その当たりから夜な夜な小豆を洗うような音がしたから成立したんだって。
恐らく、風通しが良すぎて夜風で動いてたのかな。(科学で言うと)
いろんな物語でも言われているけど、『妖怪はヒトの想像から生まれる』ってことを忘れないで欲しいな。
夜の神社。
結界の中。
感電して黒焦げ気味のムジナは、その場にへたり込んでいた。
涙目。
鼻も赤い。
色々限界だった。
鬼太郎は静かにしゃがみ込む。
「みんなから聞いたよ」
ムジナの肩が跳ねた。
しばらく沈黙。
鬼太郎は静かな声で聞いた。
「……また、脅されたのか?」
静寂。
その一言に、朔夜の眉がわずかに動く。
(……また?)
その言い方。
初めてじゃないみたいだった。
ムジナは俯く。
数秒。
ゆっくり首を横に振った。
[newpage]
否定。
空気が少し変わる。
鬼太郎は目を細めた。
「じゃあ」
「今回は、自分の意志でやったのか?」
ムジナが震える。
迷う。
少し俯く。
そして――小さく頷いた。
空気が重くなる。
のび太が息を飲む。
しずかも黙る。
だが。
次の瞬間。
「で、でも!!」
ムジナが顔を上げた。
「ここまでやるつもりじゃなかったんだ!!」
全員が見る。
ムジナは必死だった。
[newpage]
「突然、目の前に黒い扉が出てきて……!」
「気になって……くぐったんだ!」
「そしたら知らない町にいて……!」
「戻ろうとした時には扉が消えてた!!」
沈黙。
風が吹く。
ムジナは続ける。
「帰れないし!」
「知らない奴ばっかりだし!」
「怖くて!」
「最初は……ちょっと悪戯するだけだった!」
声が震える。
「道を迷わせて」
「困らせて」
「そのうち帰れるかと思った……!」
「でも……」
俯く。
「気いたら……」
「やめられなくなってた……」
静寂。
鬼太郎はムジナを見る。
「それが、人間達を襲った理由?」
ムジナは顔を歪めた。
「……う」
「最初は違ったんだ……!」
「でも……」
「止まらなくなった……」
沈黙。
その時。
ガン。
地面を叩く音。
ジャイアンだった。
どこから出したのか、バットを肩に乗せている。
「それが理由になるのかよ」
低い声。
前へ出る。
「困ったから人を巻き込んだ?」
「ふざけんなよ」
ムジナが縮こまる。
ジャイアンがさらに進もうとした。
[newpage]
その時。
「待って!」
#朔夜だった。
慌てて前へ出る。
「まだ変じゃない?」
ジャイアンが止まる。
朔夜は結界を見る。
「帰れないのは分かる」
「でも、悪戯が止まらなくなるって……」
「なんか変じゃない?」
ムジナがぴくっと動いた。
その時。
目玉おやじがぽつりと言った。
「……悲しいかな」
全員が見る。
目玉おやじは静かだった。
「妖怪というものは」
「存在意義から大きく外れると、不安定になるのじゃ」
静かな声。
「人を化かす妖怪なら化かす」
「驚かせる妖怪なら驚かせる」
「それを完全に止め続ければ――」
少し間。
「消えることもある」
空気が止まる。
ムジナが震える。
目玉おやじは続けた。
「無論、だから何をしても許される訳ではない」
「じゃが、事情は聞くべきじゃ」
ジャイアンは黙った。
バットを下ろす。
その時だった。
[newpage]
ドラえもんが不意に口を開いた。
「……待って」
全員が見る。
ドラえもんはスマホを取り出した。
画面を開く。
いつ撮ったのか。
そこには。
裏山で見つけた、あの黒い扉。
「これのこと?」
静かな声。
ムジナが見る。
画面を見る。
目を見開く。
呼吸が止まる。
顔が青くなる。
後退る。
「っ……」
誰も喋らない。
ムジナが震えながら呟いた。
「……それ」
唇が震える。
「それだ」
確定だった。
夜風が吹く。
[newpage]
「勘違いするでない」
目玉おやじが周囲を見る。
「このムジナが扉を作った訳ではなさそうじゃ」
「僕たちが来るときも、同じ扉をくぐったけど、妖力の質が違ったよ」
鬼太郎も静かに頷く。
「この妖気は……もっと別のものだ」
「少なくとも、こいつ一匹でこんな広域の現象は起こせない」
ムジナは縮こまりながら小さく言った。
「お、おら……そんな力ない……」
空気が少し変わった。
なら。
あの黒い扉は。
誰が。
何のために。
鬼太郎は静かに立ち上がる。
目を閉じる。
そして短く言った。
「……話は変わったな」
結界の中。
ムジナは小さく縮こまった。
もう逃げなかった。
たぶん。
この後、説教される方が怖いと気づいたから。