山道を登り始めてから十五分。
「はぁ……はぁ……」
のび太が完全に止まった。
「む、無理……」
その場にしゃがみ込む。
「もう歩けない……」
「早っ!」
ケータが思わず声を上げた。
「いや、でも」
#朔夜は少し考える。
「のび太にしては結構持った方じゃない?」
「確かに」
トウマが頷く。
普段ならもっと早い段階で音を上げている。
のび太は涙目だった。
「だって山だよ!?」
「坂だよ!?」
「石とか木の根っことかいっぱいあるんだよ!?」
「山だからな」
ジャイアンが呆れたように言った。
その時。
「しょうがないなぁ」
ドラえもんが四次元ポケットへ手を突っ込んだ。
取り出したのは小さな茶色い瓶。
どこからどう見ても栄養ドリンクだった。
「これ飲みなよ」
「なにそれ?」
「元気が出る」
「ほんと!?」
のび太は飛びついた。
ごくごくごく。
一気飲み。
数秒後。
「おおっ!」
勢いよく立ち上がる。
「なんか元気出た!」
「単純だなぁ」
ナツメが苦笑した。
「準備が良いのう」
アキノリの祖母が感心したように言う。
「いやぁ、それほどでも」
ドラえもんが照れたように頭を掻く。
その様子を見ながら。
#朔夜はこっそりドラえもんへ近付いた。
「ねぇ」
「ん?」
「アレ、本当に秘密道具?」
小声だった。
ドラえもんも周囲を確認してから答える。
「違う」
「違うの!?」
「ただの栄養ドリンク」
「えぇ……」
思わず引く。
ドラえもんはさらに声を潜めた。
「たまたまポケットに入ってたんだ」
「いつから?」
「さぁ?」
「さぁ?」
「四次元ポケットって時間経過しないから」
さらっと恐ろしいことを言う。
#朔夜は黙った。
(いつ入れたやつなんだ……)
聞かない方がいい気がした。
[newpage]
それからさらに歩くことしばらく。
土の山道は少しずつ姿を変え始めた。
「お?」
アキノリが前を指差す。
木々の間から石段が現れた。
綺麗に整備されている。
「階段よ」
しずかが呟く。
「ということは」
トウマが言った。
「もうすぐ着くね」
石段は長かった。
だが終わりは見えている。
全員が黙々と登り続ける。
そして――
「着いたぁぁぁ……」
石段を登り切ったのび太が地面へ倒れ込んだ。
「まだ何もしてないのに……」
スネ夫も肩で息をしている。
ジャイアンでさえ額に汗を浮かべていた。
朔夜も小さく息を吐く。
さすがに疲れる。
「ふむ」
おばばが腕時計を見る。
「ちょうど良い時間じゃな」
「時間?」
ケータが首を傾げた。
「昼飯じゃ」
全員の動きが止まった。
次の瞬間。
ぐぅぅぅぅぅ……
盛大な腹の音。
犯人はジャイアンだった。
「…………」
「…………」
「…………」
少しだけ気まずい。
「悪いか!」
「誰も何も言ってないよ!?」
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一行は倉庫の隣に建つロッジへ移動した。
木造の建物。
古いがしっかり手入れされている。
「先に昼飯の準備をするかの」
おばばが奥へ向かう。
その背中へ。
「手伝います」
しずかが言った。
「ボクも」
ドラえもん。
「じゃあ自分も」
#朔夜も続く。
「助かるのう」
おばばは笑った。
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キッチンは思ったより綺麗だった。
冷蔵庫。
電子レンジ。
照明。
普通に電気が通っている。
「意外だ」
#朔夜が呟く。
祖母は鍋へ湯を張りながら言った。
「太陽光発電じゃよ」
「太陽光?」
「蓄電設備もある」
「へぇ……」
少し驚く。
「年に一度点検も入るしの」
「自分でやるんですか?」
「いや」
おばばは首を振る。
「有星家の関係者が順番に見ておる」
なるほど。
神社なのに妙に設備が整っている理由が分かった。
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やがて鍋の湯が沸く。
素麺が投入された。
その間に。
「飲み物を配ってくれるかの」
祖母が冷蔵庫を指差した。
「はい」
#朔夜達は麦茶やジュースを取り出して運ぶ。
しずかは箸を並べ。
ドラえもんは器を配る。
意外と手際が良かった。
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十分後。
「いただきます!」
全員の声が重なった。
冷たい素麺。
疲れた身体に染み渡る。
「うまっ!」
ケータが叫ぶ。
「生き返る……」
のび太は半分泣いていた。
ジャイアンは既に二杯目へ突入している。
「食べるの早っ」
スネ夫が引いた。
「こういうのは勢いだ!」
意味不明だった。
さらに。
祖母特製の漬物。
ぽりぽり。
程よい塩気。
素麺との相性が抜群だった。
「これ美味しいですね」
#朔夜が言う。
「去年漬けたやつじゃ」
祖母が嬉しそうに笑った。
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食事が終わる。
満腹。
涼しいロッジ。
心地良い疲労。
誰も動かない。
「もう帰りたい……」
のび太が転がる。
「まだ何もしてないだろ」
トウマが呆れた。
ジャイアンも壁にもたれている。
スネ夫は椅子へ突っ伏していた。
しずかも少し眠そうだ。
そんな空気の中。
祖母が立ち上がる。
そして。
にっこり笑った。
「さて」
嫌な予感しかしない。
「片付けを始めようかの」
一瞬の沈黙。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
のび太達の悲鳴が山へ響いた。