ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#第二十九話

有星家の山中倉庫での片付けは、その後大きな騒ぎもなく進んだ。

途中で見つかった古書を整理したり。

壊れた祭具を分別したり。

積み上がった木箱を運んだり。

気付けば太陽は傾き始めていた。

「ふぅ……」

最後の荷物を運び終えたアキノリが額の汗を拭う。

「終わったぁ……」

のび太は床へ倒れ込んだ。

「もう一歩も動けない……」

「さっきまで動いてたじゃん」

ナツメが呆れる。

「精神的に限界なんだよぉ……」

「便利な言葉だな」

トウマがため息をついた。

[newpage]

帰り道。

有星家のミニバスは山道をゆっくり下っていた。

車内は静かだった。

朝とは比べ物にならないほど。

みんな疲れている。

のび太は窓にもたれたまま熟睡。

しずかも静かに目を閉じている。

アキノリはうとうと。

トウマは本を開いたまま寝ていた。

ケータは口を半開きにしている

そして――

「ぐごぉぉぉぉぉ……」

ジャイアンのいびきだけが元気だった。

「うるさいなぁ……」

スネ夫が文句を言った。

だが本人も半分寝ている。

誰も本気では気にしていない。

#朔夜は窓際の席に座っていた。

流れていく山並み。

夕暮れ色の空。

少しだけ開いた窓から風が入ってくる。

その時だった。

――……いたい。

「?」

#朔夜は顔を上げた。

何か聞こえた気がした。

だが。

周囲を見る。

誰も話していない。

ジャイアンはいびきをかいている。

のび太も寝ている。

気のせいか。

そう思った。

[newpage]

数分後。

再び。

――……あい……たい……

今度は少しだけ聞こえた。

かすれている。

遠い。

男とも女とも分からない。

「……」

#朔夜は眉をひそめた。

どこから聞こえてくるのだろう。

窓の外か。

車内か。

それとも――

[newpage]

「それ、興味あるの?」

不意に声を掛けられた。

「え?」

振り向く。

隣の席。

ナツメだった。

いつの間にか起きていたらしい。

#朔夜の膝の上には例のコンパクトミラーがある。

「ああ、これ?」

自然と意識がそちらへ向いた。

さっきの声のことは頭の隅へ追いやられる。

「ちょっと気になって」

「へぇ」

ナツメが鏡を見る。

「男子でもそういうの気になるんだ」

「最近流行ってるし」

「流行ってる?」

「低学年から始まったんだけど」

朔夜は肩をすくめた。

「高学年にも広がっててさ」

「へぇ……」

ナツメは微妙な顔になった。

理解したような。

していないような。

そんな表情。

「月見台って不思議な流行り方するんだね」

「否定はしない」

少し沈黙の空気が流れた。

ミニバスがカーブを曲がる。

窓の外の景色が流れていく。

その時。

「あと」

ナツメが言った。

「ありがとう」

「ん?」

「昼間」

#朔夜は少し考えて。

すぐ思い出した。

棚の件だ。

「ああ」

「あの時引っ張ってくれたやつ」

ナツメは軽く笑った。

「助かった」

「別に」

朔夜は少し照れくさくなった。

「反射的に動いただけだし」

「それができる人って意外と少ないよ?」

そう言われると返事に困る。

「というか」

朔夜は話題を変えた。

「ジャイアン達、いつになったら反省するんだろう」

「それね」

ナツメが苦笑する。

前方を見る。

ジャイアンは盛大に寝ている。

スネ夫も半分意識が飛んでいる。

「流石に今回は反省したんじゃない?」

「そうかなぁ」

「したと思うよ」

そう言って微笑んだ。

穏やかな笑顔だった。

その瞬間。

#朔夜の心臓が一拍だけ跳ねた。

「……」

なんだ今。

自分でもよく分からない。

慌てて窓の外へ視線を向ける。

気のせいだ。

たぶん。

[newpage]

「そういえば」

今度はナツメが話題を変えた。

「弓やってるんだよね?」

「うん」

「結構長いの?」

「小さい頃から」

ナツメが少し驚く。

「そんな前から?」

「家の方針でね」

朔夜は苦笑した。

「最初は遊びみたいなものだったけど」

「今は?」

「ちゃんとした弓」

少しだけ嬉しそうに言ってしまう。

「高学年になってから本格的なのをもらったんだ」

「へぇ」

「それまでは練習用だったし」

「頑張ってるんだね」

「まぁ」

#朔夜は曖昧に笑った。

そこで会話が途切れた。

お互い窓の外を見る。

心地良い静寂。

車の揺れ。

疲労。

それらが重なって。

いつの間にか。

朔夜の瞼は重くなっていた。

[newpage]

次に目を開けた時。

ミニバスは止まっていた。

「着いたぞー」

アキノリの声。

外を見る。

見慣れた有星神社の駐車スペースだった。

「寝てた……」

#朔夜は小さく呟く。

いつ眠ったのか覚えていない。

不思議な声のことも。

今ではほとんど思い出せなかった。

全員が車を降りる。

夕暮れが近い。

アキノリの祖母は運転席から振り返った。

「今日はありがとうなぁ」

穏やかな笑顔だった。

「助かったぞい」

「ありがとうございましたー!」

ケータが元気よく手を振る。

みんなも挨拶を返した。

そして。

それぞれの帰路へと向かう。

[newpage]

誰もまだ知らない。

#朔夜が持ち帰った小さな鏡。

その向こう側で。

誰かが今も。

かすれた声で願い続けていることを。

――会いたい。

と。

 

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