ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#第五十七話

古びた小屋の中。

窓には厚い布がかけられ、外から中の様子は見えないようになっていた。

長老は入口を確認すると、ゆっくりと椅子へ腰を下ろした。

一同もそれに倣う。

だが誰も口を開かなかった。

王国に漂う異様な空気。

怯える住民達。

そして「黒い太陽」。

その全てが気になっていたからだ。

やがて長老が重々しく口を開いた。

「皆様にお話しなければならないことがあります」

室内の空気が張り詰める。

「この国で何が起きたのかを」

それは数か月ほど前のことだった。

その日も王国は平和だったという。

市場には活気があり、子供達は広場を駆け回っていた。

誰もが普段通りの一日を過ごしていた。

だが。

突如として空が暗くなった。

「嵐かと思いました」

長老は静かに語る。

「しかし違いました」

住民達が見上げた空には。

巨大な黒い太陽が浮かんでいた。

真っ黒な球体。

その表面からは無数の触手が伸びている。

そして中心には巨大な単眼。

見上げただけで恐怖を覚える異形の存在だった。

[newpage]

王国中が騒然となった。

当然だった。

あまりにも異常だったからだ。

そして。

その存在は自ら名乗った。

「バックベヤード」

長老は低く言った。

「そう名乗りました」

室内が静まり返る。

その名前を知る者はいない。

#朔夜も。

ケータ達も。

ドラえもん達も。

聞いたことのない名だった。

だが。

その場にいた全員が理解した。

そいつが今回の元凶なのだと。

「クンタック王子は直ちに迎撃を決断されました」

王国軍が動いた。

近衛兵。

騎士団。

王国の戦士達。

民を守るため戦う覚悟だった。

だが。

「戦えなかったのです」

長老は苦しげに言った。

「バックベヤードは民衆を盾にしました」

「人質……」

しずかが息を呑む。

長老は頷いた。

戦場の至る所に捕らえられた住民がいた。

攻撃すれば住民が巻き込まれる。

王子は剣を振るえなかった。

王国軍も同じだった。

そして。

さらに最悪の事態が起きる。

「サーベル隊長です」

ドラえもん達の表情が変わった。

「サーベル隊長!?」

のび太が声を上げる。

「え?」

朔夜達は顔を見合わせた。

どうやらドラえもん達は知っているらしい。

長老は続けた。

「死んだと思われていたサーベル隊長が現れたのです」

王国最強クラスの剣士。

かつて王国を裏切った男。

その剣技は王子すら上回ると言われていた。

その男がバックベヤード側として現れた。

王国軍は大混乱に陥った。

結果。

クンタック王子は撤退を余儀なくされた。

[newpage]

「それから数週間後のことです」

長老の声が少し明るくなる。

「王子は戻って来られました」

希望を連れて。

クンタック王子。

スピア姫。

そして。

鬼太郎達だった。

「鬼太郎さん!」

#朔夜が思わず声を上げる。

長老は頷く。

「はい」

鬼太郎。

猫娘。

目玉おやじ。

そして仲間達。

彼らは王国のため戦うことを決めた。

王国中が希望を取り戻した。

これで勝てる。

誰もがそう思った。

実際。

戦況は決して悪くなかった。

鬼太郎達は強かった。

王国軍と協力し、少しずつ反撃を始めていた。

だが。

問題は別の場所にあった。

長老の顔が曇る。

「民衆です」

「民衆?」

アキノリが首を傾げる。

「洗脳されていたのです」

全員が息を呑んだ。

長老は苦しそうに続ける。

「誰が洗脳されているのか分からなかった」

それが恐ろしかった。

隣人かもしれない。

友人かもしれない。

家族かもしれない。

本人ですら気付いていない場合もあった。

情報は漏れる。

作戦は筒抜けになる。

逃げ場所も知られる。

そして住民達は互いを疑い始めた。

王国は内部から崩れていった。

「結果として」

長老は目を伏せた。

「鬼太郎様達は捕らえられました」

重い沈黙が落ちる。

朔夜も言葉を失った。

鬼太郎が負けた。

あの鬼太郎が。

それは想像以上の衝撃だった。

[newpage]

「そんな……」

ケータが呟く。

長老は静かに頷く。

「申し訳ありません」

「我々が守れなかったのです」

悔しさが滲んでいた。

だが。

ドラえもんがあることに気付く。

「待って」

長老が顔を上げる。

「鬼太郎君達は、って言ったよね」

「はい」

「全員じゃないの?」

長老は首を横に振った。

「いいえ」

その一言に希望が生まれる。

「二人だけ」

「生き延びました」

全員が身を乗り出した。

「目玉おやじ様」

そして。

「猫娘様です」

「!」

#朔夜の顔が明るくなる。

長老は続けた。

「現在も王国内に潜伏しています」

「会えるの!?」

ケースケが叫ぶ。

「はい」

だが。

長老の表情は険しいままだった。

「ただし安全ではありません」

「住民達は監視されています」

「誰が洗脳されているのか分からない以上、こちらも慎重にならねばならないのです」

だから長老は小屋に隠れている。

だから住民達は怯えている。

だから王国全体が静まり返っている。

全てが繋がった。

やがて長老は立ち上がった。

「案内いたします」

ドラえもん達も席を立つ。

外は既に夕暮れだった。

赤い光が王国を染めている。

長老は人気のない裏道を選びながら進んでいく。

誰かに見られないように。

誰かに気付かれないように。

そして辿り着いたのは。

町外れの古びた家だった。

長老は周囲を確認すると、小さく扉を叩く。

三回。

間を置いて二回。

しばらくして。

家の中から足音が聞こえた。

全員が息を呑む。

そして。

扉の向こうから少女の声が響く。

「……長老さん?」

聞き覚えのある声だった。

#朔夜の表情が明るくなる。

長老は小さく微笑む。

「猫娘様」

「お客様です」

ゆっくりと。

扉が開いた――。

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