「終わった」
「終わったな……」
二人は揃って岩壁を見上げていた。
双天山の途中。
目の前に立ちはだかるのは、ほぼ垂直と言っていい岩肌だった。
高い。
とにかく高い。
クライミングの経験などない二人でも、それくらいは分かる。
問題は別にあった。
「足掛かり少なくないか?」
アキノリが指差す。
岩肌には僅かな凹凸しかない。
登れないことはないかもしれない。
だが落ちたら危険だ。
「無理、これ」
#朔夜も素直に頷いた。
試しに近付いてみる。
やはり難しい。
まともに登れる気がしなかった。
「どうする?」
「ドラえもん頼み」
「潔いな」
アキノリが呆れる。
朔夜はスペアポケットを取り出した。
もう慣れてしまった。
分からないことがあれば、とりあえず漁る。
これで大抵どうにかなる。
[newpage]
ごそごそ。
ごそごそ。
「あ」
何かがころがり落ちた。
コロン。
地面に転がったそれは、ソラ豆によく似ていた。
緑色。
つるりとした表面。
見た目だけなら普通の豆である。
「これもヒミツ道具?」
アキノリが拾い上げる。
「分からない」
#朔夜は首を振った。
「でも見たことないのは確か」
アキノリは豆を眺める。
しばらくして、
「あー……」
何か思い出したような声を出した。
「なんだ?」
「豆の木の種っぽい」
「豆の木?」
「童話の」
#朔夜は少し考えた。
「ああ、ジャックと豆の木」
「それそれ」
二人はもう一度豆を見る。
そして顔を見合わせた。
沈黙。
「……まさか」
「いやいや」
「そんな都合よく」
「ないよな」
再び沈黙。
そして。
「植えてみる?」
「植えてみるか」
結論は早かった。
どうせ他に方法もない。
アキノリが岩壁の根元に小さな穴を掘る。
そこへ豆を埋めた。
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数秒。
何も起きない。
「やっぱ違うか」
そう思った瞬間だった。
ドゴッ!
地面が揺れた。
「え?」
メキメキメキメキ!!
豆から芽が出た。
いや。
芽という速度ではない。
一瞬で幹になった。
さらに伸びる。
伸びる。
伸びる。
「うわっ!?」
「マジか!?」
二人が飛び退く。
巨大な植物は岩壁を這い上がりながら空へ向かって成長していく。
もはや木だった。
それもとんでもなく巨大な。
数十秒後。
立派な蔦の階段が完成していた。
沈黙。
アキノリと#朔夜は顔を見合わせる。
「……マジで?」
「マジだな」
なんだか最近このやり取りが増えた気がする。
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蔦を登ることしばらく。
ようやく二人は頂上へ辿り着いた。
「疲れた……」
アキノリがその場に座り込む。
#朔夜も息を整えた。
しかし。
次の瞬間。
二人は言葉を失う。
そこにいたのだ。
巨大な鳥が。
赤い羽。
緑色の尾羽。
美しく神々しい姿。
だが見覚えがあった。
「……あ」
「これ」
道中で乗せてもらった鳥。
あれをそのまま大きくしたような姿だった。
違うのは大きさだけ。
威厳も存在感も桁違いだった。
鳥はゆっくりと翼を広げる。
風が吹いた。
『我が名は朱雀』
低くもよく通る声。
双天山全体へ響くようだった。
『よくぞ、この試練を苦労して――』
そこで朱雀は止まった。
沈黙。
『……ん?』
首を傾げる。
『いうほど苦労してないような……』
ぼそり。
本当に小さな声だった。
だが。
聞こえた。
#朔夜にはしっかり聞こえた。
アキノリにも聞こえたらしい。
二人は無言で視線を逸らす。
『……まぁよい』
何事もなかったように咳払いをする朱雀。
『試練を乗り越えたことに変わりはない』
威厳を取り戻そうとしている。
必死だった。
#朔夜は笑いそうになるのを堪えた。
『資格を認めよう』
朱雀は満足そうに頷く。
『向こうの山へ送ろう』
「助かる!」
アキノリが即答した。
朱雀は少し呆れたようだった。
だが翼を広げる。
すると身体がさらに大きくなった。
乗れるようにしたのだろう。
「でかっ」
アキノリが目を丸くする。
朱雀の背中は小さな広場のようだった。
二人は慎重によじ登る。
『しっかり掴まっていろ』
「はい!」
次の瞬間。
朱雀は大空へ飛び立った。
[newpage]
眼下の景色がどんどん小さくなっていく。
風が心地良い。
その時だった。
#朔夜はふと気付く。
「……あれ?」
アキノリを見た。
何か違う。
さっきまでと。
よく見る。
少し頬が引き締まっている。
首筋も。
肩周りも。
全体的に細くなっていた。
本人は気付いていない。
むしろ景色に夢中だった。
「すげぇ!」
とか言っている。
#朔夜は黙っていた。
(痩せてた方がイケメンじゃん)
思っただけで口には出さない。
言ったら面倒そうだった。
朱雀はそんな二人を乗せたまま、大空を悠々と飛ぶ。
その先には。
仲間たちが待つ、もう一つの山があった――。