古い神社の保管庫だけあって、中には年代物の道具が山ほどある。
祭事に使うらしい木箱。
見たこともない形の飾り。
古びた巻物。
埃っぽい空気の中、皆それぞれの持ち場で作業していた。
そんな中。
「なぁスネ夫」
ジャイアンが小声で呼びかける。
「例のやつ、やるか?」
「もちろん」
スネ夫はニヤリと笑った。
その手には、小さな袋。
中から取り出したのは――ネズミのおもちゃだった。
「絶対びっくりするよな」
「大成功間違いなしさ」
二人は顔を見合わせる。
ろくでもない顔だった。
少し離れた場所で箱を整理していた#朔夜は、その様子を見て眉をひそめる。
(あれ、絶対ろくなことしないな)
止めた方がいい気もした。
だが。
その時にはもう遅かった。
「ドラえも~ん」
スネ夫が猫なで声を出す。
「ん?」
振り向くドラえもん。
「ちょっと見てよこれ」
「なに?」
近付いた瞬間。
ジャイアンが横から勢いよく飛び出した。
「うりゃあ!!」
ネズミのおもちゃがドラえもんの目の前へ突き付けられる。
一瞬。
本当に一瞬だけ静止した。
[newpage]
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!」
絶叫。
倉庫が揺れた。
「ネズミぃぃぃぃぃ!!!!!」
「うわっ!?」
「でた!」
「早っ!」
半狂乱になったドラえもんが猛ダッシュで走り出す。
箱にぶつかる。
柱にぶつかる。
埃が舞う。
誰も止められない。
「ぎゃああああああ!!」
「ドラえもん落ち着いて!!」
しずかが叫ぶ。
しかし聞いていない。
完全にパニックだった。
そして。
最悪の方向へ向かう。
倉庫の奥。
大きな棚の前。
そこではナツメが脚立を使って整理作業をしていた。
ドラえもんが突っ込んできた衝撃で。
棚が。
ぐらり、と傾く。
「――っ」
#朔夜の背筋が冷えた。
まずい。
考えるより先に身体が動く。
「ナツメ!」
「え?」
朔夜はナツメの腕を掴み、強引に引き寄せた。
次の瞬間。
ドゴォォォォン!!
もの凄い音。
巨大な棚が横倒しになった。
箱が飛ぶ。
埃が舞う。
倉庫全体が揺れる。
静寂。
誰もが言葉を失った。
「……」
「……」
「……」
[newpage]
奥の部屋から凄まじい勢いで足音が響いた。
「何事じゃ!!」
アキノリの祖母だった。
勢いよく現場へ入ってくる。
そして。
倒れた棚。
散乱した荷物。
固まる面々。
ネズミのおもちゃを持ったままのジャイアン。
全部見た。
一瞬で理解したらしい。
「……ほう」
静かな声だった。
それが逆に怖い。
スネ夫とジャイアンが同時に背筋を伸ばす。
「骨川」
「は、はい!」
「剛田」
「お、おう!」
「表へ出ようかの」
笑顔だった。
だが目が笑っていなかった。
「いや、その」
「悪気は」
「表へ」
有無を言わせぬ声。
二人は顔を見合わせる。
そして。
「はい……」
しょんぼりと外へ連行された。
数分後。
外から声が聞こえる。
「神聖な場所で何をしとるかぁぁぁ!!」
「すみませぇぇぇん!!」
「ごめんなさぁぁぁい!!」
ビリビリと空気が震えた。
倉庫の中にいた全員が肩を跳ねさせる。
「……」
「……」
「怖……」
ケータが呟いた。
トウマが無言で頷く。
#朔夜も少しだけ青ざめていた。
有星家の祖母は怒らせてはいけない。
全員がそう認識した瞬間だった。
しばらくして。
ようやく空気が戻り始める。
「と、とりあえず」
ドラえもんが申し訳なさそうに言った。
「棚を元に戻そうか……」
原因の大半は自分だと思っているらしい。
「そうだね」
「このままじゃ危ないし」
皆で倒れた棚へ向かう。
力を合わせ。
ゆっくりと持ち上げる。
ギギギ……。
古い木材が軋む。
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その時だった。
棚の上部から何かが滑り落ちた。
コトッ。
小さな木箱。
誰も気付かなかったらしい。
倒れた衝撃で落ちてきたようだ。
「ん?」
アキノリが拾い上げる。
手のひらに乗るくらいの大きさ。
桐らしい木材で作られている。
表面には見慣れない模様。
長い年月を感じさせる色合いだった。
「なんだこれ」
「開く?」
「開くんじゃない?」
皆が集まる。
アキノリが慎重に蓋へ手を掛けた。
カチリ。
小さな音。
蓋が開く。
そして。
中から現れたのは――。
「……鏡?」
しずかが呟いた。
手のひらほどの大きさ。
丸い形。
開閉式の手鏡。
まるで古い装飾品のようだった。
金具は少しくすんでいる。
だが不思議と壊れてはいない。
長い間眠っていたはずなのに。
どこか神秘的な雰囲気を纏っていた。
「倉庫の奥からこんなの出てくるんだ……」
のび太が目を丸くする。
「結構古そうだね」
ドラえもんも覗き込んだ。