翌朝。
長老の家に増設された部屋の窓から、柔らかな朝日が差し込んでいた。
ドラえもんが昨夜設置した秘密道具――「かべ神ハウス」によって、小屋の内部は見違えるほど広くなっている。外から見れば相変わらず質素な木造小屋だが、中はまるで小さな旅館のようだった。
「ふわぁ……」
のび太が欠伸をしながら起き上がる。
ジャイアンは既に起床して腕立て伏せをしており、スネ夫は鏡を見ながら犬耳の位置を調整していた。
「まだ付けるの?」
「当たり前だろ。外に出るんだから」
スネ夫が呆れたように言う。
バウワンコ王国では、今もなお正体を隠す必要がある。
そのため全員、犬への変装は維持したままだった。
一方。
しずかはまだ眠っていた。
その隣には猫娘。
昨夜ずっと看病を続けていたため、しずかの方が先に力尽きてしまったのである。
「寝かせておいてやろう」
目玉おやじが静かに言った。
猫娘も包帯姿のまま眠っている。
鬼太郎達がどれほどの戦いを経験したのか、それだけでも十分に伝わってきた。
◇
「顔でも洗いに行こう」
トウマが言った。
「うん」
#朔夜は頷く。
二人は変装を確認すると、小屋を出た。
朝の村は静かだった。
しかし、その静けさにはどこか張り詰めたものがある。
住民達は笑っている。
だがその目は常に周囲を警戒していた。
誰が味方で誰が敵か。
誰が洗脳されているか分からない。
そんな状況が続いているのだ。
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井戸へ向かう途中。
やはり朔夜は目立った。
「あらあら」
「珍しい毛色だねぇ」
「どこの集落の子だい?」
次々と声を掛けられる。
フェネックのような大きな耳。
白と濃紺が入り混じる毛並み。
翡翠色の瞳。
バウワンコ王国ではまず見かけない姿だった。
「えっと……」
返答に困る朔夜。
その横に立つトウマが軽く前へ出る。
銀色の毛並みを持つハスキー犬姿。
凛々しい雰囲気もあり、自然と牽制になっていた。
「すみません。人探し中なんです」
そう言うと村人達は納得したように去っていく。
「助かった」
「お前、本当に目立つな」
トウマが苦笑する。
#朔夜も否定できなかった。
▼こんな感じ?変装セットで決まる犬種はランダムなんでな。
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顔を洗い終えた頃だった。
井戸端で話し込んでいた村人達の声が耳に入る。
「今日らしいぞ」
「本当か……」
「また来るのか」
重い声。
不安を隠そうともしていない。
#朔夜は思わず足を止めた。
「何の話ですか?」
すると年配の村人が顔を曇らせる。
「……ウォルフガング様だ」
その名に聞き覚えはない。
しかし周囲の反応が異常だった。
誰もが顔を青くしている。
「それとサーベル隊長も一緒らしい」
「!」
トウマが眉をひそめた。
昨夜聞いたばかりの名だ。
バックベヤード軍団の幹部。
そして本来死んでいるはずの男。
「どうして来るんです?」
#朔夜が尋ねる。
村人達は顔を見合わせた。
そして。
誰かが小さく呟いた。
「徴収だよ」
◇
長老の家へ戻ると、すぐに事情説明が始まった。
村長も呼ばれている。
話を聞くにつれ、部屋の空気は重くなっていった。
「ウォルフガングは気に入った者を連れていく」
村長が言った。
「若者も」
「兵士になりそうな者も」
「珍しい者も」
「逆らえば?」
ケータが尋ねる。
村長は苦々しく答えた。
「家族ごと消える」
沈黙。
誰も言葉を発せなかった。
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「今回も同じ目的だと思う」
長老が言う。
「そして――」
その視線が朔夜へ向いた。
嫌な予感がした。
「おそらく、この子じゃ」
「自分?」
「その毛並みじゃ」
長老は断言した。
「目立ちすぎる」
「確実に目を付けられる」
◇
「絶対ダメだ!」
ドラえもんが即座に反対した。
「危険すぎる!」
「そうだよ!」
のび太も続く。
しかし。
その時だった。
ナツメが腕を組みながら言った。
「待って」
全員が振り向く。
ナツメの瞳は真剣だった。
「逆に利用できる」
「え?」
「ウォルフガングは朔夜を欲しがる」
「なら向こうから連れて行く」
部屋が静まり返る。
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「潜入するの」
ナツメは続けた。
「私も一緒に行く」
「危険だ!」
トウマが反論する。
だがナツメは首を振った。
「敵の本拠地を調べられる」
「鬼太郎達の居場所も分かるかもしれない」
誰もすぐには否定できなかった。
確かに理屈は通っている。
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「私なら護衛として近付ける」
ナツメは言う。
「それに」
少しだけ笑った。
「#朔夜一人じゃ心配だし」
「……僕、信用ない?」
「ない」
即答だった。
ケータが吹き出しそうになる。
しかし。
作戦としては成立している。
ドラえもんも悩んでいた。
鬼太郎達を助けるためには情報が必要。
だが危険も大きい。
◇
そして窓の外。
遠くの丘の向こうで。
黒い旗が揺れていた。
誰もまだ気付いていない。
ウォルフガングとサーベル隊長を乗せた一団が、確実に村へ近づいていることを。
その中には。
洞窟で彼らを監視していた蝙蝠の姿もあった。
静かに。
獲物を見定めるように。
赤い瞳が細められる。
#朔夜達の潜入作戦が始まろうとしていた。