ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#第三十五話

「終わった」

「終わったな……」

二人は揃って岩壁を見上げていた。

双天山の途中。

目の前に立ちはだかるのは、ほぼ垂直と言っていい岩肌だった。

高い。

とにかく高い。

クライミングの経験などない二人でも、それくらいは分かる。

問題は別にあった。

「足掛かり少なくないか?」

アキノリが指差す。

岩肌には僅かな凹凸しかない。

登れないことはないかもしれない。

だが落ちたら危険だ。

「無理、これ」

#朔夜も素直に頷いた。

試しに近付いてみる。

やはり難しい。

まともに登れる気がしなかった。

「どうする?」

「ドラえもん頼み」

「潔いな」

アキノリが呆れる。

朔夜はスペアポケットを取り出した。

もう慣れてしまった。

分からないことがあれば、とりあえず漁る。

これで大抵どうにかなる。

[newpage]

ごそごそ。

ごそごそ。

「あ」

何かがころがり落ちた。

コロン。

地面に転がったそれは、ソラ豆によく似ていた。

緑色。

つるりとした表面。

見た目だけなら普通の豆である。

「これもヒミツ道具?」

アキノリが拾い上げる。

「分からない」

#朔夜は首を振った。

「でも見たことないのは確か」

アキノリは豆を眺める。

しばらくして、

「あー……」

何か思い出したような声を出した。

「なんだ?」

「豆の木の種っぽい」

「豆の木?」

「童話の」

#朔夜は少し考えた。

「ああ、ジャックと豆の木」

「それそれ」

二人はもう一度豆を見る。

そして顔を見合わせた。

沈黙。

「……まさか」

「いやいや」

「そんな都合よく」

「ないよな」

再び沈黙。

そして。

「植えてみる?」

「植えてみるか」

結論は早かった。

どうせ他に方法もない。

アキノリが岩壁の根元に小さな穴を掘る。

そこへ豆を埋めた。

[newpage]

数秒。

何も起きない。

「やっぱ違うか」

そう思った瞬間だった。

ドゴッ!

地面が揺れた。

「え?」

メキメキメキメキ!!

豆から芽が出た。

いや。

芽という速度ではない。

一瞬で幹になった。

さらに伸びる。

伸びる。

伸びる。

「うわっ!?」

「マジか!?」

二人が飛び退く。

巨大な植物は岩壁を這い上がりながら空へ向かって成長していく。

もはや木だった。

それもとんでもなく巨大な。

数十秒後。

立派な蔦の階段が完成していた。

沈黙。

アキノリと#朔夜は顔を見合わせる。

「……マジで?」

「マジだな」

なんだか最近このやり取りが増えた気がする。

[newpage]

蔦を登ることしばらく。

ようやく二人は頂上へ辿り着いた。

「疲れた……」

アキノリがその場に座り込む。

#朔夜も息を整えた。

しかし。

次の瞬間。

二人は言葉を失う。

そこにいたのだ。

巨大な鳥が。

赤い羽。

緑色の尾羽。

美しく神々しい姿。

だが見覚えがあった。

「……あ」

「これ」

道中で乗せてもらった鳥。

あれをそのまま大きくしたような姿だった。

違うのは大きさだけ。

威厳も存在感も桁違いだった。

鳥はゆっくりと翼を広げる。

風が吹いた。

『我が名は朱雀』

低くもよく通る声。

双天山全体へ響くようだった。

『よくぞ、この試練を苦労して――』

そこで朱雀は止まった。

沈黙。

『……ん?』

首を傾げる。

『いうほど苦労してないような……』

ぼそり。

本当に小さな声だった。

だが。

聞こえた。

#朔夜にはしっかり聞こえた。

アキノリにも聞こえたらしい。

二人は無言で視線を逸らす。

『……まぁよい』

何事もなかったように咳払いをする朱雀。

『試練を乗り越えたことに変わりはない』

威厳を取り戻そうとしている。

必死だった。

#朔夜は笑いそうになるのを堪えた。

『資格を認めよう』

朱雀は満足そうに頷く。

『向こうの山へ送ろう』

「助かる!」

アキノリが即答した。

朱雀は少し呆れたようだった。

だが翼を広げる。

すると身体がさらに大きくなった。

乗れるようにしたのだろう。

「でかっ」

アキノリが目を丸くする。

朱雀の背中は小さな広場のようだった。

二人は慎重によじ登る。

『しっかり掴まっていろ』

「はい!」

次の瞬間。

朱雀は大空へ飛び立った。

[newpage]

眼下の景色がどんどん小さくなっていく。

風が心地良い。

その時だった。

#朔夜はふと気付く。

「……あれ?」

アキノリを見た。

何か違う。

さっきまでと。

よく見る。

少し頬が引き締まっている。

首筋も。

肩周りも。

全体的に細くなっていた。

本人は気付いていない。

むしろ景色に夢中だった。

「すげぇ!」

とか言っている。

#朔夜は黙っていた。

(痩せてた方がイケメンじゃん)

思っただけで口には出さない。

言ったら面倒そうだった。

朱雀はそんな二人を乗せたまま、大空を悠々と飛ぶ。

その先には。

仲間たちが待つ、もう一つの山があった――。

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