ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

50 / 165
#五十話

目玉おやじの話も、そろそろ終わりに近づいていた。

「――というわけで、妖怪と幽霊は似ておるようで違う存在なんじゃ」

「なるほど……」

#朔夜は頷いた。

正直、分かったような分からないような気もしたが、自由研究の資料としては十分すぎるほどの内容だった。

その時だった。

バサバサッ!

一羽のカラスが窓から飛び込んできた。

「あれ?」

#朔夜が目を瞬く。

鬼太郎は立ち上がると、カラスへ顔を近づけた。

何かを話している。

しかし人間には聞き取れない。

数秒後。

鬼太郎の表情が変わった。

「何だって……!?」

珍しく動揺した声だった。

猫娘も眉をひそめる。

「鬼太郎?」

「急がないと」

それだけ言うと、鬼太郎は慌てて外へ飛び出した。

「えっ!?」

#朔夜は思わず立ち上がる。

事情も説明されていない。

だが様子がおかしいことだけは分かった。

「待って!」

猫娘も後を追う。

#朔夜も自然と駆け出していた。

 

 

しばらくして。

森の開けた場所に停まっていたのは――

大量のカラスだった。

「うわ……」

#朔夜は思わず足を止める。

カラス達は整列し、大きな駕籠のようなものを支えている。

カラスタクシー。

鬼太郎の移動手段だった。

「乗るよ」

鬼太郎が言った。

「え?」

「時間がない」

その言葉で全員が乗り込む。

そして。

次の瞬間。

バサァァァァッ!

大量の羽音と共に空へ舞い上がった。

「ひぃっ!?」

#朔夜は反射的に縁へしがみつく。

高い。

とにかく高い。

タケコプターで空を飛ぶことには慣れている。

だがこれは別だった。

飛行高度がおかしい。

下を見ると森が豆粒みたいに見える。

見なかったことにした。

絶対に下は見ない。

そう心に決める。

[newpage]

猫娘が少し驚いた顔をした。

「高いところ苦手だった?」

「苦手じゃない」

#朔夜は即答した。

「ただ見たくないだけ」

「それを苦手って言うのよ」

返す言葉がなかった。

 

 

やがて。

カラスタクシーは深い山奥へ降り立った。

そこには砂かけ婆がいた。

珍しく真面目な顔をしている。

「来たか」

「何があったんです?」

鬼太郎が尋ねる。

砂かけ婆は後ろを指差した。

そこには簡易的な小屋。

そして。

三人の怪我人が寝かされていた。

#朔夜はそちらへ目を向ける。

最初に目に入ったのは少女だった。

褐色の肌。

長い耳。

犬を思わせる顔立ち。

白い衣装と金色の装飾品を身につけている。

どこか王族を思わせる雰囲気があった。

美しいが、今は怪我で眠っている。

その隣。

白い毛並みを持つ少年。

犬耳。

王冠のような装飾。

青とも緑とも言えない不思議な瞳。

そして――

朔夜は目を見開いた。

「え……?」

見覚えがある。

間違いない。

[newpage]

「ペコ……?」

ぽつりと呟いた。

白い犬耳が微かに動く。

その名前を聞いて。

少年がゆっくり目を開いた。

「……え?」

#朔夜を見た。

そして驚いた顔になる。

「君……」

やはり覚えている。

#朔夜も確信した。

以前。

のび太の家にいた犬。

のび太が大切にしていた犬。

ペコだった。

「やっぱりペコだ」

「どうして……」

ペコは信じられないという顔をする。

#朔夜は昔を思い出した。

ペコがいなくなった後。

一度だけのび太に聞いたことがある。

『ペコは?』

すると。

のび太は少し寂しそうな顔で言った。

『家に帰ったんだ』

それ以上は聞かなかった。

だから。

まさかこんな場所で再会するとは思っていなかった。

「のび太達も元気だよ」

その言葉を聞いた瞬間。

ペコの表情が緩んだ。

心の底から安心したような顔だった。

そして。

ぷつりと緊張の糸が切れたらしい。

そのまま再び意識を失った。

[newpage]

「えっ!?」

#朔夜が慌てる。

「大丈夫じゃ」

砂かけ婆が言った。

「安心して気が抜けただけじゃろ」

どうやら本当にそうらしい。

そして。

最後に。

小さな子供が目に入った。

年齢は五歳くらいだろうか。

薄い茶色の毛並み。

丸い耳。

犬のような顔立ち。

小さな体を震わせながら眠っている。

だが。

その口は絶えず動いていた。

「いやだ……」

「……?」

#朔夜は耳を傾ける。

少年は苦しそうに呟いた。

「黒い太陽……」

「……!」

その場の空気が少しだけ重くなった。

「黒い太陽が……」

「来る……」

「襲ってくる……」

何度も。

何度も。

うわ言のように繰り返している。

鬼太郎の表情が険しくなる。

猫娘も真剣だった。

「黒い太陽?」

#朔夜は首を傾げる。

聞いたことのない言葉だった。

だが。

なぜだろう。

妙に胸がざわつく。

ただの夢ではない。

そんな気がした。

鬼太郎は眠る三人を見つめながら呟く。

「間違いない」

「何かが起きている」

山を吹き抜ける風が木々を揺らした。

夕暮れの空は静かだった。

けれど。

その静けさの向こうで。

何か大きな事件が動き始めている。

そんな予感だけが。

#朔夜の胸に残り続けていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。