「これ以上騒ぎを大きくする気はない」
低く響く声が森の中に広がった。
#朔夜たちが声のした方へ視線を向ける。
しかし木々が邪魔をして姿までは見えない。
ただ、その場の空気が一瞬で張り詰めたことだけは分かった。
「退くぞ、洞潔」
その言葉を聞いた巨大な妖怪が舌打ちをする。
「……承知しました」
巨大な妖怪はカイラを睨みつけた。
だが追撃はしない。
次の瞬間、その姿は黒い霧のように掻き消えた。
森に静寂が戻る。
先ほどまでの激しい戦闘が嘘のようだった。
「逃げた……?」
のび太が呆然と呟く。
「みたいだな」
アキノリも警戒を解かないまま辺りを見回した。
トウマを狙った妖怪たちは完全に姿を消していた。
ようやくナツメは息を吐く。
そして戦場の中心に立つ人物へ歩み寄った。
「カイラ様」
その呼びかけに、青髪の青年は静かに振り返る。
「なぜ、ここに?」
青髪の青年_ナツメにカイラ様と呼ばれていた_が言った。
「予言だ」
全員が首を傾げた。
「予言?」
トウマが聞き返す。
カイラは懐から一枚の紙を取り出した。
折り目だらけの紙。
端は少し破れている。
そして何より。
書かれた文字が異様に乱れていた。
急いで書かれたのだろう。
筆圧も不安定で、ところどころ掠れている。
まるで何かに追われながら残した走り書きのようだった。
「読め」
カイラ様はそう言って紙を差し出した。
近くにいた#朔夜が受け取る。
全員が覗き込んだ。
そこにはこう記されていた。
[newpage]
[chapter:黒き門、セカイをつなぎ――]
[chapter:災厄は境界(セカイ)を超える]
[chapter:チカラあるもの、集結せよ]
[chapter:さもなくば]
[chapter:王ですら、終焉(ホウカイ)を止められぬ]
[newpage]
しばし沈黙が流れた。
「……なんだこれ」
ジャイアンが率直な感想を漏らす。
「予言?」
スネ夫が言う。
「いや、それは分かるけどさ」
「内容が全然分かんないんだよ!」
それには#朔夜も同意だった。
黒き門。
災厄。
境界。
終焉。
どれも不穏な単語ばかりだ。
だが具体的なことは何も分からない。
「王って……カイラ様のこと?」
ナツメが尋ねる。
「分からん」
カイラ様は腕を組んだ。
「だが見過ごすわけにもいかん」
その表情は珍しく真剣だった。
#朔夜は少し驚く。
先ほどから見ていて思った。
この人は随分と偉そうだ。
だが、それに見合うだけの力と責任を背負っているらしい。
「でもさ」
空気を破ったのはケータだった。
「不動雷鳴剣があるじゃん?」
その言葉にナツメたちの顔色が変わった。
ケータは首を傾げる。
「え?」
トウマが苦い顔をする。
「それなんだけどさ……」
頭を掻きながら言った。
「使えなくなったんだ」
「ええっ!?」
ドラえもんたちが声を揃える。
「使えなくなったって!」
「そんな大事なものが!?」
「色々あったんだよ……」
トウマは疲れたように肩を落とした。
どうやら今回の件も、その延長線上にあるらしい。
[newpage]
カイラ様は話を続けた。
「双天山へ行けば良い」
「双天山?」
ドラえもんが聞き返した。
カイラ様は頷く。
「妖聖剣に関わる場所だ」
「そこに手掛かりがあるやもしれん」
全員が顔を見合わせた。
他に当てもない。
ならば行くしかない。
「分かった」
ナツメが言う。
「行こう」
カイラ様は静かに目を閉じた。
次の瞬間。
強い風が吹き抜ける。
景色が揺らいだ。
「うわっ!?」
のび太が悲鳴を上げる。
#朔夜も思わず目を閉じた。
そして。
再び目を開けた時。
そこは全く別の場所だった。
「なっ……!?」
遠くまで続く山並み。
そして。
天を突くように聳え立つ二つの巨大な山。
双天山。
その麓だった。
「すげぇ……」
スネ夫が呆然と呟く。
「一瞬で移動した……」
ドラえもんですら驚いている。
だが当の本人は平然としていた。
「行け」
それだけ言う。
「よーし!」
真っ先に飛び出したのはドラえもんだった。
[newpage]
しかし。
ゴンッ!
「いたぁっ!?」
何もない空間で弾かれ、尻もちをつく。
「ドラえもん!?」
のび太たちが慌てて駆け寄る。
「何かある!」
前方には何も見えない。
だが確かに壁が存在していた。
しずかも触れてみる。
硬い感触。
完全に遮断されている。
「結界……?」
アキノリが呟いた。
ナツメたちは試しに進んでみる。
すると。
何事もなく通り抜けた。
「通れる?」
「こっちは平気だぞ!」
続いて#朔夜も恐る恐る足を踏み出す。
そして。
何の抵抗もなく結界を通過した。
「え?」
思わず振り返る。
ドラえもんたちは向こう側。
#朔夜はこちら側。
「なんで!?」
のび太が叫ぶ。
「#朔夜は通れたのに!」
ドラえもんは慌てて通り抜けフープを取り出した。
しかし。
結果は同じ。
見えない壁を突破できない。
「そんな……」
珍しくドラえもんが言葉を失う。
その時だった。
ドラえもんは何かを決意したようにポケットへ手を入れる。
「#朔夜!」
投げ渡されたのは予備の四次元ポケットだった。
「これ持って行って!」
「えっ!?」
「予備だから大丈夫!」
大丈夫なのだろうか。
色々と不安だったが、今は言っている場合ではない。
#朔夜は受け取った。
「頼んだよ!」
ドラえもんの声に頷く。
ナツメたちは既に先へ進み始めていた。
#朔夜も慌てて後を追う。
ふと振り返る。
そこにはドラえもんたち。
そして。
なぜか動こうとしないカイラ様の姿があった。
「……?」
だが呼びかける前に、ナツメたちが遠くへ進んでしまう。
#朔夜は慌てて駆け出した。