六月も終わりに近づいていた。
昼を過ぎた商店街は蒸し暑く、アスファルトからむわりとした熱気が立ち上っている。
「はぁ……暑い」
#朔夜は額の汗を拭った。
今日は母から頼まれたお使いがある。
商店街を抜けようとしたその時。
ふと視界の端に見覚えのある姿が映った。
「あれ……?」
立ち止まりかける。
茶色の髪を揺らす少女。
そして黒髪の少女。
しずかとナツメだった。
二人は何やら楽しそうに話しながら、とある店へ入っていく。
入口には色鮮やかなポスター。
夏向けの商品が並んでいる。
どうやら衣料品店らしい。
(何してるんだろう)
少し気になった。
だが、
(いや、先にお使いだな)
首を振る。
母に頼まれた用事を後回しにはできない。
#朔夜は足を速めた。
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荷物を運び終えた頃には、少しだけ日が傾き始めていた。
「ありがとうね、#朔夜ちゃん」
のび太の母が笑顔で頭を下げる。
「いえ」
朔夜も軽く会釈した。
これでお使いは終了。
帰ってもよかったが、何となくそのまま帰る気になれなかった。
最近は黒い扉の件もある。
ドラえもんと話をしたい気分だった。
「ドラえもん、いる?」
「二階にいるわよ」
許可をもらい、階段を上る。
すると途中から何やら声が聞こえてきた。
「もう少し右!」
「分かってるよ!」
「危ない危ない!」
どうやら何か作業中らしい。
#朔夜は廊下を進み、のび太の部屋の前で立ち止まった。
コンコン。
「入るよー」
返事を待たずに扉を開く。
「おっ、#朔夜!」
「ちょうどいいところだよ!」
部屋の中央ではドラえもんとのび太が何やら機械を操作していた。
机の上にはモニター。
そして見慣れないコントローラー。
「何してるんだ?」
#朔夜が尋ねる。
ドラえもんは得意げに胸を張った。
「新しい調査だよ!」
モニターを指差す。
そこに映っていたのは空からの映像だった。
「ドローン?」
「そう!」
ドラえもんが頷く。
「しかも普通のじゃない!」
「光学迷彩付き!」
「住人に見つからないんだ!」
画面の中では見知らぬ町が広がっていた。
さくらニュータウン。
続いて別の場所。
高層ビルが立ち並ぶ巨大都市。
車が行き交い、人々が歩いている。
だがどこか見慣れない。
「黒い扉の向こう?」
「うん」
ドラえもんは真剣な表情になった。
「境界の異変が続いてるからね」
「今のうちに色々調べておこうとって」
なるほど。
#朔夜は納得した。
画面を見つめる。
見知らぬ景色。
未知の世界。
それだけでも少しわくわくする。
「手伝うよ!」
突然のび太が言った。
#朔夜は即座に振り向く。
「宿題は?」
「うっ」
固まるのび太。
「自由研究」
「読書感想文」
「計算ドリル」
「まだだろ」
「な、なんで分かるんだよ!?」
「顔に書いてある」
即答だった。
ドラえもんが吹き出す。
「当たってる」
「当たってるの!?」
のび太が叫ぶ。
#朔夜はため息をついた。
「手伝うって言い出した時点で怪しかった」
「うぅ……」
図星だったらしい。
のび太は悔しそうに振り返った。
その瞬間。
ガッ。
「わっ」
「のび太ぁ!」
コントローラーのスティックに手が当たった。
画面が大きく揺れる。
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「ちょっ!」
「操作!」
「戻して戻して!」
ドローンは急旋回。
映像がぐるぐる回る。
高層ビル。
空。
道路。
海。
そして――
「ん?」
#朔夜が声を漏らした。
映像が一瞬だけ安定する。
そこに映っていたのは海辺だった。
青い海。
防波堤。
小さな漁港。
そしてその近くには海水浴場らしき砂浜も見える。
「ここ……」
「初めて見る場所だな」
ドラえもんも画面を覗き込む。
「もう一回映せる?」
操作を立て直しながらドローンを旋回させる。
再び同じ場所が映った。
穏やかな海。
港町。
特にわった様子はない。
だが。
「調べてみる価値はあるかも」
#朔夜が呟く。
ドラえもんも頷いた。
「そうだね」
「それに――」
のび太が画面を指差した。
「海水浴できそうじゃない?」
沈黙。
数秒後。
「確かに」
ドラえもんが言った。
「確かにじゃないだろ」
#朔夜は即座に突っ込んだ。
だが内心では少しだけ気になっていた。
海。
夏。
そして調査。
自由研究の題材になるかもしれない。
「みんなも誘う?」
ドラえもんが尋ねる。
#朔夜は少し考え、
「……まあ、調査なら」
とだけ答えた。
その言葉に、のび太が満面の笑みを浮かべる。
こうして一行は、黒い扉の向こうにある海辺の町へ向かう計画を立て始めるのだった。