[冬至祭]
冬至には太陽の力が最も弱まった日を無事過ぎ去ったことを祝って、世界各地で冬至祭が祝われる。クリスマスも、イラン発祥のミトラ教の冬至祭儀やドイツ北欧のキリスト教以前のゲルマン人の冬至祭がキリスト教と混淆してできたものである。 イランではイスラム化した現在でもゾロアスター教の名残でヤルダーを祝う。(ウィキペディアより引用)
翌日の放課後。
#朔夜は、サンタクロースについて調べるため、図書館へ向かっていた。
昨夜のグループチャットは、日付が変わりそうになっても通知が鳴りやまなかった。
のび太とスネ夫の議論に、ドラえもんたちだけでなく妖怪探偵団まで加わった結果、サンタクロースが実在するかどうかという話は、いつの間にか聖ニコラウスの生涯や、外国における冬の祭り、チョコボーの限定商品へと脱線していた。
結局、答えらしい答えは何一つ出ていない。
「自分で調べた方が早いかも……」
#朔夜がそう呟きながら駅前を歩いていると、向かいから見覚えのある少女がやってきた。
「あれ、#朔夜ちゃん?」
「まな先輩」
まなは学校帰りらしく、制服姿で鞄を肩に掛けていた。
「今日は一人? どこかに行くの?」
「図書館です。サンタクロースについて調べようと思って」
「本当に調べることにしたんだ……」
まなは驚いたあと、少し楽しそうに笑った。
「昨日の連絡、急だったからびっくりしたよ。誰かほかの人にも聞いたの?」
「零さんに聞きました」
「……零?」
まなの笑顔が止まる。
「石動零さんです」
「なんでアイツの連絡先知ってるの!?」
突然の大声に、朔夜は肩を揺らした。
「前の事件の時に交換しました」
「しかも普通に連絡を取ってるの!?」
「サンタクロースについて聞いただけですけど……」
「それでもだよ!」
まなは頭を抱えた。
#朔夜にとって零は、口調は乱暴だが、危険な時には助けてくれる年上の人物だった。
一方のまなにとっては、過去に大きな事件を起こし、鬼太郎たちを散々振り回した相手である。
二人の認識には、かなりの差があるらしい。
「なんて返ってきたの?」
「『知らん』って」
「まあ、アイツならそう言うよね」
「そのあと、熱でもあるのかって聞かれました」
「アイツが人の体調を心配したの!?」
「そこまで驚くことですか?」
「驚くよ!」
まなは#朔夜の両肩へ手を置く。
「#朔夜ちゃん、あいつに変なことを吹き込まれてない?」
「今のところは」
「今のところって何!?」
#朔夜には、なぜそこまで警戒されているのか分からなかった。
まなはしばらく唸っていたが、やがて何かを思いついたように顔を上げる。
「アイツなんかに聞くより、鬼太郎や猫姉さんに聞いた方がいいよ」
「鬼太郎さんたちに?」
「うん。サンタさんが普通の人間じゃないなら、妖怪や外国の怪異に詳しい鬼太郎たちの方が何か知ってるかも」
確かに、一理ある。
図書館で本を読む前に、長く生きている妖怪たちから話を聞くのも悪くない。
「じゃあ、ゲゲゲの森へ行ってみます」
「私も行くよ。久しぶりに猫姉さんたちに会いたいし」
二人は行き先を変更し、ゲゲゲの森へ向かうことにした。
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人通りの多い商店街を抜けたところで、二人は猫娘と出会った。
「猫姉さん!」
「まな?」
猫娘は人間の町から森へ帰る途中だったらしく、まなの隣にいる朔夜を見て目を丸くする。
「#朔夜も一緒なのね」
「こんにちは」
「二人でどこへ行くの?」
「ゲゲゲの森です。サンタクロースについて、鬼太郎さんたちに聞こうと思って」
「サンタクロース?」
猫娘は少し考える。
「そうねぇ……日本でクリスマスを祝うようになったのって、いつ頃だったかしら」
「猫姉さんも、サンタさんを見たことないの?」
「ないわよ。そもそも、クリスマスにそこまで興味を持ったことがないし」
そう答えながら、猫娘は街を見回した。
商店街にはクリスマスの装飾が並び、あちこちを男女の二人連れが歩いている。
楽しそうに寄り添うカップルを目にするたび、猫娘の脳裏には鬼太郎の顔が浮かんだ。
きっと鬼太郎は、クリスマスの日も普段と変わらず、妖怪ポストへ届いた手紙を読んでいるのだろう。
猫娘は小さく眉をひそめた。
――リア充なんて爆発すればいいのに。
「猫姉さん?」
「何でもないわ!」
不思議そうに覗き込むまなから顔を背ける。
その時、背後から派手なクラクションが鳴り響いた。
三人が振り返ると、光沢のある自動車が道路を走っていた。
速度が速いだけではない。
歩道の近くを歩いていた男女へわざと車体を寄せ、驚いて離れた二人を見てから再び加速していく。
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「危ない……」
まなが息を呑む。
車は次の角でも、別のカップルの近くへ寄ってクラクションを鳴らした。
#朔夜はその動きを目で追った。
「さっきから、二人で歩いてる人ばかり狙ってない?」
「まさか、わざとやってるの?」
