赤い髪の少女は、必死に何かを訴えていた。
「――――! ――――――!!」
「わ、分かんないよぉ!」
のび太が半泣きになる。
「落ち着いて!」
しずかが少女を支える。
少女は息を切らしながら、何度もドラえもんを指差した。
ドラえもんははっとすると、慌ててポケットへ手を突っ込む。
「そ、そうだ!」
ごそごそと探り、
「翻訳コンニャク!」
いつものコンニャクを取り出した。
「とりあえずこれ食べて!」
少女は困惑しながらも受け取り、小さく齧る。
数秒。
ぱちり、と少女が目を見開いた。
「……聞こえる」
今度は、はっきり日本語だった。
「えっ、喋れた!?」
ケータが驚く。
少女は周囲を見回し、息を呑む。
そして。
「ブリザーガが復活した!」
青ざめた顔で叫んだ。
空気が止まる。
ドラえもんの顔色が変わった。
◇
「……っ!」
「え?」
のび太が瞬きをする。
「ブリザーガ……?ってまさか。」
しずかが不安げに呟いた。
カーラは震えていた。
「ヒャッコイ博士とはぐれて……気づいたら、変な扉が開いて……!」
言葉が速い。
焦りと恐怖が滲んでいる。
「待って待って待って!」
この少女は何について話しているのか困惑が勝って上手く頭が回らない。それに。
「ブリザーガって何!?」
赤い髪の少女は答えるより先に、ぎゅっと腕を抱いた。
「また凍ってしまう……」
声が震える。
「星も、みんなも……!」
その恐怖は、本物だった。
場の空気が冷えていく。
まるで感情そのものが伝染したみたいに。
ジャイアンですら黙り込んでいる。
スネ夫が小さく唾を飲み込んだ。
ドラえもんも、険しい顔をしていた。
◇◇
一方。
「……ブリザーガ?」
朔夜は小さく首を傾げた。やっぱり、聞いたことがない。
横を見ると、ケータ達も同じ顔をしていた。
「何それ?」
「妖怪?」
「いや、聞いたことない……」
トウマが眉をひそめる。
アキノリも難しい顔で腕を組んだ。
「名前からして寒そうではあるけど……」
その時。
ふらり、と少女の身体が揺れた。
「きゃっ!」
しずかが慌てて支える。
少女はそのまま、意識を失った。
「大丈夫!?」
「しずかちゃん、お願い!」
ドラえもんが言う。
「う、うん!」
しずかは少女を木の根元へ座らせ、上着を掛けた。
静かな夜風が吹く。
誰も喋らない。
◇◇◇
やがて。
ドラえもんが、重く口を開いた。
「……ブリザーガは、ヒョーガヒョーガ星に封印されていた存在なんだ」
のび太達が息を呑む。
「ものすごいエネルギーを持っていて……暴走すると、星そのものを凍らせてしまう」
「星を……?」
ケータが青ざめる。
「そんなのアリ!?」
「ありえない規模だな……」
トウマも真顔になる。ドラえもんは頷いた。
「前に、ボク達も戦ったことがあるんだ。そして彼女はカーラ。その時の関係者なんだ。」
その声は珍しく真剣だった。
「もし本当に復活したなら……かなり危険だよ」
沈黙。
数秒後。
「……ヤバいじゃん」
ケータがぽつりと言った。
「ヤバいわね」
ナツメも即答した。
「いや、“ヤバい”で済む話!?」
スネ夫が悲鳴を上げる。
「でも放っとけねぇだろ」
ジャイアンが腕を組む。
のび太は半泣きだ。
「えぇぇ〜……また命がけぇ……?」
「のび太さん」
しずかが少し困ったように笑う。
◇◇◇◇
#朔夜は静かに黒い扉を見た。まだ微かに光っている。
「……この扉、まだ、繋がってるのかな」
ドラえもんが頷く。
「たぶん。今なら向こうへ行けるはずだ」
「行くしかないってことね」
ナツメが言った。
「ちょ、ちょっと待ってよ!?」
スネ夫が顔を引きつらせる。
「なんで当然みたいに宇宙行く流れになってるの!?」
誰も答えない。ただ静かに視線が集まる。
「…………」
スネ夫が後ずさる。
「……え、なにこの空気」
ジャイアンが肩を掴んだ。
「行くぞ、スネ夫」
「イヤだぁぁぁ!!」
数分後。
一同は黒い扉の前へ並んでいた。
ドラえもんがゆっくり手を掛ける。
ギィ――。
扉が開く。
瞬間。
凍えるような冷気が吹き込んだ。
「さっむ!!」
ケータが叫ぶ。
◇◇◇◇◇
向こう側に広がっていたのは――。
一面の氷雪世界。
白い大地。
吹き荒れる氷の風。
夜空には、見たこともない星々。
ヒョーガヒョーガ星。
そこは、骨まで凍りそうな極寒の世界だった。