ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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魔方陣はね、クトゥルフのような神格存在を呼び出しかねないんです。だからアデルが止めた。ナイス。
悪魔が召喚される可能性もあるし。その場合は供物が要求されますしね。


#百六十二話

クリスマスイブの朝。

目を覚ました#朔夜がスマートフォンを確認すると、昨夜送ったメッセージに返信が届いていた。

送り主はアニエスだった。

『返事が遅くなってごめんなさい。古い魔術書を調べていたの』

『サンタクロースを呼び出せるかもしれないわ』

『できるだけ多くの人を集めて。有星神社を借りられる?』

寝起きの1#朔夜は、しばらく画面を見つめた。

「……呼び出す?」

#朔夜が聞きたかったのは、サンタクロースが本当に存在するかどうかである。

どうして返事が来るまでの間に、召喚する話へ発展しているのだろう。

しかし、サンタクロースの実在を調べるという目的には合っている。

#朔夜はまずナツメへ連絡した。

『アニエスさんが、サンタクロースを呼び出せるかもしれないそうです』

すぐに既読がつく。

『……呼び出す?』

アキノリも同じ反応だった。

『有星神社を使いたいと言ってるんですけど』

『おババに聞いてみる。たぶん大丈夫』

続いて、ドラえもんたちと妖怪探偵団のグループチャットへ知らせる。

『今日、アニエスさんが有星神社でサンタクロースの召喚を試すそうです』

送信直後から、通知が鳴り始めた。

『本当に!?』

のび太。

『魔法陣からサンタが出てくるわけないだろ』

スネ夫。

『プレゼントを直接頼めるのか?』

ジャイアン。

『そこが目的じゃないと思うわ』

しずか。

『サンタ召喚って、妖怪召喚みたいな感じ?』

ケータ。

『たぶん違うよ』

トウマ。

『何が必要!? 靴下!? 煙突!? トナカイの餌!?』

アキノリ。

#朔夜は、画面を流れていくメッセージを眺めた。

「もう嫌な予感がする……」

[newpage]

午後。

有星神社の境内には、予想以上の人数が集まっていた。

#朔夜、ドラえもん、のび太、しずか、ジャイアン、スネ夫。

妖怪探偵団からはナツメ、トウマ、アキノリ、ケータ。

さらに、まなと満月美夜子も来ている。

そしてナツメの隣には、見覚えのない少年が立っていた。

「姉ちゃん、本当にサンタを呼ぶの?」

「私が呼ぶわけじゃないよ」

「でも、神社を使うんだろ?」

「アニエスが魔法を使うの」

「アニエスって誰?」

ナツメが説明しようとしたところで、境内の奥から金髪の少女が大きな箱を抱えて現れた。

「遅くなってごめんなさい! 準備に手間取ってしまって」

「あの人がアニエス」

「……魔女の格好をしてるけど」

「本物の魔女だよ」

「本物!?」

少年が目を丸くする。

ナツメは朔夜たちへ少年を紹介した。

「弟のケースケ。何をするのか気になるって、ついてきたの」

「こんにちは」

#朔夜が声をかけると、ケースケも戸惑いながら頭を下げた。

「こ、こんにちは……」

ケースケは周囲を見回した。

青い狸のようなロボット。外国人の魔女。知らない小学生たちに、高校生らしい少女。難しそうな観測器具を持った満月美夜子。

ナツメが普段から一緒に行動しているトウマやアキノリ以外、知らない者ばかりだった。

「姉ちゃんの知り合い、多すぎない?」

「これでも今日は少ない方かな」

「これで!?」

その時、神社の階段を駆け上がる足音が聞こえた。

「間に合いましたー!」

眼鏡をかけた少女が、両手に機械を抱えて現れる。その隣には、ケースケには見えていない小さな妖怪が飛んでいた。

「サンタクロース召喚作戦と聞いて、この未空イナホ、観測機材一式を持って参上です!」

「……どうしてここにいるの?」

#朔夜が尋ねた。

「未知に関する情報は、自然と私のもとへ集まってくるのです!」

「ケータが、帰り道に独り言で『明日はサンタ召喚か』って呟いてたのを聞いただけダニ」

USAピョンが即座に真相を明かした。

「え、俺!?」

ケータが自分を指差す。

「独り言まで聞かれてたの!?」

「『サンタ召喚』という単語を聞き逃すわけにはいきません!」

「普通は聞き流すと思うよ」

トウマが冷静に言った。

ケースケは、突然現れたイナホと、誰もいない空間から聞こえた声に視線をさまよわせる。

「今、誰か喋った?」

「USAピョンです!」

イナホが何気なく答える。

「また姉ちゃんが何もいないところと話してる……って、この人たち誰!?」

「私は未空イナホです!」

「そこは見えてる!」

「そしてこちらが相棒のUSAピョン!」

「そっちは見えない!」

ケースケは早くも頭を抱えた。

[newpage]

