六月も終わりに近づいていた。
朝から蒸し暑い。
教室の窓は全開だが、生ぬるい風しか入ってこない。
「暑い……」
「まだ六月なのに……」
教室のあちこちからそんな声が聞こえる。
そんな中、前の席の男子が嬉しそうに言った。
「あとちょっとで夏休みだー!」
「宿題なんて後でやればいいしな!」
「毎日ゲーム三昧だぜ!」
盛り上がるクラスメイト達。
だが――
「そうねぇ」
担任教師はにっこり笑った。
「夏休みということは、その前に期末テストがあります」
教室が静まり返る。
「それから大量の宿題と自由研究もあります」
「うわぁぁぁぁっ!?」
悲鳴が響いた。
「勉強がたくさんできるわね!」
先生の笑顔に、教室中から絶望の声が上がった。
#朔夜も思わず肩を落とす。
(自由研究か……)
何をやるかまったく決めていなかった。
[newpage]
放課後。
#朔夜はのんびりと帰り道を歩いていた。
自由研究。
天体観測。
植物採集。
工作。
どれも今ひとつ気が乗らない。
(何か面白い題材でもあればな……)
そんなことを考えていると――
「おーい!」
聞き慣れた声が飛んできた。
振り返ると、
そこにはドラえもん。
さらにのび太、ジャイアン、スネ夫、しずかもいた。
「どうしたの?」
#朔夜が尋ねると、ドラえもんは封筒を取り出した。
「招待状だよ!」
「招待状?」
「カーラからなんだ」
◇
有星神社。
そこにはすでにナツメ、トウマ、アキノリ、ケータ達も集まっていた。
カーラからの手紙にはこう書かれていた。
[newpage]
『皆様へ
ヒョーガ・ヒョーガ星の氷が解け始めました。
まだ完全ではありませんが、緑も少しずつ戻ってきています。
皆様のおかげです。
ぜひお礼をさせてください。
カーラより』
[newpage]
「おぉ~!」
のび太が声を上げた。
「復興したんだ!」
「完全じゃないけどね」
ナツメが微笑む。
「でも確実に良くなってるみたい」
「星中の人がお礼したがってるらしいね」
ドラえもんも嬉しそうだ。
黒い扉をくぐる。
眩しい光。
次の瞬間。
冷たい風が頬を撫でた。
「うわぁ……」
しずかが感嘆する。
まだ少し寒い。
だが最近の蒸し暑さを考えれば天国だった。
「気持ちいいなぁ……」
のび太は思わず空を見上げる。
遠くには雪解け水の流れる音。
そして芽吹き始めた緑。
以前とは明らかに景色が違っていた。
その時だった。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
背後から盛大な悲鳴が響いた。
全員が振り返る。
そこには見覚えのない少年が立っていた。
[newpage]
「え?」
「誰?」
スネ夫が首を傾げる。
少年も同じくらい驚いている。
「な、なんだここ!?」
「あれ?」
ナツメが目を瞬かせた。
「ケースケ?」
「姉ちゃん!?」
どうやら知り合いらしい。
いや――
姉ちゃん?
「弟?」
#朔夜が尋ねる。
ナツメは苦笑した。
「うん。弟」
「ケースケっていうの」
「はじめまして……」
ケースケはぎこちなく頭を下げた。
事情を聞くと簡単だった。
最近ナツメ達の行動が怪しい。
放課後になると突然いなくなる。
知らない連絡が増えている。
気になって尾行した。
そして――
黒い扉を見つけた。
「そしたら……」
ケースケは震える指で周囲を示した。
「こんな場所に……」
「尾行成功だね」
しずかが感心する。
「感心しちゃダメだろ」
トウマが即座に突っこんだ。
[newpage]
その時。
「おやおや~」
白い影が現れた。
「初めましてですな!」
ウィスパーである。
ケースケは固まった。
数秒。
沈黙。
そして。
「し、白いキモい奴がいる!?」
空気が凍った。
ウィスパーも凍った。
次の瞬間。
「キモいですとぉぉぉぉぉぉ!?」
絶叫。
「私は妖怪執事ウィスパー!」
「由緒正しき妖怪コンシェルジュ!」
「キモいとは何ですかキモいとはぁぁぁぁ!」
ものすごい勢いで迫る。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
ケースケは後退。
さらに後退。
そして――
バタン。
綺麗に気絶した。
「……」
静寂。
のび太がぼそりと呟く。
「前もこんなの見た気がする」
「僕も」
ケータが苦笑する。
#朔夜も同感だった。
(確かに見覚えがある……)
初めて妖怪を見た人間の反応としては満点だった。
そんな中。
#朔夜はカーラへ歩み寄った。
「カーラ」
「うん?」
「どこか休ませられる場所ある?」
地面に倒れたケースケを見ながら言う。
「このままじゃ可哀想だし」
カーラは一瞬きょとんとした後、
くすりと笑った。
「もちろん!」
「町を案内するよ!」
そして一行は、未だ意識を失ったままのケースケを運びながら、復興し始めたヒョーガ・ヒョーガ星の街へ向かうのだった。