ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#六十一話

村を出発してしばらく。

重厚な馬車は石畳の街道をゆっくりと進んでいた。

窓の外には荒れた畑や、人気の少ない集落が流れていく。

その車内には、朔夜、ナツメ、そしてウォルフガングの姿があった。

妙に豪華な内装。

赤い絨毯。

金の装飾。

柔らかな座席。

だが、居心地は最悪だった。

「そう固くなるな」

向かい側に座るウォルフガングが微笑む。

だがその金色の瞳は少しも笑っていない。

というより、彼自身がどう接していいのか分かっていないように見えた。

「そんなに怯えられると、こちらも困る」

「は、はぁ……」

#朔夜は曖昧に頷いた。

隣のナツメも無言で座っている。

緊張しているのは演技ではない。

敵地へ向かう馬車の中なのだ。

緊張しない方がおかしい。

「どこの出身かな?」

不意にウォルフガングが尋ねた。

ナツメが先に口を開く。

「少し離れた村です」

「ほう?」

「親戚を頼ってこの村に来ていました」

さらりと答える。

顔色ひとつ変えない。

#朔夜は思わず感心した。

(よくそんな嘘がすぐ出るよね……)

だが。

「そうか」

ウォルフガングは特に疑う様子もなく頷いた。

「姉妹かな?」

今度は#朔夜へ視線が向く。

「えっ」

思わず固まる。

ナツメも一瞬だけ目を見開いた。

「姉妹、か?」

再度聞かれる。

「そ、そうです!」

慌てて答えた。

「姉です!」

「妹です」

ナツメも即座に合わせる。

見事な連携だった。

[newpage]

だが内心では。

(姉!?)

(そっちが姉なの!?)

とお互い思っていた。

もちろん表には出さない。

「なるほど」

ウォルフガングは満足そうだった。

「よく似ている」

全然似ていない。

だが本人はそう思ったらしい。

 

 

しばらくして。

ウォルフガングはじっと#朔夜を見つめ始めた。

「な、何ですか……」

「いや」

彼は少し身を乗り出した。

「月のように美しい毛並みだと思ってな」

「は?」

#朔夜が固まる。

翡翠色の瞳。

白と濃紺が混ざった毛並み。

確かに珍しい。

だが本人からすると褒められ慣れていない。

「珍しい色だ」

「そう、ですか……」

「実に美しい」

近い。

近い近い近い。

#朔夜は内心で悲鳴を上げた。

ナツメも若干引いている。

[newpage]

その時だった。

馬車の外から声が飛んできた。

「お前」

低い声。

サーベル隊長だった。

#朔夜がびくりと肩を震わせる。

「右手を見せろ」

「え?」

「親指と人差し指だ」

馬車の窓越しに鋭い視線が向けられる。

「……弦を引く者の手だな」

一瞬。

車内の空気が凍り付いた。

(バレた!?)

#朔夜の背筋を冷たい汗が流れる。

弓道。

そして戦闘訓練。

確かに手には独特のタコができている。

サーベル隊長ほどの剣士なら見抜いてもおかしくない。

「そうなのか?」

ウォルフガングが興味深そうに聞いてくる。

「え、えっと……」

必死に頭を回す。

そして。

「あ、あの」

「うむ」

「代々受け継がれている舞踊があるんです」

「舞踊?」

「弓を使う踊りで……」

完全な嘘ではない。

弓道の動作は美しく整えられている。

外から見れば舞のようだ。

「へぇ」

ウォルフガングは感心したように頷く。

「見てみたいものだ」

「い、いえ!」

#朔夜は慌てた。

「そんな大したものじゃ……!」

隣でナツメも冷や汗を流していた。

(絶対に見せちゃダメ)

サーベル隊長は黙っている。

だが。

視線だけは消えなかった。

[newpage]

「……」

何か引っ掛かっている。

そんな目だった。

それを見たウォルフガングが苦笑する。

「疑い過ぎだ」

サーベル隊長は即答した。

「だから今まで生き残れた」

短い会話。

だが重みが違う。

ウォルフガングは貴族。

サーベル隊長は軍人。

その差がよく出ていた。

それからも。

馬車の旅は続く。

「好きな食べ物は?」

「肉です」

「魚です」

「家族は?」

「います」

「います」

「村はどんな場所だ?」

「静かな所です」

「平和な所です」

次々飛んでくる質問。

#朔夜もナツメも必死だった。

少しでも答えを間違えれば終わる。

だが。

ウォルフガング本人は本気で雑談しているだけらしい。

「なるほど」

「面白いな」

「それで?」

やたらと話を広げてくる。

(なんでこんなに話しかけてくるんだよ……)

#朔夜は本気で困惑していた。

やがて夕暮れ。

窓の外が赤く染まり始める。

遠く。

山脈の向こうに巨大な影が見えた。

黒い城。

不気味な尖塔。

空を覆う暗雲。

「……」

ナツメが黙る。

#朔夜も言葉を失った。

あれが敵の本拠地。

鬼太郎達が捕らえられているかもしれない場所。

その上空では。

無数の蝙蝠が飛び回っていた。

誰も気付かない。

その中の一匹が。

ずっと。

馬車を見下ろしていることに。

赤い瞳が細められる。

それはただの蝙蝠ではない。

吸血鬼カミーラの分身だった。

そして彼女の視線の先には。

何も知らぬまま城へ向かう#朔夜達の姿があった。

――敵地潜入は成功した。

そう思っているのは、彼らだけだったのである。

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