アニエスは境内へ、召喚に使う道具を並べていった。

赤と白の蝋燭。柊の葉。小さな鈴。星形の飾り。靴下。牛乳と焼き菓子。

それらを中心に置き、地面へ複雑な魔法陣を描く。

美夜子が屈み込み、魔法陣を興味深そうに観察した。

「北の空を示す記号と、冬至に関係する天体記号が混ざっているみたい」

「聖夜に現れる存在を、贈り物と願いを媒介に呼び寄せる術式なの」

アニエスは古びた魔術書を開いた。

「この時期、世界各地で正体不明の魔力が観測されることがあるわ。私自身はサンタクロースに会ったことはないけど、その魔力へ呼びかければ、何か反応があるかもしれない」

「正体不明の魔力……やはり宇宙船の転送エネルギーですね!」

イナホが観測機器の電源を入れる。

「どうして魔力が宇宙船になるダニ!」

USAピョンの声だけがケースケには聞こえたらしく、少年は再び周囲を見回していた。

のび太は魔法陣を見つめ、期待に目を輝かせている。

「これで、本当にサンタさんが来るんだね!」

「まだ成功すると決まったわけじゃないわ」

アニエスは念を押した。

「それと、絶対に魔法陣の線を踏まないで。術式が乱れるから」

その場にいた全員の視線が、ジャイアンとイナホへ集まった。

「なんで俺を見るんだよ!」

「観測のためには、可能な限り近くへ――」

「近づかないで」

#朔夜が先に止めた。

「分かりました……」

イナホは残念そうに一歩下がった。

一同が魔法陣から距離を取る。

アニエスは中央へ立ち、杖を掲げた。

そして、魔術書に記された呪文を唱え始める。

それは聞き慣れない外国語のようでもあり、風や鈴の音を言葉にしたようにも聞こえた。

#朔夜にも、何を言っているのかほとんど聞き取れない。

やがて、蝋燭の炎が一斉に揺れ始めた。

誰も触れていない鈴が、小さく鳴る。

境内を冷たい風が通り抜け、地面に描かれた線が淡い光を放った。

「反応があります!」

イナホが小声で叫ぶ。

「通常とは異なるエネルギー波形です!」

「本当に来るんだ……」

のび太は息を呑んだ。

魔法陣の中央に、赤い光が集まっていく。

人の輪郭のようなものが、ぼんやりと浮かびかけた。

[chapter:「アニエス! 何をしている!」]

鋭い声とともに、銀髪の女性が空から降り立った。

「お姉ちゃん!?」

驚いたアニエスの詠唱が止まる。

アデルは魔法陣と、開かれた魔術書を見て顔をしかめた。

「私の返事を待たずに、未完成の召喚術を使ったな!」

「だって、クリスマスイブは今日なのよ! 調べ終わるのを待っていたら間に合わないわ!」

「だからといって、呼び出す対象も確定していない術式を使うな!」

「サンタクロースを呼ぶ術式でしょう?」

「正確には違う。この術式が接続するのは、聖夜に贈り物を運ぶ“力”だ。何が現れるか分からない!」

「でも、あと少しで何か来そうだったの!」

二人が言い争う間にも、魔法陣の光は不安定に明滅している。

「アニエスさん、光が……」

#朔夜が声をかけた時には遅かった。

赤い光が大きく膨らみ、弾ける。

「きゃっ!」

突風が吹き、蝋燭の火がすべて消えた。

鈴と星形の飾りが地面へ転がる。

魔法陣から光が失われた。

そこには、何も現れていなかった。

[newpage]

境内に沈黙が落ちた。

ケースケは目を白黒させている。

「今の……何だったの?」

「召喚失敗かな」

ナツメが答える。

「姉ちゃん、その言葉を普通に使わないでよ!」

スネ夫は腕を組み、得意げに鼻を鳴らした。

「それ見ろ! 何も出てこなかったじゃないか!」

「途中で止められたからだよ!」

のび太が反論する。

「本当にサンタがいるなら、魔法で呼び出さなくても今夜来るだろ」

「それは……」

のび太の声が小さくなる。

召喚できれば、サンタクロースの存在を証明できる。

そう信じていた分、何も現れなかったことが堪えたらしい。

「やっぱり、サンタさんはいないのかな……」

#朔夜は声をかけようとしたが、何と言えばよいか分からなかった。

妖怪へ聞いても分からなかった。

本を調べても、伝承しか見つからなかった。

魔法を使っても、サンタクロースは現れなかった。

隣にいたドラえもんも、落ち込んだのび太を見つめていた。

やがて何かを思いつき、四次元ポケットへ手を入れる。

「サンタさんを呼び出すひみつ道具はないけど……」

「けど?」

のび太が顔を上げる。

「せめて、クリスマスらしい景色にはできるかもしれない」

ドラえもんが取り出したのは、丸い本体にアンテナと複数のつまみが付いた、見慣れない機械だった。

「それも、ひみつ道具なの?」

しずかが尋ねる。

「正確には、クルトとヒャッコイ博士が共同で作った試作品なんだ」

「クルトさんが?」

ドラえもんは機械を地面へ置いた。

「ブリザーガみたいな強い寒気や吹雪に対抗するために、二人が開発した気象制御装置だよ。空気中の水蒸気や冷気を集めたり、逆に分散させたりできるんだ」

「そんな物をどうするの?」

アデルが警戒するように装置を見る。

「出力を最低にすれば、この辺りに少しだけ雪を降らせられると思う」

「ホワイトクリスマスにできるの!?」

のび太の顔が僅かに明るくなった。

「試作品だから、本当に少しだけだよ」

「試作品を人の集まる場所で使うのか?」

アデルの指摘に、ドラえもんは視線を逸らす。

「最低出力なら大丈夫……だと思う」

「今、少し不安な言い方しなかった?」

#朔夜が尋ねる。

だが、ドラえもんは答えず、装置の電源へ手を伸ばした。

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