自分の背後にいるまなは足がすくみ、動けなくなっている。

「まなさん。僕が合図したら、入り口へ走って」

「で、でも、#朔夜ちゃんは……」

「大丈夫だから」

本当は、大丈夫だと言える根拠などない。

武器もなく、相手の数も多い。

それでも、ここで自分まで怯えれば、まなを逃がすことはできない。

#朔夜は息を整え、吸血鬼たちの動きを注視した。

次の瞬間。

一体の吸血鬼が床を蹴った。

狙いは#朔夜ではない。

その背後にいる、まなだった。

「まなさん!」

#朔夜は反射的に振り返る。

まなの肩を押し、自分が二人の間へ割って入ろうとした。

開かれた口。

迫る牙。

冷たい息が、頬へ触れる。

避けられない――。

[newpage]

[chapter:「ダイナガ・ミ・トーチ!」]

鋭い声が響いた。

直後、赤い光が吸血鬼の身体へ直撃する。

轟音と共に、その身体が横方向へ吹き飛ばされた。

吸血鬼は床を何度も転がり、離れた柱へ背中を打ちつける。

#朔夜はまなを庇ったまま、声が聞こえた方へ顔を向けた。

建物の角から、一人の少女が姿を現す。

鮮やかな金色の髪。

大きく尖った帽子。

黒を基調とした、物語に登場する魔女そのもののような服装。

手にした杖の先端には、まだ赤い魔力の光が残っている。

「怪我はない!?」

少女は鋭く吸血鬼たちを睨みながら、二人へ駆け寄ってきた。

「アニエスさん……?」

#朔夜が名前を呼ぶ。

アニエスは目を見開いた。

「あなた……#朔夜!? どうしてここにいるのよ!」

「僕も聞きたいですけど……」

「今はそんなことを話している場合じゃないわ!」

アニエスは杖を構え直す。

吹き飛ばされた一体を除き、周囲の吸血鬼たちはまだ二人を囲んでいた。

だが、魔女の登場を警戒しているのか、すぐには襲ってこない。

「カミーラの気配を追ってきたら、こんなところにまで吸血鬼が――」

そこまで言ったアニエスの視線が、朔夜の後ろへ向いた。

「……まな?」

声が変わる。

驚きと、信じられないものを見たような戸惑い。

まなは何も答えなかった。

恐怖に青ざめた顔で、目の前の金髪の少女を見つめている。

「どうして、まなまでここにいるのよ……」

アニエスは周囲を見回し、苛立たしげに吐き捨てた。

「鬼太郎は全く! 何をやっているのよ!」

鬼太郎。

何気なく発せられた、ただ一つの名前。

その瞬間だった。

まなの瞳が、大きく見開かれる。

頭の奥で、何かが弾けた。

片目を茶色い髪で隠した少年。

小さな身体に、大きな一つ目。

紫がかった長い髪と、赤いリボン。

自分を叱りながら、何度も守ってくれた猫の少女。

金色の髪をなびかせて魔法を放つ少女。

銀色の髪を持つ、その姉。

妖怪たち。

戦い。

恐怖。

泣いた夜。

共に笑った時間。

忘れていた顔と声が、濁流のように押し寄せてくる。

[newpage]

『猫姉さん!』

『鬼太郎!』

自分が何度も呼んだ名前。

失われていたはずの時間。

胸の奥へ沈められていた記憶が、堰を切ったように次々と蘇っていく。

まなの身体が小さく揺れた。

「まなさん?」

#朔夜が呼び掛ける。

返事はない。

まなは目を見開いたまま、声を出すことも忘れたように立ち尽くしている。

一筋の涙が、頬を伝った。

「まなさん……?」

もう一度呼んでも、まなは何も答えなかった。

ただ、目の前にいるアニエスを見つめたまま。

失った記憶と、今の自分との間で立ち尽くしていた。

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