ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#百五十六話

満月家で予言書を調べた翌日の放課後。

#朔夜は、まなに呼び出されて駅前の喫茶店へ来ていた。

店内を見回すと、窓際の席に座っていたまなが、こちらへ大きく手を振る。

「#朔夜ちゃーん! こっち、こっち!」

周囲の客が一斉に振り返った。

#朔夜は少しだけ肩をすくめ、まなの向かいへ座った。

「こんにちは、まなさん」

「こんにちは。急に呼び出してごめんね」

「大丈夫です。今日は特に予定もありませんでしたから」

正確には、昨日見た予言書について考えたい気持ちはあった。

アルキメデス。

太陽。

月。

月のチカラ。

専門家と未来の道具を総動員して分かったのが、その四つだけである。考えたところで答えが出る気はしなかったので、予定がなかったという表現でも間違いではないだろう。

注文を終えると、まなは両手を膝に置き、少し改まった表情を浮かべた。

「まずは、この前のお礼を言いたかったの」

「この前?」

「ハロウィンの時。吸血鬼に襲われた私を庇ってくれたでしょう?」

「あれは……身体が勝手に動いただけです」

「それでも、ありがとう。#朔夜ちゃんまで怪我をしていたかもしれないのに」

まなは深く頭を下げた。

#朔夜は慌てて首を横に振る。

「頭を上げてください。結局、アニエスさんが助けてくれましたし」

「それと、猫姉さんたちのことも思い出せた」

まなの表情が、柔らかなものへ変わる。

「ずっと大切なものを忘れていたはずなのに、忘れていたこと自体に気づいてなかったんだよね。今思うと、ちょっと怖いな」

「……そうですね」

忘れていたことに気づけない。

その言葉は、#朔夜の胸にも残った。

美夜子やのび太たちも、過去に会っていたような感覚を持ちながら、何も思い出せずにいる。それがただの偶然なのか、誰かに奪われた記憶なのかは分からない。

[newpage]

しばらくして飲み物が運ばれてくると、まなは気持ちを切り替えるようにストローへ口をつけた。

「そういえば、#朔夜ちゃんって小学六年生なんだよね?」

「はい」

「じゃあ、来年は中学生かぁ」

「まだあまり実感はありませんけど」

「大丈夫! 中学校について分からないことがあったら、私に聞いてね。これでも高校生だから!」

まなが自信満々に胸を張る。

「まなさんは、かなり先輩なんですね」

「“まな先輩”って呼んでもいいんだよ?」

「え」

「一回だけ!」

まなは期待に満ちた目で、朔夜を見つめた。

#朔夜は数秒ほど迷った末、小さく息を吐く。

「……まな先輩」

「わあ、なんか照れる!」

「言わせたのは、まな先輩ですよね?」

「もう一回言ってくれた!」

まなが嬉しそうに笑う。

#朔夜も、つられるように僅かに笑みを浮かべた。

「でも、私の方が先輩なのって学校のことだけかも」

「妖怪についても、まな先輩の方が詳しいと思います」

「そこも先輩なのかな……」

「僕より長く、妖怪事件に巻き込まれていますよね?」

「言い方!」

まなは苦笑した。

「私だって、好きで巻き込まれてるわけじゃないんだよ?」

「僕もです」

二人は顔を見合わせた。

自分から妖怪や怪物を探しに行ったわけでもない。

それなのに、気づけば妖怪、魔女、神、宇宙人らしきものにまで囲まれている。

「#朔夜ちゃんの周りも、すごい人ばっかりだよね。ドラえもんたちに、妖怪探偵団、それから不動明王まで」

「最近は、僕も誰に相談すればいいのか分からなくなってきました」

「私は何かあったら、まず猫姉さんかな。すごく心配してくれるから」

「猫娘さんは、まな先輩のことを大切にしていますよね」

「うん。でも、ちょっと心配性すぎる時もあるけど」

まなはそう言いながら、どこか嬉しそうだった。

その時、テーブルの上に置かれたスマートフォンが短く震えた。

「あ、また何か話題になってる」

まなが画面を開く。

数秒後、その目が大きく見開かれた。

「#朔夜ちゃん、これ見て!」

差し出された画面には、夕暮れ時の湖面を撮影した短い動画が表示されていた。

水面から伸びているのは、細長い首のような黒い影。

投稿には、大きな文字でこう書かれている。

『琵琶湖にネッシーが現れた!?』

『巨大な謎の生物を釣り人が撮影!』

「ネッシー……ですか」

「すごくない? 本物かな?」

映像はかなり遠くから撮られており、画質も荒い。黒い影が生き物なのか、流木なのかさえ判別できなかった。

「ネッシーは、イギリスのネス湖にいる生き物では?」

「琵琶湖に来たのかもしれないよ」

「移住したんですか?」

「それか、琵琶湖のネッシーだから……ビワッシー!」

「急にゆるキャラみたいになりましたね」

コメント欄にも、同じような意見が大量に並んでいる。

合成だ。

流木だ。

大きな魚に違いない。

本物の未確認生物だ。

現地へ確認に行くという投稿まであった。

「猫姉さんに送っておこうかな」

まなは動画の共有ボタンを押した。

「妖怪かどうか、分かるかもしれないし」

「僕もドラえもんに見せてみます」

「今から琵琶湖に行ったりする?」

「行きません」

#朔夜は即答した。

「動画だけでは何も分かりませんし、琵琶湖はすぐに行ける場所ではないですから」

「だよね。私も今日は門限があるし」

こうして、琵琶湖の怪物については、それぞれ知り合いへ情報を送っておくことになった。

飲み物を飲み終えた二人は店を出る。

日は傾き始め、駅前の通りには冷たい秋風が吹いていた。

[newpage]

