ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#第五十五話

洞窟の中で#朔夜たちが眠りについた頃。

遥か彼方――。

人間界からも、魔境からも隔絶された場所に、それは存在していた。

巨大な神殿。

黒い石で築かれたその建造物は、まるで太古の遺跡のようでもあり、生き物の内臓のようにも見える不気味な空間だった。

壁には無数の眼が刻まれ、天井からは黒い蔦のようなものが垂れ下がっている。

その最奥。

玉座が置かれるべき場所に、異形の存在が鎮座していた。

それは太陽だった。

いや、太陽に似た何か。

どす黒い球体。

その表面から無数の触手が伸び、ゆっくりと蠢いている。

そして中心には。

巨大な単眼。

見ているだけで正気を削られそうなほど不気味な眼球が、静かに周囲を見渡していた。

その前に跪く影が一つ。

吸血鬼カミーラである。

「申し上げます、バックベアード様」

彼女は頭を垂れたまま言った。

「侵入者を確認しました」

単眼がゆっくりと動く。

「……侵入者だと?」

声が響く。

それは耳で聞く音ではなかった。

頭の中へ直接流れ込むような、不快な声だった。

「はい」

カミーラは答える。

「青狸と、その仲間達です」

しばし沈黙。

やがて黒い太陽の中心の眼が細められた。

「やはり、来たか」

低い笑いが響く。

「愚かな者達よ」

触手がゆっくりと蠢いた。

「監視を続けろ」

「はっ」

カミーラは深々と頭を下げる。

次の瞬間。

その身体は無数の蝙蝠へと分裂した。

黒い群れは神殿の闇へ溶け込むように飛び去り、やがて一匹残らず姿を消した。

静寂が戻る。

だが。

ふと。

バックベアードは神殿の天井を見上げた。

巨大な単眼が細められる。

何かを見ている。

あるいは思い出しているようにも見えた。

[newpage]

その時だった。

「バックベアード」

女の声。

神殿の奥から響く。

バックベアードはゆっくりと振り返った。

そこには一人の人影が立っていた。

女性だった。

人間にも見える。

だが違う。

普通の人間が放てる妖気ではなかった。

その場にいるだけで空気が重くなる。

闇そのものが彼女を中心に渦巻いているかのようだった。

黒いフードの奥からは、わずかに赤い髪が覗いている。

顔は見えない。

だが。

その存在感だけで異様だった。

バックベアードは黙って彼女を見つめる。

女は静かに言った。

「お忘れではないでしょうね」

神殿の空気が張り詰める。

「何をだ」

「あなたの復活を早めた条件よ」

単眼がゆっくりと細くなる。

女は続けた。

「私達が何を求めたのか」

しばし沈黙。

そして。

バックベアードは低く笑った。

「無論だ」

触手が蠢く。

「青狸と、その一味」

「……」

「捕らえ、引き渡せば良いのであろう」

女はしばらく沈黙していた。

やがて小さく頷く。

「分かっているならいいわ」

その声に感情はない。

喜びも怒りもない。

ただ確認しただけ。

そんな声音だった。

「では」

一歩後退する。

闇が揺らぐ。

気付けばそこには誰もいなかった。

まるで最初から存在しなかったかのように。

神殿には再びバックベアードだけが残された。

[newpage]

――いや。

違う。

まだもう一人いた。

バックベアードは再び天井を見上げる。

そこには巨大な鉄籠が吊り下げられていた。

まるで鳥籠。

だが中にいるのは鳥ではない。

一人の少年だった。

鬼太郎。

両手を鎖で拘束されながらも、その瞳だけは決して屈していなかった。

バックベアードは嗤う。

「聞いていたか」

鬼太郎は何も答えない。

ただ静かにバックベアードを見つめる。

「奴らは自らここへ近付いて来た」

単眼が歪む。

「お前の警告を無視してな」

触手が嬉しそうに揺れた。

「哀れなものだ」

だが。

鬼太郎は動じない。

「お前にあの子達は倒せない」

神殿が静まり返る。

バックベアードの単眼が細くなる。

鬼太郎は続けた。

「お前は何も分かっていない」

「ほう?」

鬼太郎は静かに笑った。

「お前が思っているよりずっと強い」

一瞬。

バックベアードの表情が消える。

だがすぐに不気味な笑い声が響いた。

神殿全体を震わせるような笑い。

「強いだと?」

「そうだ」

鬼太郎は迷わない。

「だから言ったんだ」

その瞳はまっすぐだった。

「お前にあの子達は倒せない」

バックベアードは嗤う。

しかし。

その単眼の奥には僅かな苛立ちが宿っていた。

そして遠く離れた魔境では。

何も知らぬ朔夜達が静かに眠っている。

その頭上で。

カミーラの蝙蝠が赤い瞳を光らせていた。

まるで嵐の訪れを告げる前触れのように――。

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