んで、今コレ
零:「危険から遠ざけて保護する」
カイラ:「正体と懐かしい気配を調べる。危害は許さない」
梟:「朱夏候補として酒呑童子様の前へ連行する」
酒呑童子:「梟、待て。そいつを刺激するな」
ウォルフガング:「すぐ壊さず、まず実力を試したい」
カミーラ:「面白そうだからもう少し観察したい」
赤髪の女性:「命令には従わなければならないが、殺すことには迷いがある」
ペンダントの声:「脅威になる前に始末しろ」
夜の街を、ひとつの影が音もなく渡っていた。
屋根から屋根へ。電柱からビルの屋上へ。人の目には映らぬ高さを選びながら、[[rb:梟 > フクロウ]]は眠りにつきつつある町を見下ろしていた。
朱夏様の生まれ変わり。
酒呑童子が探し求める姫君。
その手掛かりを求めて、梟は幾晩も飛び続けている。命じられたわけではない。だが、あの御方が望んでいる以上、自分が休む理由などなかった。
「酒呑童子様の御心を煩わせぬためにも……必ずや、我が」
呟いた声は、夜風に溶けた。
けれど、その日も確かな手掛かりは得られなかった。
翌日。梟は酒呑童子様の気配を追い、人気のない場所へ降り立った。
そこには酒呑童子のほか、妖怪探偵団の者たちが集まっていた。
話題は、先日の女郎蜘蛛の一件だった。
宝剣殿への侵入。土蜘蛛の動き。女郎蜘蛛の背後に、さらに何者かがいる可能性。そして――#兔谷#朔夜という少年が、その身へ玄武を宿したこと。
「青き宝石と、不動雷鳴剣が共鳴した……か」
酒呑童子様が低く呟く。
梟は離れた木陰から、その様子を見つめていた。
現場にいた者たちから話を聞くのは当然のことだ。そんなことは、梟にも分かっている。
それでも胸の奥には、鈍い痛みが残った。
かつて敵として刃を交えた者たちには声を掛ける。
しかし、自分には何も命じない。
話し合いが終わり、妖怪探偵団が立ち去った後、梟は意を決して酒呑童子様の前へ進み出た。
「酒呑童子様」
「何だ、梟」
「女郎蜘蛛の背後にいる者の探索、我にもお命じください。人目につかず動くことならば、我にも――」
「必要ない」
短い返答だった。
梟の言葉が止まる。
「しかし、我ならば敵の動きを探り――」
「今は勝手に動くな」
酒呑童子の声は冷たかった。
「敵の正体も、狙いも分からい。玄武まで関わった以上、軽々しく動けば事態を乱す。命があるまで待機せよ」
梟を危険から遠ざける意味も、その言葉には含まれていたのかもしれない。
だが、梟には届かなかった。
「……御意」
深く頭を下げる。
反論することなどできない。
酒呑童子様が間違っているはずもない。
任せてもらえないのは、自分に相応の力がないからだ。
ただ、それだけのことだった。
[newpage]
人の姿を取り、梟は町外れの公園にあるベンチへ腰を下ろしていた。
遊具には誰もいない。夕暮れの空を、鳥の群れが横切っていく。
「我は……何のために」
そこまで口にして、梟は俯いた。
「あの……」
不意に、横から声がした。
顔を上げると、一人の少女が少し離れたところに立っていた。手には買い物袋を提げている。
「お兄さん、大丈夫ですか?」
「……私のことか?」
「ほかに誰もいないし。すごく元気がなさそうだったから」
見知らぬ人間の娘だった。
妖怪である自分の正体にも、当然気づいていない。
「人間の娘には関係のないことだ」
梟は立ち上がろうとした。
「そうかもしれないけど……一人で悩んでると、もっとつらくならない?」
足が止まる。
少女は困ったように笑った。
「話したくないことまで話さなくていいよ。ただ、少しだけなら聞けるから」
なぜ、自分は見ず知らずの人間に足を止めたのだろう。
梟にも分からなかった。
「私には、お仕えしたい御方がいる」
妖怪のことも、姫君のことも伏せたまま、言葉を選ぶ。
