妖怪ポスト。
人知れず置かれたそのポストは、人間にも妖怪にも開かれている。
困った時。
不思議なことに巻き込まれた時。
誰かが縋るように投函した手紙は、時折、鬼太郎達の元へ届く。
だが最近、その内容には妙な共通点があった。
[newpage]
[chapter:『気づけば知らない町にいた』]
[chapter:『昨日まで一緒だった友達がいなくなった』]
[chapter:『探してください』]
[chapter:『帰ってきたけど、何も覚えていない』]
一件なら偶然。
二件でもまだ分かる。
だが、短期間でここまで続けば話は別だった。
[newpage]
目玉おやじは積み上がった手紙を眺め、小さく腕を組む。
『……多いのう』
鬼太郎は一通を手に取った。
差出人の名前。
裕太。
内容は簡潔だった。
友達が突然いなくなった。
警察も探している。
でも、普通の迷子じゃない気がする。
見つかった子供の話も聞いた。
町が違う。
時間もおかしい。
だから——妖怪かもしれない。
鬼太郎は黙って便箋を畳んだ。
『行ってみるか』
目玉おやじが頷く。
『空間を渡る妖怪という線もある』
[newpage]
それから数日。
鬼太郎達は手紙を頼りに各地を巡った。
何もない場所。
古い神社。
路地裏。
共通していたのは一つ。
わずかな妖力。
普通の人間なら絶対に気づかない程度。
だが鬼太郎の妖怪アンテナは違った。
風もないのに髪が揺れる。
微かな違和感。
それを繋ぎ合わせた先。
辿り着いたのは月見台町だった。
『この辺りで反応が強くなってる』
鬼太郎が呟く。
猫娘は辺りを見回した。
『私は情報集めてくる』
地域猫なら、人間が気づかないことも見ている。
[newpage]
猫娘は近くで日向ぼっこしていた猫達へ近寄った。
『ねぇ、最近変なことなかった?』
猫達は一斉に顔を上げた。
『また来たニャ?』
『前にも聞かれたニャ』
『変な猫ニャ』
猫娘は首を傾げる。
『……変な猫?』
『丸かったニャ』
『青かったニャ』
『道具出してたニャ』
『猫なのに猫じゃなかったニャ』
意味が分からない。
『名前は?』
猫達は沈黙した。
しばらく考えて。
『……忘れたニャ』
『興味ないニャ』
『鈴ついてたニャ』
猫娘は頭を抱えた。
全然参考にならない。
[newpage]
それでも話を聞き続けると、一つだけ共通点があった。
『山の方ニャ』
『黒いドアがあったニャ』
『みんなそこ行ってたニャ』
黒いドア。
猫娘の表情が変わる。
[newpage]
山奥。
草木をかき分け進む。
そこにあった。
不自然なほど綺麗な、黒い扉。
森の中に立っている。
鬼太郎はしばらく観察した。
妖怪の気配。
空間の揺らぎ。
そして——向こう側。
『開くぞ』
取っ手を回す。
音もなくドアが開いた。
その先。
広がっていたのは知らない森だった。
[newpage]
空気が違う。
匂いが違う。
何より妖気が濃い。
目玉おやじが目を細める。
『異界……か』
鬼太郎は地面を見る。
追っていた妖力。
今までより遥かに濃い。
『近い』
鬼太郎達は進む。
やがて一反木綿に乗り、上空へ。
空から追跡する。
妖力の痕跡は一直線だった。
進むほど強くなる。
やがて。
森が途切れた。
その先に見えたのは神社。
そして——人影。
鬼太郎は目を細めた。
人間。
妖怪。
囲まれている一体。
その中心にいたのは。
毛並みを乱し、縮こまるムジナだった。
既に戦意はない。
[newpage]
だが。
囲んでいる側は違った。
誰かが前に出る。
空気が張る。
鬼太郎は眉を寄せた。
一反木綿から身を乗り出す。
『……やめるんだ!』
その声と同時に。
鬼太郎は空から飛び降りた。