その頃――
双天山のもう一方の頂。
ナツメ達はようやく山頂へと辿り着いていた。
「つ、着いたぁ……」
ケータがその場にへたり込む。
トウマも肩で息をしていた。
「思ったよりキツかったな……」
しかし。
ナツメは辺りを見回して首を傾げる。
「……あれ?」
探していたものがない。
妖聖剣だ。
頂上には祭壇のような場所があるだけで、剣らしきものは見当たらなかった。
その時。
アキノリから預かっていた妖魔レーダーが反応する。
ピピッ――
矢印が示していた先は。
自分達が登ってきた山ではない。
向かい側の山だった。
「え?」
「向こう……?」
トウマも顔をしかめる。
「まさか、剣はあっちにあるのか?」
その時だった。
ゴォッ――
強い風が吹き抜ける。
気付けば。
祭壇の上に一体の存在が立っていた。
黄金の鬣。
鋭い眼光。
神々しい気配。
まるで神話から抜け出してきたような獣。
「麒麟……!」
ナツメが息を呑む。
麒麟は静かに一行を見下ろした。
『ここまで来たか』
重々しい声。
『剣を求めているのだろう』
「知ってるのか!?」
トウマが前に出る。
だが。
麒麟は答えなかった。
代わりに前足を踏み鳴らす。
[newpage]
ドォン!!
衝撃が走る。
「うわっ!?」
「きゃっ!」
面々が吹き飛ばされる。
そして。
試練が始まった。
麒麟は強かった。
圧倒的に。
雷。
風。
衝撃波。
そのどれもが強力だった。
ナツメ達は必死に応戦する。
しかし。
攻撃は届かない。
届いても浅い。
「くっ……!」
トウマが歯を食いしばる。
「まだだ!」
ケータも立ち上がる。
だが。
麒麟の一撃が炸裂した。
轟音。
閃光。
全員が地面へ叩き付けられる。
「ぐっ……!」
ナツメは膝をついた。
もう立つ力が残っていない。
トウマも。
ケータも。
みんな満身創痍だった。
麒麟がゆっくり近付いてくる。
『終わりか』
その言葉が聞こえた。
もうダメだ。
誰もがそう思った時。
――影が差した。
「ん?」
ケータが空を見上げる。
太陽が隠れた。
巨大な影。
何かが空から降りてくる。
「誰か来る!」
ナツメが叫ぶ。
次の瞬間。
ドォン!!
地面が揺れた。
土煙が舞う。
その中から二つの人影が現れる。
一人は弓を背負った少年。
もう一人は見慣れた仲間。
「アキノリ!?」
「#朔夜!?」
歓声が上がる。
アキノリは軽く手を上げた。
「間に合ったみたいだな」
「ギリギリだったけどな」
#朔夜も息を吐く。
その姿を見たケータが思わず叫ぶ。
「誰!?」
「え?」
アキノリが固まる。
続いて。
ナツメが目を見開いた。
「イケメン!?」
「は?」
今度はアキノリの顔が引きつった。
トウマがまじまじと見つめる。
「……言われてみれば」
「痩せてるな」
「え?」
「え?」
アキノリ本人だけが理解していなかった。
朔夜は黙って視線を逸らした。
(今さらか)
その時。
空が赤く染まった。
巨大な翼が広がる。
朱雀だった。
[newpage]
『麒麟よ』
麒麟が顔を上げる。
『来たか』
二柱の幻獣が向かい合う。
そして麒麟が静かに言った。
『良いのか?』
『何がだ』
『資格を与えて』
麒麟の視線がアキノリへ向く。
しかし。
朱雀は迷わなかった。
『この者らは既に資格を得ている』
静かな言葉だった。
だが確信に満ちていた。
麒麟はしばらく黙る。
明らかに不服そうだった。
だが。
やがてため息を吐いた。
『……甘いな』
『厳しすぎるだけだ』
朱雀が返す。
しばらくの沈黙。
そして。
麒麟はアキノリの前へ降り立った。
『来い』
「俺?」
『そうだ』
アキノリは一歩前へ出る。
すると。
黄金の光が溢れた。
光の中から現れたのは妖怪ウォッチ_アニマス。
そして。
二枚のアーク。
麒麟。
朱雀。
『受け取れ』
アキノリは無言でそれらを受け取った。
その瞬間。
光が身体を包み込む。
新たな力が宿る。
アノニマスだった。
すると。
麒麟と朱雀が同時にこちらを見た。
『お前にも与えよう』
『縁ある者だからな』
「?」
意味が分からない。
その時。
#朔夜の額が光った。
淡い光。
朱雀を思わせる模様。
麒麟を思わせる模様。
二つが重なり合う。
[newpage]
「うおっ!?」
「朔夜!?」
周囲が驚く。
しかし。
本人には見えない。
数秒後。
紋様は光となり。
額へ吸い込まれるように消えた。
「今、何した?」
『いずれ分かる』
『時が来ればな』
二柱はそれ以上語らなかった。
そして。
ケータ達は期待に満ちた目を向ける。
「朱雀様!」
「剣武魔神は!?」
「変身は!?」
朱雀は沈黙した。
そして。
『無理だ』
全員。
「えええええっ!?」
『事情がある』
『今は力を貸せぬ』
あまりにもあっさりした返答だった。
ケータが崩れ落ちる。
トウマも肩を落とした。
ナツメも苦笑するしかない。
『だが』
朱雀が翼を広げた。
『麓へ送ることはできる』
その瞬間。
赤い光が広がる。
景色が歪む。
空間そのものが捻じ曲がる。
そして――
気付けば。
一行は双天山の麓に立っていた。
目の前には。
待ちくたびれた様子のドラえもん達。
「遅かったね!」
ドラえもんが駆け寄ってくる。
アキノリは苦笑した。
「色々あったんだよ」
#朔夜も頷く。
「本当に色々な」
予言。
試練。
幻獣。
そして新たな力。
双天山で得たものは決して小さくなかった。
だが彼らはまだ知らない。
これが、これから始まる大きな運命の序章に過ぎないことを――。