双天山の山道は想像以上に険しかった。
岩肌が剥き出しになった斜面。
足場も悪い。
それでもナツメたちは迷うことなく進んでいく。
#朔夜もその後に続いた。
ドラえもんたちは結界の向こう。
今ここにいるのは、
ナツメ、トウマ、アキノリ、そして朔夜たちだけだった。
「結構きついな……」
額の汗を拭う。
しばらく進むと視界が開けた。
二つの巨大な山。
まるで空を支える柱のようにそびえ立っている。
その麓へ辿り着いた瞬間だった。
――ゴォォォォッ!!
突風が吹き荒れた。
「っ!?」
思わず腕で顔を庇う。
空が陰った。
見上げた全員が息を呑む。
巨大だった。
紫色の羽毛。
黄金色の鬣。
岩を砕けそうな鉤爪。
そして頭部から伸びる角。
怪鳥は悠然と空中で旋回している。
その威圧感だけで足が竦みそうだった。
[newpage]
『資格を示せ』
声だった。
口は動いていない。
だが確かに頭の中へ響いた。
『進む資格を示せ』
次の瞬間。
怪鳥が急降下した。
「来るぞ!」
トウマが叫ぶ。
ドォォォン!!
地面が爆発したように揺れた。
間一髪で回避したものの、
砕けた岩が飛び散る。
「なんだよあれ!」
アキノリが悲鳴を上げる。
返事をする暇はない。
怪鳥は再び上昇した。
翼を大きく広げる。
そして。
ギャアアアアアアア!!
轟音。
鼓膜が破れそうだった。
思わず耳を塞ぐ。
身体が硬直する。
「うっ……!」
ナツメが膝をついた。
トウマも顔をしかめている。
威圧。
それだけで人の動きを鈍らせるほどの咆哮だった。
「くそっ!」
トウマが斬りかかる。
刃が怪鳥の翼を掠めた。
羽が舞う。
確かに傷は付いた。
だが。
「……え?」
傷口が塞がった。
みるみるうちに。
何事もなかったように。
「回復してる!?」
アキノリが叫ぶ。
その直後。
怪鳥が口を開いた。
紫色の霧。
「伏せろ!」
#朔夜が叫ぶ。
全員が咄嗟に岩陰へ飛び込んだ。
霧が通り過ぎる。
地面の草が黒く変色した。
[newpage]
「毒か……!」
トウマが顔をしかめる。
まともに浴びれば危険だった。
怪鳥は再び空へ。
何度攻撃しても。
傷は塞がる。
疲れるのはこちらだけだった。
「どうすんだよ!」
アキノリが叫ぶ。
「このままじゃ!」
#朔夜は弓を構えたまま怪鳥を見ていた。
攻撃。
回復。
突進。
咆哮。
毒。
その全てを観察する。
違和感があった。
「……待って」
「え?」
「何か変だ」
怪鳥が旋回する。
そのたびに。
首元。
黄金色の鬣の奥。
何かが光る。
「アキノリ!」
「なんだ!?」
「首だ!」
「首?」
「回復してるのはそこだ!」
アキノリが目を凝らす。
確かに見えた。
護符のようなもの。
怪鳥の身体に埋め込まれている。
[newpage]
「あれか!」
だが高すぎる。
近付けない。
怪鳥は再び上空へ。
急降下の構え。
「来るぞ!」
全員が身構える。
#朔夜は深く息を吸った。
周囲の音が遠くなる。
道場。
的。
呼吸。
雑念を捨てる。
目玉おやじさんの言葉が脳裏を過った。
――心を乱されるな。
怪鳥が降下する。
速い。
だが。
見える。
「……そこだ」
矢を放った。
一直線。
風を裂く。
そして。
ガキィン!!
首元へ突き刺さる。
護符が砕けた。
怪鳥が初めて苦しそうな声を上げた。
『グォォォォ!!』
「今だ!」
#朔夜が叫ぶ。
トウマが飛び出す。
ナツメも続いた。
アキノリの妖術が炸裂する。
連続攻撃。
怪鳥は迎撃しようとする。
だが。
もう回復しない。
『グァァァァァ!!』
最後の一撃。
眩い光が怪鳥を包んだ。
巨大な身体が崩れていく。
風に溶けるように。
羽が舞った。
『……資格を示した』
声が響く。
先ほどまでの威圧感はない。
どこか穏やかだった。
[newpage]
『進め』
怪鳥は光となって消えた。
静寂が戻る。
全員が息を切らしていた。
「勝った……?」
アキノリが呟く。
トウマが剣を下ろす。
「いや」
ナツメは前方を見ていた。
山道の奥。
先ほどまで存在しなかった道が現れている。
「試されたんだ」
朔夜も同じことを思っていた。
怪鳥は侵入者を排除しようとしていたわけじゃない。
進む資格を確かめていたのだ。
そして。
試練は終わった。
だが。
双天山の本当の試練は、
まだ始まったばかりだった――。