ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#第五十八話

扉が開いた瞬間だった。

「猫娘さん!」

「大丈夫!?」

#朔夜を先頭に、一行は雪崩れ込むように家の中へ駆け込んだ。

狭い室内には簡素な寝台が置かれており、その上に座っていた猫娘が驚いたように目を見開く。

「ちょ、ちょっと! 一気に入ってこないでよ!」

そう言いながらも、その表情には僅かな安堵が浮かんでいた。

しかし。

#朔夜は思わず息を呑んだ。

猫娘の頭には白い包帯が巻かれていたのである。

右腕にも擦り傷が見える。

普段の彼女からは想像できないほど痛々しい姿だった。

「怪我してる……」

しずかが心配そうに呟く。

猫娘は苦笑した。

「大したことないわよ」

だが。

その声には明らかに無理があった。

部屋の奥から小さな声が聞こえる。

「大したことあるじゃろうが」

振り向けば、机の上に目玉おやじが座っていた。

「目玉おやじさん!」

ケータ達が声を上げる。

目玉おやじもまた疲労の色が濃かった。

だが無事だったことに一同は胸を撫で下ろす。

 

 

「よく逃げ出せたね」

ドラえもんが尋ねる。

その言葉に猫娘の表情が曇った。

しばし沈黙。

そして静かに口を開く。

「……鬼太郎が逃がしてくれたの」

室内が静まり返る。

「え?」

のび太が聞き返す。

猫娘は視線を落とした。

「捕まった時ね」

「鬼太郎が無理やり檻を壊したの」

拳を握り締める。

「そのまま私を抱えて崖から飛び降りた」

誰も言葉を発せなかった。

「途中で鬼太郎が私を投げたのよ」

猫娘は苦笑する。

「崖下の川に向かってね」

「私は助かった」

「でも鬼太郎は……」

その先は言わなかった。

言わなくても分かった。

鬼太郎は残ったのだ。

仲間を逃がすために。

[newpage]

重い空気の中。

目玉おやじが口を開く。

「砂かけも子泣きも操られておった」

その言葉に全員が顔を上げた。

「操られてた?」

アキノリが聞き返す。

目玉おやじは頷く。

「バックベヤードの力じゃ」

「完全に意識を奪われておった」

猫娘が悔しそうに唇を噛む。

「砂かけ婆も子泣き爺も、私達を攻撃した」

「止めようとしても止まらなかった」

「まるで人形みたいに」

しずかが小さく肩を震わせた。

仲間同士で戦わされる。

それがどれほど残酷なことか。

想像するだけで胸が痛んだ。

 

 

「敵について整理しましょう」

猫娘が深呼吸する。

戦士の顔に戻っていた。

「まずヴォルフガング」

その名前に誰も反応しない。

当然だった。

初耳である。

「人狼よ」

猫娘が続ける。

「月光を浴びるほど強くなる」

「しかも再生能力持ち」

「夜になると特に危険」

「うわぁ……」

ジャイアンが顔をしかめた。

「面倒そうだな」

「面倒じゃ済まないわ」

猫娘は即答した。

[newpage]

「次」

「ヴィクター・フランケンシュタイン」

今度は目玉おやじが説明する。

「継ぎはぎだらけの怪物じゃ」

「ゾンビみたいなもん?」

ケースケが首を傾げる。

「近いのう」

「ただし厄介じゃ」

目玉おやじは真顔だった。

「傷付けるほど狂暴化する」

「え?」

「傷付けたら強くなるんじゃ」

全員が絶句した。

戦えば戦うほど強くなる敵。

あまりにも厄介である。

 

 

そして。

猫娘の表情がさらに険しくなる。

「カミーラ」

その瞬間だった。

#朔夜が顔を上げる。

アキノリも。

ナツメも。

ケータも。

思い当たる節があった。

「吸血鬼よ」

猫娘が続ける。

「蝙蝠を操る」

その言葉で確信した。

「蝙蝠……」

朔夜が呟く。

猫娘の目が細くなる。

「何かあった?」

#朔夜は洞窟での出来事を話した。

天井を埋め尽くすほどの蝙蝠。

赤い目。

見られている感覚。

肌寒さ。

全てを。

話し終わる頃には。

目玉おやじの表情が完全に変わっていた。

「まずいのう」

低い声だった。

室内の空気が一気に重くなる。

「どういうこと?」

のび太が尋ねる。

目玉おやじは静かに言った。

「カミーラじゃ」

「え?」

「お主ら」

「ずっと監視されておった」

一同が凍り付く。

「蝙蝠は分身じゃ」

猫娘が続ける。

「目にも耳にもなる」

「つまり」

アキノリが呟く。

「洞窟の時点で……」

「敵に見つかってた」

誰も反論できなかった。

[newpage]

沈黙を破ったのは猫娘だった。

「そして最後」

「サーベル隊長」

その名前だけは。

ドラえもん達も知っていた。

「サーベル隊長……」

のび太が顔を曇らせる。

猫娘は頷く。

「剣士よ」

「しかも化け物級」

「クンタック王子を遥かに上回る」

「そんなに?」

「そんなによ」

猫娘は即答した。

「鬼太郎も苦戦した」

室内が静まり返る。

鬼太郎が苦戦する相手。

その重みは大きかった。

「でも」

しずかが首を傾げる。

「その人、死んだんじゃ……?」

「そのはずよ」

猫娘も眉をひそめた。

「私達もそう聞いていた」

「なのに生きていた」

「どうやって?」

誰にも分からない。

謎だけが残る。

 

 

やがて。

目玉おやじが静かに言った。

「じゃがの」

全員が視線を向ける。

老人の目は険しかった。

「本当に恐ろしいのは幹部達ではない」

猫娘も黙る。

目玉おやじは続けた。

「バックベヤード本人じゃ」

その名前が出た瞬間。

部屋の空気が凍り付いた。

黒い太陽。

巨大な単眼。

王国を滅ぼした存在。

鬼太郎達を捕らえた元凶。

「もし奴が本気で動けば」

目玉おやじは低く呟く。

「この王国だけでは済まん」

誰も言葉を発せなかった。

その時だった。

家の外で。

ばさり。

何かが羽ばたく音がした。

猫娘が弾かれたように窓を見る。

目玉おやじも振り返る。

だが。

そこには何もいない。

夕闇だけが広がっていた。

しかし。

誰も気付いていなかった。

窓の外。

遠くの木の枝に。

一匹の赤い目をした蝙蝠が止まっていたことを。

それは静かに翼を広げる。

そして。

夜の闇へと飛び去っていった――。

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