第一の試練を突破した#朔夜たちは、しばらく山道を進んでいた。
巨大な怪鳥との戦いを終えたばかりだというのに、休んでいる暇はない。
双天山の空気はどこか張りつめていて、立ち止まることを許してくれないようだった。
「まだ先があるのかよ……」
アキノリが肩を落とす。
「今さらだよね」
#朔夜が苦笑する。
その時だった。
頭上から軽やかな羽音が聞こえてきた。
一行が見上げる。
「……あれ?」
ナツメが目を瞬かせた。
空を舞っていたのは、先ほどの巨大な怪鳥ではなかった。
細身の鳥だ。
全身を覆う鮮やかな赤い羽毛。
長い尾羽には緑色の飾り羽が混ざっている。
大きさは人間を乗せられるほどで、普通の鳥とは比べ物にならない。
しかし先ほどの怪鳥ほどの威圧感はなかった。
どちらかと言えば神聖な雰囲気すら感じる。
鳥たちは一行の周囲を旋回すると、地面へ降り立った。
そして背を向ける。
「……乗れってこと?」
ケータが首を傾げる。
「たぶんね」
ナツメが答えた。
トウマも頷く。
「案内役ってところか」
どうやら敵意はないらしい。
試練を突破した者を先へ導く存在なのだろう。
「だったら遠慮なく乗らせてもらうか」
アキノリがそう言って鳥の背に跨った。
#朔夜もその後ろへ乗る。
しっかりと羽毛を掴んだ。
「落ちるなよ」
「それはこっちの台詞だ」
そんなやり取りをしているうちに、鳥たちは一斉に飛び立った。
[newpage]
――バサァッ!
強い羽ばたき。
地面が一気に遠ざかる。
「うおっ!?」
アキノリが思わず声を上げた。
風が顔に叩きつけられる。
眼下には岩山。
木々。
細い山道。
あっという間に景色が小さくなっていく。
「すげぇ……」
#朔夜も思わず呟いた。
気付けば、雲が近い。
さっきまで歩いていた場所など、豆粒のようだった。
「いつの間にこんな高さまで……」
鳥たちは整然と編隊を組み、二つの山の間を進んでいく。
先頭にはナツメたち。
#朔夜とアキノリの鳥は少し後方を飛んでいた。
「そういえばさ」
アキノリが振り返る。
「さっきは助かった」
「何が?」
「怪鳥だよ」
「ああ」
「あの矢がなかったら、まだ戦ってた気がする」
#朔夜は少し考えた。
「みんなが戦ってたから見つけられただけ」
「相変わらず謙虚だな」
アキノリが笑う。
その時だった。
――ゴォォォォォッ!!
突風が吹いた。
それは風というより、空気の塊だった。
鳥たちの編隊が大きく揺れる。
「うわっ!?」
「!?」
#朔夜は反射的に羽毛を掴んだ。
しかし。
後方を飛んでいた鳥だけが大きく煽られる。
「まずい!」
アキノリが叫ぶ。
鳥が悲鳴のような鳴き声を上げた。
翼が乱れる。
高度が下がる。
そして。
進行方向から大きく逸れた。
「待て!」
アキノリが声を上げる。
「ナツメー!!」
#朔夜も叫んだ。
だが。
返事はない。
風の轟音に全て掻き消されてしまう。
前方を飛ぶ鳥たちは気付いていないようだった。
どんどん離れていく。
[newpage]
「くそっ!」
アキノリが歯噛みする。
鳥は必死に体勢を立て直している。
しかし元の進路へ戻れない。
風に流されるまま、別方向へと運ばれていった。
どれほど飛んだだろう。
やがて鳥は高度を下げ始めた。
岩場が近付く。
山肌が迫る。
そして。
――ドサッ。
二人は山道へ降ろされた。
「いてて……」
アキノリが腰をさする。
#朔夜も周囲を見回した。
「ここ……」
違和感があった。
見覚えがない。
いや。
そもそも向かっていた場所ではない。
二人は崖の縁まで歩く。
そして遠くを見た。
「あ」
アキノリが固まる。
向こうに見える。
本来向かっていたはずの山が。
遥か彼方に。
「……マジか」
#朔夜も思わず呟いた。
今いる場所は別の山だった。
双天山。
二つ並ぶ巨大な山。
その片方へ向かっていたはずなのに。
気付けば、もう片方の山の途中に立っている。
「どうする?」
#朔夜が聞く。
アキノリはしばらく考えた。
だが答えはすぐに出た。
「進むしかないだろ」
そう言って前を見る。
山道は奥へと続いていた。
まるで。
最初から二人が来ることを知っていたかのように。
風が吹く。
遠くで鳥の鳴き声が響いた。
双天山はまだ何かを試そうとしている。
そんな予感がした。
二人は顔を見合わせる。
そして静かに頷いた。
「行こう」
「ああ」
そうして。
#朔夜とアキノリは、仲間たちとは別の道を歩き始めたのだった。