翌朝――とはいえ、洞窟の中では朝も昼も分かりにくい。
目を覚ました#朔夜達は、ドラえもんが用意した簡単な朝食を済ませると、再び探検ごっこ用蒸気船へ乗り込んだ。
地下河川は今日も静かだった。
ごうごうと流れる水音。
時折聞こえる風の唸り。
そしてどこまでも続く暗闇。
昨日までは探検気分だった一行も、さすがに二日近く洞窟の中を進み続けると少し疲れが見え始めていた。
「まだ着かないのかよー」
ジャイアンが船縁に身を預ける。
「たぶんもうすぐだと思うよ」
ドラえもんは地図を見ながら答えた。
「前に来た時も、この辺りからだったはずだから」
「前って何年前?」
ナツメが尋ねる。
「うーん……」
ドラえもんとのび太が顔を見合わせた。
「結構前」
「かなり前」
全く参考にならなかった。
そんなやり取りをしていた時だった。
突然。
バサバサバサバサッ!!
「うわっ!?」
ケースケが悲鳴を上げる。
頭上の闇から大量の黒い影が飛び出してきた。
蝙蝠だった。
それも一匹や二匹ではない。
数十羽
いや、数百。
洞窟全体を埋め尽くすほどの蝙蝠が群れをなして飛び回っている。
「すご……」
ケータが思わず声を漏らした。
「洞窟だから普通じゃない?」
トウマは比較的落ち着いている。
しかしアキノリは首を傾げた。
「いや、でも多くない?」
「そう?」
「こんなもんじゃない?」
意見は割れた。
だがドラえもんとのび太は微妙な顔をしていた。
「どうしたの?」
しずかが尋ねる。
「いや……」
ドラえもんは蝙蝠の群れを見上げる。
「前に来た時ってこんなにいたかなって」
「覚えてないの?」
「昔すぎてね」
のび太も苦笑する。
しかし何となく違和感だけはあった。
まるで何かに集められたような数だった。
[newpage]
#朔夜は一人、船首に立っていた。
蝙蝠の群れを眺めていたその時だった。
赤い。
一瞬だけ。
蝙蝠の群れの中に赤い光が見えた気がした。
一つではない。
二つでもない。
無数。
まるで大量の目がこちらを見ているような――。
ぞわり。
背筋に冷たいものが走った。
「……」
何だろう。
説明できない。
敵意とも違う。
だが。
監視されているような感覚。
#朔夜は無意識に腕をさする。
寒い。
気温ではない。
もっと別の何か。
「#朔夜?」
しずかの声で我に返る。
「顔色悪いよ?」
「大丈夫」
そう答えたものの、居心地の悪さは消えない。
結局、#朔夜は一度船内へ戻ることにした。
◇
それからしばらく後。
船室の扉が勢いよく開いた。
「#朔夜!」
ドラえもんだった。
「着いたよ!」
「着いた?」
「うん!」
珍しくドラえもんも少し興奮している。
「バウワンコ王国だ!」
甲板へ出た朔夜は思わず息を呑んだ。
巨大な空間。
地下とは思えない広さだった。
遠くには建物群。
さらにその先には広大な土地が広がっている。
まるで地下世界。
「ここが……」
「バウワンコ王国」
ドラえもんが頷く。
「昔、僕達が冒険した場所だよ」
のび太達も懐かしそうに周囲を見渡していた。
だが。
その前に一つ問題がある。
「変装しよう」
ドラえもんが言った。
「変装?」
「一応ね」
取り出されたのは犬耳と犬尻尾。
一同が嫌な予感を覚える。
十分後。
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全員犬人族風になっていた。
「……」
#朔夜は無言だった。
「似合ってるじゃない」
しずかが笑う。
「慰めになってない」
「可愛いぞ」
ジャイアンが言った。
「言うな」
即答だった。
ナツメはスマホを向けていた。
「撮るな」
こちらも即答だった。
そんな騒動を経て、一行は王国内へ足を踏み入れる。
しかし。
すぐに違和感を覚えた。
静かすぎる。
住民はいる。
だが誰もが怯えていた。
家の戸を閉める者。
周囲を警戒する者。
空を見上げる者。
子供を抱えて急ぐ者。
王国全体が不安に包まれていた。
「何かあったのかな」
しずかが不安そうに言う。
「チッポ君の言ってた黒い太陽かもしれないな」
アキノリが答えた。
その言葉に全員の表情が引き締まった。
その時だった。
一人の犬人族がドラえもんを見た。
固まる。
目を見開く。
そして。
「まさか……」
震える声が漏れた。
周囲の住民達も振り向く。
[newpage]
次々と視線が集まる。
ドラえもん。
のび太。
ジャイアン。
スネ夫。
しずか。
そしてその仲間達。
やがて誰かが叫んだ。
「青狸だ!」
「伝説の探検隊の仲間だぞ!」
「本当にいた!」
一気に騒然となる。
「えっ?」
「なになに?」
困惑する朔夜達。
しかし住民達は必死だった。
「お願いです!」
「来てください!」
「どうか……!」
「王子はご無事なのですか!?」
その言葉にドラえもん達の表情が曇る。
ペコとはまだ合流していない。
事情を説明する間もなく、住民達は先導を始めた。
「こちらです!」
「急いでください!」
「長老様がお待ちです!」
案内された先は町外れ。
人気の少ない場所だった。
そこに建っていたのは。
一軒の古びた小屋。
豪華な王宮とは程遠い、質素な建物。
だが住民達はそこへ向かって深々と頭を下げた。
「長老様」
「探検隊の皆様をお連れしました」
ドラえもん達は顔を見合わせる。
そしてゆっくりと小屋の扉が開いた――。