倉庫の掃除は、思った以上に大変だった。
「うわっ、埃!」
のび太が盛大にくしゃみをする。
「だから言ったよね、マスクしたほうがいいって」
トウマが呆れたように言った。
山の上にある古い保管庫。
有星家の関係者しかほとんど使わない場所らしく、長い年月の積み重なった埃が容赦なく襲ってくる。
朔夜も棚の整理を手伝っていた。
木箱をどかし、積まれた書類を分けていく。
その時だった。
ガタッ。
「あ」
上の棚が少し揺れた。
次の瞬間。
バサバサッ!
「うおっ!?」
一冊の古びた本が頭上から落下してきた。
反射的に受け止める。
「大丈夫?」
しずかが駆け寄る。
「平気」
#朔夜は本の表紙を見た。
だが。
「……読めない」
文字が潰れている。
というより、崩されすぎている。
のび太達も興味津々で集まってきた。
[newpage]
「なになに?」
「古文書?」
「宝の地図だったりして!」
ジャイアンが勝手なことを言う。
アキノリも覗き込んだ。
「んー……」
数秒。
「読めなくはないけど」
「マジ?」
「神社の家系だからな」
アキノリは少し得意げに笑う。
「でも崩し字がもっとひどかったらオレも無理」
「へぇ」
朔夜は素直に感心した。
すると。
「そんな時はこれ!」
ドラえもんがポケットへ手を突っ込む。
ぽん。
取り出したのは見慣れた灰色の塊。
「ほんやくコンニャク!」
「出た」
#朔夜が即座に反応した。
「万能アイテム」
「便利だよ?」
ドラえもんは笑う。
全員で少しずつ分けて食べる。
しばらくすると。
本の文字が自然と読めるようになった。
「じゃあ読んでみるね」
しずかが本を開いた。
皆が周りに集まる。
倉庫の片隅。
小さな読み聞かせ会の始まりだった。
しずかはゆっくりと読み上げる。
「今は昔、竹取の翁という者がいました――」
静かな声が倉庫に響く。
「野山へ行って竹を取り、それを様々なことに使っていました――」
読み進むにつれ。
小学生組は首を傾げ始めた。
「なんか聞いたことあるな」
ジャイアンが言う。
「うーん」
のび太も考え込む。
その一方。
ナツメ達は。
「あー」
「なるほど」
「そういうことか」
妙に納得した顔をしていた。
#朔夜も気付いている。
だが、まだ口には出さない。
ナツメがアキノリを見る。
「言う?」
アキノリはニヤリと笑った。
「いや」
「もうちょい待とうぜ」
絶対に面白がっている顔だった。
しずかはさらに読み進める。
「根元が光る竹が一本ありました。不思議に思って近寄ると、その竹の中が光っています――」
「その筒の中を見ると、三寸ほどの小さな人が、とてもかわいらしい姿で座っていました――」
[newpage]
「あっ!」
スネ夫が声を上げた。
「分かった!」
「何?」
「これかぐや姫じゃん!」
「あー!」
ジャイアンもようやく気付く。
「聞いたことあると思った!」
「かぐや姫の物語か!」
のび太も納得したように頷いた。
しずかが笑う。
「正解」
中学生組も顔を見合わせる。
「やっと気付いた」
「意外と時間かかったな」
トウマが苦笑した。
その時だった。
「……懐かしいな」
ぽつりと。
のび太が呟いた。
全員の視線が向く。
のび太は少し遠くを見るような顔をしていた。
「月で出会ったみんな、元気かな」
一瞬。
ドラえもんも動きを止める。
そして小さく笑った。
「そうだね」
「元気にしてるといいな」
しずかも頷く。
「ル……」
言いかけて止まる。
スネ夫も少し笑った。
「また会えるかな」
ジャイアンは腕を組んだ。
「きっと会えるだろ」
その会話を聞きながら。
ナツメ達は顔を見合わせる。
「知り合い?」
ナツメが首を傾げた。
「たぶん」
ケータも頷く。
「昔の友達とか?」
そんな雰囲気だった。
詳しいことは誰も聞かない。
けれど。
#朔夜は知っていた。
のび太達が、普通の人では経験しないような冒険をいくつもしてきたことを。
宇宙。
未来。
異世界。
そして妖怪。
今の反応を見る限り。
きっとその時に出会った誰か。
大切な友人なのだろう。
そう思った。
「おーい!」
突然。
奥の部屋から声が飛んできた。
「休憩は終わりじゃぞー!」
アキノリの祖母だった。
全員がびくりとする。
「げっ」
「バレた」
「サボってたわけじゃないのに……」
のび太が肩を落とした。
するとアキノリが笑いながら別の箱を指差した。
「ほら」
「次はこっち」
「えぇぇぇ!?」
倉庫の奥には、まだまだ大量の荷物が残っていた。
「終わらない……」
のび太が絶望する。
そんな彼を見て。
朔夜は思わず笑った。
掃除はまだ続く。
そして古い物語の本は、一旦そっと箱の上へ戻された。
まるで。
その続きを読む時が来るのを待つように。