ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#五十一話

山奥の庵には重苦しい空気が漂っていた。

砂かけ婆の手当てによって犬人族たちの命に別状はなかったものの、誰一人として安心はしていない。

眠り続けるチッポは時折苦しそうに眉をひそめ、

「……くろい……たいよう……」

とうわ言を漏らしていた。

その言葉を聞くたびに、その場にいる全員の表情が曇る。

鬼太郎は腕を組みながら窓の外を見ていた。

猫娘は壁にもたれ、目玉おやじは湯飲みの中に浸かりながら考え込んでいる。

そして朔夜は――納得できない顔でペコを見つめていた。

かつてのび太たちの友人。

そのペコが傷だらけになって現れた。

しかも魔境では何か大きな異変が起きている。

放っておけるはずがなかった。

沈黙を破ったのは鬼太郎だった。

「#朔夜くん」

呼ばれた#朔夜は顔を上げる。

鬼太郎は真っ直ぐ彼を見ていた。

「君は帰るんだ」

一瞬、意味が分からなかった。

「……は?」

思わず聞き返す。

「これから僕たちは魔境へ向かう。けれど君は月見台へ帰るんだ」

「なんで!?」

反射的に立ち上がる。

「ペコが襲われたんだよね!? チッポだってあんな状態だし! だったら――」

「危険だからだ」

鬼太郎は静かに言った。

だがその一言では納得できない。

「危険なのは分かってるよ!」

#朔夜は声を荒げた。

「今までだって危険なことはいくらでもあったし!」

ヒョーガ・ヒョーガ星。

ブリザーガ。

双天山。

境界異変。

思い返せば危険だらけだった。

それでも皆で乗り越えてきた。

なのに今さら帰れと言われても納得できるはずがない。

[newpage]

しかし鬼太郎は首を横に振った。

「相手が何者なのか分からない。目的も分からない。情報が少なすぎる」

その声音には迷いがなかった。

「だから調べる!」

「そのために僕たちが行く」

鬼太郎の言葉に、#朔夜はさらに反論しようとした。

その時だった。

「まあ落ち着くんじゃ、#朔夜くん」

目玉おやじが口を開く。

「鬼太郎の言うことももっともじゃ」

「でも……」

「心配なのは分かる。しかし今はまだ危険すぎる」

目玉おやじは珍しく真剣だった。

「まずはわしらが状況を確認する。話はそれからじゃ」

#朔夜は唇を噛み締める。

納得はできない。

だが二人とも本気で心配している。

それだけは伝わってきた。

しばらく沈黙した後。

#朔夜は小さく息を吐いた。

「……分かった」

不承不承の返事だった。

猫娘が前へ出る。

「じゃあ私が送っていく」

帰り道。

夕暮れの山道を猫娘と二人で歩く。

いつもなら気軽に話しかけてくる猫娘も、今日はどこか静かだった。

#朔夜もまた、納得できない気持ちを抱えたまま歩いている。

[newpage]

猫娘がぽつりと言った。

「怒ってる?」

「少し」

正直に答える。

猫娘は苦笑した。

「そうよね」

風が木々を揺らす。

しばらく沈黙が続いた。

そして猫娘は前を向いたまま続けた。

「でもね」

その声はどこか寂しげだった。

「私たち……二度と友人を失いたくないの」

#朔夜は足を止めた。

友人。

その言葉に引っかかる。

「友人?」

猫娘は一瞬だけ振り返った。

だがすぐに視線を逸らす。

「……今は聞かないで」

それ以上は語らなかった。

けれどその表情だけで十分だった。

何かがあったのだ。

鬼太郎たちにとって忘れられない出来事が。

#朔夜は追及しなかった。

ただ静かに歩き続ける。

やがて布多布神社へ辿り着く。

境内は夕日に染まっていた。

「ここまでね」

猫娘が立ち止まる。

「送ってくれてありがとう」

「気にしないで」

そう言いながらも猫娘は少し心配そうだった。

「無茶しないでよ」

「それは鬼太郎にも言って」

「伝えとく」

少しだけ笑う。

それが別れの合図だった。

猫娘は木々の向こうへ消えていく。

#朔夜はその背中が見えなくなるまで見送った。

[newpage]

そして――

スマホを取り出す。

『境界観測チャット』

を開いた。

【朔夜】

『今帰った』

 

数秒後。

通知が一気に鳴り始める。

 

【ドラえもん】

『無事でよかった!』

 

【ナツメ】

『おかえり』

 

【アキノリ】

『どうだった?』

 

【#朔夜】

『鬼太郎さん達は魔境へ向かう』

 

【#朔夜】

『自分だけ帰された』

 

その瞬間。

チャットがざわついた。

 

【ジャイアン】

『はぁ!?』

 

【スネ夫】

『なんでだよ』

 

【しずか】

『危険だから?』

 

【#朔夜】

『多分』

 

するとすぐに、

 

【ジャイアン】

『納得できねぇ』

 

その一言が流れる。

 

【トウマ】

『同意』

 

【アキノリ】

『完全同意』

 

【ナツメ】

『私も』

 

【スネ夫】

『珍しくジャイアンと意見が合った』

 

【ジャイアン】

『珍しくってなんだ』

 

チャットが少しだけ和む。

しかし次の瞬間。

 

【ケータ】

『妖怪の仕業なら、それこそ僕ら妖怪探偵団の出番じゃん』

 

全員が黙った。

数秒後。

 

【アキノリ】

『確かに』

 

【ナツメ】

『それはそう』

 

【トウマ】

『本業だな』

 

【ジャイアン】

『決まりだな』

 

【ドラえもん】

『待って待って待って!?』

 

だがもう遅かった。

流れは決まっていた。

鬼太郎たちだけに任せる気など、誰にもなかったのである。

そしてその夜。

ドラえもんの家で緊急会議が開かれることになる。

かつてペコと共に冒険した魔境へ――。

再び向かうために。

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