「今日はありがとう、#朔夜ちゃん」

「僕の方こそ。楽しかったです、まな先輩」

「また言ってくれた!」

「呼んでいいと言ったのは、まな先輩です」

楽しそうに話しながら歩いていた、その時だった。

不意に、風が止んだ。

街路樹の葉も、店先の旗も動かなくなる。

まなが不思議そうに空を見上げる。

「……あれ?」

次の瞬間。

ゴウッ、と音を立て、凄まじい突風が二人を襲った。

「きゃっ!」

まなの長いスカートが大きく揺れ、彼女は慌てて裾を押さえる。

#朔夜も片腕で顔を庇った。

風は一度では終わらない。

落ち葉や紙くずを巻き上げながら、二人の周囲を円を描くように吹き続ける。

「何、この風……!」

「まな先輩、僕の後ろへ!」

#朔夜は風の中心へ目を向けた。

自然の風ではない。

明らかに意思を持ち、二人の周りだけを回っている。

「妖怪かな?」

「風を操る妖怪なら、鎌鼬かもしれません」

「鎌鼬!?」

まなの表情が引き締まる。

腕や脚に切り傷はない。だが、いつ風の刃が飛んでくるか分からない。

#朔夜は武器を持っていなかったが、いつでもまなを庇えるよう身構えた。

風の渦の中心に、小さな青い影が見えた。

「来ます!」

#朔夜が叫んだ直後、その影が勢いよく飛び出した。

しかし、襲いかかってくる様子はない。

青い影は空中で一度回転すると、そのまま朔夜の胸元へ飛び込んできた。

「えっ?」

反射的に両腕で受け止める。

それは、青い毛に覆われた小さな生き物だった。

丸い身体に、風を思わせる不思議な姿。

生き物は朔夜の服へしがみつき、怯えたように小さく震えている。

「フー……」

風が静まった。

巻き上げられていた落ち葉が、ぱらぱらと地面へ落ちていく。

まなはスカートの裾から手を離し、恐る恐る近づいた。

「……鎌鼬?」

「違うと思います」

「妖怪かな?」

「分かりません」

#朔夜は生き物の様子を確認する。

目立った傷はない。しかし、酷く疲れているようだった。

「大丈夫?」

驚かせないよう、ゆっくりと頭へ手を伸ばす。

生き物は逃げなかった。

それどころか、#朔夜の手へ自分から頭を押しつける。

「フー……」

「すごく懐いてるね」

「僕にも理由は分かりません」

「#朔夜ちゃん、動物に好かれやすい?」

「犬や猫は、よく寄ってきます」

「やっぱり」

まなが笑う。

#朔夜は腕の中の生き物を見つめた。

普通の動物ではないだろう。

先ほどまで風を操り、今は人の言葉を理解しているようにこちらを見上げている。

「もしかして……ドラえもんのひみつ道具でしょうか」

「こんなに生き物みたいな道具があるの?」

「喋ったり、自分で動いたりする道具もありますから」

「未来って、何でもありなんだね……」

まなは妙に納得した。

「ドラえもんに聞けば分かるかもしれません」

「じゃあ、連れていってあげよう」

#朔夜が腕を緩めると、生き物はふわりと浮き上がった。

逃げるのかと思ったが、朔夜の肩へ乗り、髪へ身体を寄せる。

「完全に朔夜ちゃんを気に入ってるね」

「僕は何もしていないんですけど」

「フー!」

生き物は元気よく鳴いた。

[newpage]

二人は生き物を連れ、のび太の家を訪れた。

玄関で事情を話すと、のび太の母親が二階へ通してくれる。

#朔夜の肩に乗った生き物は、家の中を興味深そうに見回していた。

「ドラえもん、のび太君。いる?」

「いるよ!」

部屋の中からドラえもんの声が返ってくる。

襖を開けると、ドラえもんとのび太が床に広げた漫画を片づけながら、こちらを振り返った。

「#朔夜に...まなさん!?。どうしたの?」

「途中でこの子を見つけたんだ」

#朔夜は肩を指した。

「風を操るので、ドラえもんのひみつ道具かと思ったんだけど……」

ドラえもんが、生き物を見る。

その動きが止まった。

「……え?」

のび太も、#朔夜の肩へ目を向ける。

漫画が、手から滑り落ちた。

青い生き物もまた、のび太を見つめたまま動かなくなる。

長い沈黙の後。

のび太の唇が、小さく震えた。

「……フー子?」

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