「その御方のお役に立ちたいと、常に願っておる。されど、あの御方は私を頼ってはくださらぬ」
「お仕事を任せてもらえないの?」
「……そのようなものだ。我よりも、かつて敵対していた者たちの力を借りておられる」
少女はしばらく考え込んだ。
「その人にも、何か理由があるのかもしれないけど……」
そう前置きしてから、まっすぐ梟を見る。
「頼まれたことだけが、誰かの役に立つことじゃないと思うよ」
「何?」
「お兄さんにできることをやればいいんじゃないかな。大きなことじゃなくても、できることから」
梟は目を見開いた。
「私に……できること」
「うん。自分を責めてばっかりじゃ、見つかるものも見つからないよ」
少女の意図は、ほんの少し気持ちを軽くしてほしいという、それだけだった。
だが梟の胸には、別の形で言葉が落ちた。
命を待つだけではない。
自分にしかできぬ使命を果たせばよい。
「そうか……そういうことであったか」
「え?」
梟は立ち上がった。
沈んでいた瞳に、再び強い光が宿る。
「礼を言う、人間の娘よ。私は私にしか果たせぬ使命を、必ず成し遂げてみせる」
「え、あの……無理はしないでね?」
返事も待たず、梟は歩き出した。
取り残された少女――フミカは、その背中を見送りながら首を傾げた。
「……元気にはなった、よね?」
[newpage]
自分にしかできぬ使命。
それは、朱夏様の生まれ変わりを見つけ出すこと。
梟は今までとは別の視点から、人間たちを観察し始めた。
妖怪の気配を持つ者ではない。
妖怪を見るための道具を持たず、それでも妖怪を認識できる者。
最初に見つけたのは、未空イナホだった。
彼女の腕には妖怪ウォッチがない。
それにもかかわらず、隣を歩く妖怪へ話しかけ、返事を聞いて笑っている。
「道具を持たずして、妖怪を見ておる……」
梟の目が鋭く細められた。
次に見つけたのは、犬山まな。
彼女もまた、何の道具も持たぬまま、鬼太郎や猫娘と自然に言葉を交わしていた。
猫娘を「猫姉さん」と呼ぶ声音には、長く離れていた家族へ向けるような親しさがある。
「あの娘も……妖怪と深い縁を持つか」
候補は一人ではなかった。
そして三人目。
#兔谷#朔夜。
妖怪探偵団の者たちと歩く少年は、傍らにいる妖怪の言葉へ何の迷いもなく返事をしていた。腕に妖怪ウォッチはない。
それだけではない。
目を凝らせば、その身に微かだが重く静かな妖気が残っている。
女郎蜘蛛の一件で聞いた、四神――玄武の力。
胸元からは、青い宝石の不可思議な気配も漂っていた。
「妖怪を見るのみならず、四神をその身へ宿す者……」
だが、あの者は少年だ。
一度は否定しかけ、梟は考え直す。
「転生とは、かつてと同じ姿で生まれることではない。姫君が男児として転生する可能性とて、否定はできぬ」
イナホ。
まな。
朔夜。
三人とも、普通の人間にはないものを持っている。
「一人であれば、その者こそ姫君と判断できた。されど……」
自分では、選べない。
ならば。
[chapter:「私に見分けられぬのであれば、酒呑童子様にお確かめいただけばよい」]
梟の中で、答えがつながった。
三人へ事情を話せば、拒まれるかもしれない。
仲間へ知らせれば、また邪魔が入る。
ならば三人を同時に確保し、酒呑童子の御前へ連れていけばいい。
姫君の可能性を持つ者たちを保護するのだ。
多少強引な手段になろうとも、やむを得ない。
[newpage]
夜。梟は三人の名と行動を記した紙を広げた。
未空イナホ。
犬山まな。
#兔谷#朔夜。
「今度こそ、酒呑童子様のお役に立ってみせる」
その顔には、久しく失っていた希望が戻っていた。
「姫君の候補、三人すべてを――必ず、あの御方の御前へお連れする」
窓の外で、不穏な風が鳴った。
だが梟は、それを吉兆と信じて疑わなかった。