六月も終わりに近づいた休日の朝。
#朔夜は自室のベッドに寝転びながら、手の中のコンパクトミラーを眺めていた。
有星家の倉庫から見つかった古い手鏡。
結局、あの日以降も何一つ変わったことは起きていない。
それなのに、なぜか時々気になってしまう。
「ほんと、なんなんだろうな……」
独り言を漏らしながら蓋を開く。
鏡面には自分の顔が映った。
その瞬間。
窓から差し込んだ光が反射する。
「っ!?」
真正面から光を浴び、#朔夜は思わず顔を背けた。
眩しい。
ただそれだけのはずだった。
けれど。
なぜだろう。
胸の奥がざわついた。
言葉にできない違和感。
嫌な予感。
何か良くないことが起こるような――。
「……気のせい、だよね」
そう呟いた直後だった。
机の上のスマホが激しく震えた。
着信。
画面には『ナツメ』の文字。
慌てて通話を取る。
「もし――」
『朔夜!?』
いつもより切羽詰まった声だった。
『トウマが誘拐された!』
一瞬、思考が止まる。
「……は?」
『詳しい話は神社でする!すぐ来て!』
通話はそこで切れた。
静まり返る部屋。
先程の嫌な予感が頭をよぎる。
#朔夜は急いで立ち上がった。
[newpage]
十分後。
いつもの裏山。
そこには既にドラえもん達が集まっていた。
「#朔夜!」
のび太が手を振る。
だがその表情には余裕がない。
「アキノリから連絡が来たんだ」
ドラえもんも真剣な顔をしていた。
「とにかく神社へ行こう」
全員が頷く。
嫌な予感は、ますます大きくなっていた。
◇
有星神社。
境内にはナツメとアキノリが待っていた。
二人とも疲れた顔をしている。
「何があったんだ?」
#朔夜が尋ねる。
アキノリは大きく息を吐いた。
「今日の朝、『うすらぬら』に書き込まれた案件を調べに行ってたんだ」
「うん」
「それ自体は解決した」
しかし、とアキノリは顔を曇らせる。
「帰り道で襲撃された」
その一言で空気が変わった。
ナツメが続ける。
「酒呑童子の手下よ」
「暴走した妖怪を何体も連れてきたの」
「俺たちは応戦した」
「でも……」
アキノリが拳を握る。
「気づいた時にはトウマがいなかった」
沈黙。
しずかが小さく息を呑む。
「誘拐……されたの?」
ナツメは静かに頷いた。
「多分」
#朔夜は眉をひそめた。
トウマは決して弱くない。
なのに、相手に連れ去られるなんて。
事態は思った以上に深刻だった。
「探そう!」
ドラえもんが前に出る。
「たずね人ステッキを使う!」
四次元ポケットから取り出された杖が空中でくるりと回った。
同時に。
アキノリも妖魔レーダーを起動した。
「二重で追跡するぞ」
二つの反応は同じ方向を指していた。
「いた!」
アキノリが叫ぶ。
全員が走り出した。
[newpage]
森を抜ける。
山道を駆ける。
そして。
前方から轟音が響いた。
ドォォン!!
地面が揺れる。
木々が大きく揺れた。
「な、何!?」
スネ夫が悲鳴を上げる。
急いで駆け寄った一同は、その光景に息を呑んだ。
そこには。
巨大な妖怪と戦う一人の青年の姿があった。
鋭い眼差し。
青い髪。
独特な衣装。
そして圧倒的な妖力。
激しい衝撃が周囲の木々を揺らしている。
「……っ!」
ナツメが目を見開いた。
「カイラ様!?」
その声に朔夜が驚く。
様?
知り合いなのか?
アキノリも目を見開いていた。
「なんでカイラ様がこんなところに……!?」
◇
一方。
少し離れた場所にはトウマの姿があった。
木にもたれかかっている。
額には傷。
服も汚れている。
だが無事だ。
「トウマ!」
ナツメが駆け寄る。
「いてて……」
トウマは苦笑した。
「後ろからやられたみたい」
どうやら命に別状はないらしい。
朔夜はほっと息を吐いた。
しかし視線は再び戦場へ向く。
巨大な妖怪。
そしてカイラ。
押されているようにも見える。
だが。
不思議と負ける気配がしない。
まるで王者がそこに立っているかのようだった。
その時。
巨大な妖怪が不気味に笑った。
「邪魔をするな」
青髪の青年は表情一つ変えない。
冷たい視線を向ける。
「黙れ」
その声は静かだった。
けれど。
誰よりも威圧感があった。
「私は貴様らと戯れるために来たのではない」
張り詰める空気。
戦いはまだ終わっていなかった。