猫娘のこめかみに青筋が浮かぶ。
「ちょっと! 危ないでしょ! 止まりなさい!」
猫娘の怒声を聞き、自動車が急停止した。
運転席の扉が開く。
「誰かと思えば、猫娘じゃねえか」
降りてきたのは、出っ歯と髭が目立つ、小柄な男だった。
派手なコートを着込み、首には趣味の悪い金色の鎖を下げている。
「ねずみ男!」
「せっかく景気よく走ってたのに、でかい声を出すなよ」
「何が景気よくよ! 人を轢くところだったでしょ!」
#朔夜は猫娘と男を交互に見た。
「知り合いですか?」
「知り合いというか、見つけるたびに問題を起こしてる奴よ」
「初対面の子に余計なことを吹き込むんじゃねえ!」
ねずみ男は朔夜を見たあと、急に商売人らしい笑顔を浮かべた。
「そうだ。お前さん、好きな相手はいないか? 今ならクリスマス限定、恋愛成就のお守りを特別価格で売ってやるぜ」
懐から取り出したのは、安っぽい布で作られた小さなお守りだった。
「恋愛成就?」
「持ってるだけで、意中の相手と急接近! クリスマスを一人で過ごさずに済む、ありがたーいお守りだ!」
「どうせ、何の効果もない偽物でしょ」
猫娘が冷たく言い放つ。
「人聞きの悪いことを言うな! 買った奴が信じれば、少しくらい積極的になれるかもしれねえだろ!」
「それ、お守りの効果じゃないよね?」
まなが指摘する。
猫娘はねずみ男の派手な服と自動車を睨んだ。
「その車も、お守りを売ったお金で手に入れたの?」
「借りただけだ。商売人には見栄も必要だからな」
「それで、どうしてカップルばかりを狙って運転してたのよ」
ねずみ男の目が泳ぐ。
「べ、別に狙ってなんか――」
「明らかに狙ってた」
#朔夜が真顔で告げる。
「うっ……」
「恋愛成就のお守りを売ってるくせに、カップルを別れさせようとしてるわけ?」
猫娘が詰め寄ると、ねずみ男は開き直ったように鼻を鳴らした。
「別れがあれば、新しい恋も始まるだろ?」
「まさか……」
「新しい恋が始まれば、恋愛成就のお守りが必要になる。需要ってのは、待ってるだけじゃ駄目なんだ。自分で作るもんなんだよ!」
「最低!」
猫娘の拳が震える。
まなは呆れ、#朔夜はねずみ男を見つめた。
「……この人、かなり駄目な人では?」
「初対面で正しく理解できたわね」
「うるせえ!」
猫娘が捕まえようと一歩踏み出す。
その瞬間、ねずみ男は懐から大量の紙片を放り投げた。
「恋愛成就のお守り、今なら二つで一万円だ!」
「高っ!」
まなが思わず紙片へ目を向ける。
その一瞬の隙に、ねずみ男は運転席へ飛び乗った。
「あばよ! 商売の邪魔をされちゃ困るんでね!」
「待ちなさい!」
自動車は乱暴に発進し、あっという間に走り去ってしまった。
「逃げ足だけは速いんだから!」
猫娘はしばらく道路の先を睨みつけていた。
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ゲゲゲの森へ向かう間も、猫娘の怒りは収まらなかった。
「人の恋愛を壊して、その相手へお守りを売りつけようなんて、最低にもほどがあるわ!」
「猫姉さん、すごく怒ってるね」
「当たり前でしょ!」
#朔夜は少し考えたあと、猫娘へ尋ねる。
「猫娘さんも、恋愛成就のお守りが欲しいんですか?」
「い、いらないわよ!」
猫娘が勢いよく否定する。
その顔が僅かに赤くなったのを見て、まなは楽しそうに笑った。
「何よ、その顔!」
「何でもないよ、猫姉さん」
#朔夜だけは、なぜまなが笑っているのか分からなかった。
森へ到着すると、鬼太郎たちは妖怪ポストの近くに集まっていた。
「サンタクロース?」
事情を聞いた鬼太郎は、首を傾げた。
「名前は聞いたことがあるけど、気にしたことはないなあ」
「鬼太郎でも会ったことないの?」
「少なくとも、僕はないよ」
目玉おやじも不思議そうに#朔夜を見上げる。
「その、さんたくろーすとは何者なんじゃ?」
「クリスマスの夜に、子どもたちへプレゼントを配る人です」
「なぜ、そのようなことをするんじゃ?」
「……僕にも分かりません」
目玉おやじも腕を組んだ。
「異国の神か、土地に根差した精霊の類いじゃろうか」
「それが分からないから聞きに来たのよ」
猫娘がため息をつく。
「空飛ぶソリなら、どこかですれ違ったことがあるかもしれんばい」
一反もめんが言ったが、いつ、どこで見たのかまでは覚えていなかった。
子泣きじじいは酒が飲める祭りなのかと尋ね、砂かけばばあに頭を叩かれた。
ぬりかべは、いつも通り何も言わない。
結局、長く生きている鬼太郎ファミリーなら何か知っているのではないかという期待に反し、詳しい者は一人もいなかった。
帰り道。
「思ったより、何も分からなかったね」
まなが苦笑する。
「うん」
#朔夜は調査用に用意した小さなノートを開いた。
そこに書かれているのは、鬼太郎たちの曖昧な証言と、ねずみ男の恋愛成就商売についてだけだった。
「ねずみ男さんの話、サンタクロースと関係ないですよね」
「ないわね」
「でも、書いたんだね」
「一応」
サンタクロース調査の一日目。
収穫は、ほとんどなかった。