どこでもドアを潜った瞬間。
むわり、と湿った熱気が全身を包み込んだ。
「うわっ……暑っ!」
ケースケが思わず顔をしかめる。
目の前に広がっていたのは、見渡す限りの熱帯雨林だった。
空を覆い隠すほど巨大な木々。
複雑に絡み合う蔦。
濃い緑の匂い。
そして絶え間なく聞こえてくる鳥や虫の鳴き声。
日本ではまず見ることのない光景だった。
「ここがアマゾン……」
#朔夜は思わず呟く。
地図や映像で見たことはあったが、実際に立つと圧倒される。
「懐かしいなぁ」
のび太が辺りを見回した。
「前に来た時もこんな感じだったよね」
「いや、前より暑くなってない?」
スネ夫が額の汗を拭う。
「気のせいだろ」
ジャイアンが笑う。
その横でドラえもんは川辺へ向かっていた。
「さて、それじゃ移動手段を出そうかな」
ポケットから取り出したのは、小さな船の模型だった。
「探検ごっこ用蒸気船!」
船を水面へ置く。
するとみるみる巨大化し、本物の蒸気船へと変化した。
白い船体。
木製の甲板。
後部には大きな外輪。
まるで探検家の乗る冒険船そのものだった。
「おおー!」
ケースケが目を輝かせる。
「かっけぇ!」
「探検なんだから雰囲気も大事だろ?」
ドラえもんは得意げだった。
やがて全員が乗り込み、蒸気船はゆっくりと上流へ向けて進み始める。
航海は順調だった。
川岸には色鮮やかな鳥が止まり、
巨大な花が咲き、
時折見たこともない動物の姿も見える。
ケースケとジバニャンはその度に騒ぎ、
ナツメとトウマに叱られていた。
「平和だなぁ」
アキノリが呟く。
「嵐の前の静けさかもよ?」
ケータが笑う。
その時だった。
川面に何かが浮かび上がる。
二つの黄色い目。
続いてもう一つ。
さらにもう一つ。
「……ワニ?」
#朔夜が言った瞬間。
バシャッ!
巨大なワニが姿を現した。
「うおっ!?」
ケースケが飛び上がる。
しかしドラえもん達は妙に落ち着いていた。
[newpage]
「あー、いたいた」
のび太が言う。
「懐かしいな」
「前はここで大変だったんだよな」
スネ夫も苦笑する。
ワニ達は船を追いかけてくるものの、蒸気船には追いつけない。
しばらくすると諦めて去っていった。
「昔は苦労したんだぞ」
ジャイアンが笑う。
「今回は余裕だな」
過去の経験者達と、新メンバー達。
その差がよく分かる場面だった。
だが。
アマゾンの日暮れは早い。
まだ昼過ぎだと思っていたのに、いつの間にか太陽は傾き始めていた。
夕焼けが川を赤く染める。
そして。
気付けば辺りは暗くなり始めていた。
「もう夜!?」
しずかが驚く。
「熱帯地方だからね」
ドラえもんが説明した。
「ここは日が落ちるのが早いんだ」
「じゃあ今日は野宿?」
トウマが尋ねる。
「その必要はないよ」
ドラえもんは再びポケットへ手を入れた。
取り出したのは小さな瓶。
「植物改造エキス!」
一行は川辺にそびえる巨大な樹木の前へ降り立った。
幹だけで家ほどの大きさがある。
「この木を使うの?」
#朔夜が尋ねる。
「うん」
ドラえもんはエキスを振りかけた。
すると木が震え始める。
ゴゴゴゴ……
幹が広がり。
窓が生まれ。
扉が現れる。
さらに内部には階段や部屋まで形成されていった。
数分後。
巨大なツリーハウスが完成する。
「すご……」
#朔夜は思わず見上げた。
しかも内部は予想以上だった。
[newpage]
各自に個室が与えられ、
簡易ベッドや机まで設置されている。
「ホテルじゃん」
トウマが呆れる。
「秘密道具だからね」
ドラえもんは満足そうだった。
夕食後。
それぞれが自由に過ごしていた頃。
「お風呂入りたい」
しずかが真顔で言った。
男子陣が一斉に固まる。
「まあ言うと思った」
ドラえもんが苦笑する。
「こんなに汗かいたんだもの」
しずかは当然と言わんばかりだった。
「私も入りたい」
ナツメが頷く。
二人は相談すると、小さな部屋へ入っていった。
しばらくして戻ってきた二人は妙にさっぱりしていた。
「どうしたんだ?」
ケータが尋ねる。
「妖怪に手伝ってもらったの」
ナツメが答える。
「水や炎を扱える妖怪を呼んだから」
「本当に風呂作ったのか……」
アキノリが呆れた。
「快適だったわよ」
しずかは満足そうだった。
男子陣は顔を見合わせるしかなかった。
[newpage]
翌日。
蒸気船は再び出航した。
朝の霧が晴れ。
昼を過ぎ。
午後になる。
川は少しずつ狭くなり、両岸の崖も高くなっていった。
「そろそろかな」
ドラえもんが呟く。
「何が?」
#朔夜が尋ねる。
だがドラえもんは答えない。
その代わり、のび太やジャイアン達がどこか懐かしそうな顔をしていた。
そして夕方。
太陽が赤く染まり始めた頃だった。
ゴォォォォォォォ……
遠くから地響きのような音が聞こえる。
次第に大きくなる轟音。
やがて。
その正体が見えた。
巨大な滝。
まるで山そのものが崩れ落ちるような大瀑布だった。
「うわぁぁぁ!?」
ケースケが叫ぶ。
「滝じゃん!!」
「おいおいおい!」
アキノリも立ち上がる。
「ドラえもん!回避!」
ナツメが叫ぶ。
だが。
蒸気船は止まらない。
むしろ真っ直ぐ進んでいる。
滝へ向かって。
「ドラえもん!?」
#朔夜も思わず声を上げる。
しかし当の本人は落ち着いていた。
「大丈夫」
「何が!?」
全員が叫ぶ。
その中で。
のび太だけが笑った。
「懐かしいなぁ」
「ここだったよね」
スネ夫も頷く。
「そうそう」
ジャイアンまで笑っている。
経験者組だけが妙に余裕だった。
そしてドラえもんは言った。
「このままでいいんだ」
轟音はさらに大きくなる。
滝は目前。
逃げ場はない。
蒸気船はそのまま水煙の中へ突っ込み――
巨大な滝へと飲み込まれた。