「君、大丈夫かい?」
穏やかな声だった。
#朔夜は少しだけ警戒しながら振り返る。
そこには眼鏡を掛けた少年が立っていた。
片目を長い前髪で隠した、不思議な雰囲気の少年。
けれど。
何故だろう。
怖くなかった。
むしろ――
この人なら大丈夫。
そんな感覚があった。
「……ここ、どこなの?」
思わず聞いていた。
少年は少し笑う。
「妖怪縁日だよ」
「妖怪縁日?」
「うん」
そして続ける。
「それと」
「無理して敬語使わなくていいから」
「え?」
「同じくらいの歳でしょ?」
そう言って笑った。
どこか親しみやすい笑顔だった。
[newpage]
妖怪縁日。
そう聞いていたが、歩いてみると意外だった。
射的。
金魚すくい。
綿あめ。
焼きそば。
りんご飴。
人間のお祭りと大差ない。
違うのは店員や客の中に妖怪が混ざっていることくらいだった。
「なんか普通だね」
「だろ?」
少年は笑う。
「みんな祭りは好きだから」
その言葉に#朔夜も少し納得した。
◇
その時だった。
ふと。
ある屋台が目に入る。
#朔夜は足を止めた。
「……」
宝石屋だった。
棚の上には色とりどりの宝玉が並んでいる。
その中で一つだけ。
青い宝石。
黒い組み紐。
まるで夜空を閉じ込めたような深い青。
視線が離れない。
欲しい。
自分でも驚くほどそう思った。
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「へぇ」
隣で少年が笑った。
「渋いなぁ」
「え?」
「それ選ぶんだ」
少年は宝玉を見つめる。
そして少しだけ考えるように目を細めた。
「本当ならダメなんだけど……」
「?」
「君なら大丈夫かな」
意味深な言葉だった。
何か言いたげだったが、それ以上は語らない。
代わりに屋台へ近付く。
「これ、お願いできる?」
店員の妖怪が目を丸くした。
「マ、マオ様!?」
「え?」
#朔夜も驚く。
様?
偉い人なのか?
だが本人は気にした様子もない。
「これで」
会計を済ませてしまう。
「あっ!」
#朔夜は慌てた。
「代金払う!」
「いいよいいよ」
マオは手を振る。
「でも――」
「いいから」
優しく笑う。
「また会った時でいいから」
そこまで言われると反論できなかった。
「……ありがとう」
「うん」
マオは満足そうに頷いた。
◇
しばらく歩く。
「それにしても」
マオが宝玉を見る。
「なんでこれだったの?」
「え?」
「もっと派手なのもあったのに」
#朔夜は少し考える。
「弓を習ってるから」
「なるほど」
「弓に合うかなって」
「……」
マオは何故か笑った。
「敬語」
「あ」
またやってしまった。
「だから弓に合うかなって」
言い直す。
マオは満足そうに頷いた。
「うん」
「そっちの方がいい」
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話しているうちに。
気付けば祭りの賑わいは少しずつ遠ざかっていた。
石段。
そして大きな鳥居。
山の頂上に近い場所だった。
「ここ?」
「うん」
マオが頷く。
「出口」
そう言って鳥居をくぐった。
#朔夜も後に続く。
その瞬間。
――ドォン。
夜空に大輪の花が咲いた。
花火だった。
鮮やかな光が空を染める。
風景が一瞬揺れる。
そして。
次の瞬間には。
見慣れた祭りの通りへ戻っていた。
人間達の声。
屋台の灯り。
さっきまでとは違う景色。
「帰れたね」
マオが微笑む。
#朔夜はほっと息を吐いた。
「あれ?」
その時だった。
「君も来たの?」
#朔夜も振り返る。
そこには一人の少女――いや、女性が立っていた。
昼間。
トウマと一緒に荷物運びを手伝った相手。
犬山まなだった。
花火の光に照らされながら、
彼女は少し困ったような顔でこちらを見ていた。
「えっと……」