ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#第四十九話

夏休み。

自由研究は未だ完成していなかった。

机の上にはノートが広げられている。

そこには、

『妖怪とお化けの違いについて』

とだけ書かれていた。

「うーん……」

#朔夜は頭を抱える。

昨日、有星神社でアキノリのおばあちゃんから話を聞いた。

確かに勉強にはなった。

だが逆に疑問も増えた。

妖怪。

幽霊。

悪霊。

似ているようで違う。

違うようで繋がっている。

考えれば考えるほど分からなくなる。

そんな時だった。

ふと昨日のおばあちゃんの言葉を思い出す。

『ワシに聞かずとも専門家がおるじゃろう?』

専門家。

つまり――

目玉おやじだ。

 

 

翌日。

朔夜は布天神社へやって来ていた。

目玉おやじがいる場所。

鬼太郎の住む場所。

その入り口が、この神社の裏手にある森だと聞いていた。

「この森かな……?」

目の前には鬱蒼とした森が広がっている。

昼間だというのに薄暗い。

木々は空を覆い隠し、奥の様子はほとんど見えなかった。

風が吹く。

葉が揺れる。

どこか不思議な雰囲気が漂っていた。

「本当にこの中なのかな……」

一歩踏み込もうとして。

止まる。

少し怖い。

というかかなり怖い。

知らない森に一人で入るのは普通に勇気がいる。

どうしようか。

迷っていると――

「あれ?」

後ろから声が聞こえた。

振り返る。

そこにいたのは見覚えのある少女だった。

[newpage]

黒い魔女服。

大きな帽子。

金色の髪。

「あ」

#朔夜も思わず声を上げる。

「昨日のシュークリームの子!」

「アニエスさん」

アニエスは楽しそうに笑った。

「また会ったわね」

「うん」

「こんな所で何してるの?」

#朔夜は森を見る。

「ゲゲゲの森に行こうと思って」

すると。

アニエスが目を瞬かせた。

「え?」

「一人で?」

「そのつもりだったけど……」

アニエスは額に手を当てた。

「無理よ」

「え?」

「ゲゲゲの森は誰でも入れる場所じゃないもの」

どうやら事情を知っているらしい。

「認められた人間か」

「縁のある妖怪と一緒じゃないと辿り着けないわ」

「そうなの?」

「そうなの」

即答だった。

「じゃあ帰ろうかな……」

#朔夜が少し肩を落とす。

するとアニエスが笑った。

「せっかくだし案内してあげる」

「え?」

「私なら入れるから」

[newpage]

二人は森の中へ入った。

予想していたより歩きやすい。

獣道のような道が続いている。

鳥の声。

虫の声。

木漏れ日。

静かな森だった。

「もっと奥にあると思ってた」

#朔夜が呟く。

アニエスが笑う。

「そう思うでしょ?」

そして。

その五分後。

「着いたわ」

「え?」

目の前には一軒の小さな家があった。

木造。

手作り感満載。

正直に言うなら掘っ建て小屋である。

「近っ!?」

思わず声が出た。

アニエスが吹き出す。

「初めて来た人はみんなそう言うのよ」

 

 

家の前では鬼太郎が縁側に座っていた。

「やあ」

いつもの落ち着いた声。

「こんにちは」

#朔夜が頭を下げる。

鬼太郎はすぐに事情を察したらしい。

「自由研究?」

「うん」

「目玉おやじさんに話を聞きたくて」

「なるほど」

すると家の中から声がした。

「呼んだかの?」

目玉おやじである。

[newpage]

お茶を飲みながら。

自由研究のための講義が始まった。

「妖怪と幽霊の違いじゃな」

目玉おやじは腕を組む。

「難しい話じゃ」

「やっぱり?」

「うむ」

即答だった。

「まず鬼太郎は妖怪じゃ」

「うん」

「猫娘も妖怪」

「うん」

「ねずみ男も妖怪」

「……うん」

一瞬だけ反応に困った。

「妖怪には自由意志がある」

「飯も食う」

「寝る」

「笑う」

「怒る」

「人間と変わらん」

#朔夜はメモを取る。

「それに妖怪には種族がおる」

「種族?」

「河童や天狗みたいなものじゃ」

なるほど。

確かに。

妖怪には親子や一族がいる場合もある。

「妖怪によっては繁殖で増える」

「修行して妖怪になる者もおる」

「長い年月を経て変化する者もおる」

「猫又とか?」

鬼太郎が補足する。

「そういうことじゃ」

 

 

「じゃあ幽霊は?」

#朔夜が聞く。

目玉おやじは少し考えた。

「幽霊は霊魂じゃ」

「霊魂……」

「未練や執着を抱えて留まっておることが多い」

「本人も死んだことに気付いておらん場合もある」

朔夜は頷く。

地縛霊の話を聞いたことがある。

「だから同じ行動を繰り返したりする」

「自由意志は?」

「ある場合もある」

目玉おやじは答えた。

「じゃが本能や執着に引っ張られやすい」

「なるほど……」

[newpage]

「悪霊は?」

さらに聞く。

「悪霊はの」

目玉おやじの表情が少し真面目になった。

「恨み」

「憎しみ」

「復讐心」

「そういった強い感情に支配された霊魂じゃ」

「人を傷つけることもある」

「じゃが元は普通の霊魂じゃ」

#朔夜はペンを止めた。

「じゃあ……」

「幽霊が悪霊になることも?」

「ある」

目玉おやじは頷く。

「逆もある」

「え?」

「恨みが解ければ成仏することもある」

ますます難しくなってきた。

[newpage]

「さらに言えば」

目玉おやじは続ける。

「長い年月を経て妖怪になる者もおる」

「え?」

「悪霊が?」

「そういう例もある」

#朔夜は完全に混乱した。

妖怪。

幽霊。

悪霊。

別物。

だけど繋がっている。

境界線があるようで無い。

「つまり」

#朔夜はノートを見る。

「妖怪は自由意志を持つ存在」

「幽霊は霊魂」

「悪霊は強い執着を持った霊魂」

「でも場合によっては変化することもある」

「うむ」

「合ってる?」

「大体はの」

目玉おやじは笑った。

 

 

話が終わった頃。

ノートはびっしり埋まっていた。

だが。

#朔夜の頭の中は逆だった。

「分かったような……」

「分からなくなったような……」

思わず呟く。

鬼太郎が苦笑した。

アニエスも笑っている。

目玉おやじは湯飲みを置いた。

そして。

「それが妖怪じゃ」

と一言。

妙に納得してしまう言葉だった。

研究は進んだ。

確かに進んだ。

だが。

まだ終わりそうにはない。

そんな予感だけは確実にしていた。

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