ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#四十八話

夏休みに入って数日。

#朔夜は机に向かったまま唸っていた。

「うーん……」

自由研究。

未だに何をまとめるか決まっていない。

海にも行った。

花火大会にも行った。

面白い出来事もたくさんあった。

だが、それをそのまま提出できるわけではない。

黒い扉。

妖怪。

異世界。

そんなものを書いたら先生が困る。

「妖怪とお化けの違い……かなぁ」

以前思いついた題材をノートに書く。

だが、そこから先が進まない。

資料がない。

図書館に行くのもありだが――

ふと、一人の顔が浮かんだ。

「アキノリのおばあちゃん……」

あの人なら詳しそうだ。

よし。

聞きに行こう。

[newpage]

有星神社。

境内の掃除をしていたおばあちゃんは、#朔夜の話を聞くと、

「ほう」

と頷いた。

「自由研究のぅ」

「はい」

「妖怪とお化けの違いを調べたくて」

すると、おばあちゃんは腕を組む。

しばらく考えた後、

「よし」

と言った。

「教えてやってもよい」

「本当ですか?」

「ただし条件付きじゃ」

嫌な予感がした。

「駅前の洋菓子屋に限定シュークリームがある」

「それを買ってきてくれんかの」

「……シュークリームですか?」

「うむ」

「限定品じゃ」

「午前中で売り切れる」

#朔夜は時計を見る。

残り時間はあまりない。

「行ってきます!」

そう言って駆け出した。

背後で。

「若いのう」

という声が聞こえた気がした。

 

 

駅前の洋菓子店。

店内には人が多かった。

ショーケースには様々なシュークリームが並んでいる。

だが――

「限定品ってどれ……?」

分からない。

店員も忙しそうだ。

迷った末、

#朔夜は決断した。

「この五個入りください」

全部入っているなら間違いない。

会計を済ませる。

そして再び神社へ向かおうとして――

近くのベンチに腰掛けた。

「はぁ……」

走ったせいで暑い。

自販機で買ったジュースを開ける。

冷たい。

生き返る。

何気なく店を見る。

すると、

『本日分完売しました』

の札が出された。

店員達が片付けを始めている。

本当にギリギリだったらしい。

その時だった。

「うそでしょ……」

少し離れた場所から声が聞こえた。

振り返る。

黒い魔女服。

大きな帽子。

見覚えのない少女だった。

高校生くらいだろうか。

彼女は呆然と店を見ていた。

「カスタードの……」

「食べたかったのに……」

かなり落ち込んでいる。

#朔夜は思わず袋を見る。

五個入り。

別に全部必要なわけではない。

むしろ――

(自分が全部買わなかったら、この人も買えたかもしれない)

そんな考えが頭をよぎった。

少し迷う。

そして立ち上がった。

[newpage]

「あの」

少女が振り返る。

「はい?」

「よかったら」

袋から一つ取り出す。

「食べます?」

数秒。

少女は固まった。

そして。

「いいの!?」

目が輝いた。

「え、でも本当に!?」

「うん」

「食べたかったんだよね?」

「食べたかった!」

即答だった。

「ありがとう!」

満面の笑顔。

なんだかこちらまで嬉しくなる。

「私はアニエス!」

「#朔夜です」

短いやり取り。

だがアニエスはシュークリームを抱えながら、

「本当にありがとう!」

と何度も言っていた。

 

 

神社へ戻る。

縁側ではアキノリ達が集まっていた。

「お、帰ってきた」

「買えた?」

「たぶん」

袋を差し出す。

おばあちゃんが中を見る。

そして。

「ああ、これじゃ」

一つを取り出した。

「あずきあん?」

「限定品じゃ」

朔夜は思わず脱力した。

「分かるわけないよ……」

「それな」

トウマが頷く。

「絶対分からない」

ナツメも同意した。

[newpage]

残ったシュークリームは三個。

朔夜は袋を差し出した。

「みんなで食べる?」

一瞬の静寂。

そして。

「じゃんけんだ!」

アキノリが叫んだ。

「望むところだ」

トウマが立ち上がる。

「負けないよ」

ナツメも本気だ。

数秒後。

縁側では激しいじゃんけん大会が始まっていた。

「最初はグー!」

「じゃんけんぽん!」

「うわあああ!」

「勝った!」

「負けたー!」

大騒ぎである。

その横で。

おばあちゃんは優雅にシュークリームを食べていた。

「さて」

#朔夜を見る。

「約束じゃな」

 

 

「妖怪とお化けの違い――」

おばあちゃんは静かに語り始めた。

「まず、人は昔から理解できんものを恐れてきた」

「雷や嵐、病気や飢饉」

「そういう恐れが形になったものの一つが妖怪じゃ」

#朔夜はメモを取る。

「妖怪は自然や土地と結びついておることが多い」

「山には山の妖怪」

「川には川の妖怪」

「地域ごとに伝承も違う」

「神道や民間信仰とも深く関わっとる」

なるほど。

「じゃあ、お化けは?」

「お化けという言葉は広い」

おばあちゃんは答えた。

「だが一般的には、死者の霊や幽霊を指すことが多いの」

「妖怪と幽霊は似ておるようで別物じゃ」

「もちろん例外もあるがな」

#朔夜のペンが止まらない。

これは確かに自由研究になる。

「伝承を調べる時は、その土地の歴史も見ることじゃ」

「妖怪は土地の記憶を映す鏡みたいなものじゃからの」

[newpage]

十分ほど話を聞いた後。

おばあちゃんはふと首を傾げた。

「……というか」

「?」

「ワシに聞かずとも専門家がおるではないか」

全員が顔を上げた。

「専門家?」

「うむ」

おばあちゃんは当然のように言った。

「目玉おやじ殿じゃ」

沈黙。

「……あ」

アキノリ。

「あー」

ナツメ。

「確かに」

トウマ。

#朔夜も固まった。

言われてみればその通りだった。

妖怪そのものに詳しい人物が身近にいる。

「今さらじゃな」

おばあちゃんは笑う。

そして最後の一口を食べながら、

「まあ、ワシも限定シュークリームが食べたかったからの」

と満足そうに言った。

どうやら今回の取引。

一番得をしたのは、この人だったらしい。

#朔夜は思わず苦笑した。

自由研究は――

まだ終わりそうになかった。

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