ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#六十二話

巨大な城門をくぐった瞬間だった。

馬車の前にいた兵士が慌てた様子で駆け寄ってくる。

「ヴォルフガング様! 至急お伝えしたいことが――」

だが、人狼の幹部は露骨に眉をひそめた。

「後にしろ」

「しかし――」

「後にしろと言った」

低く唸るような声。

兵士は肩を震わせ、黙り込んだ。

その様子を見た#朔夜は内心首を傾げる。

(なんだろう……)

ただならぬ空気だった。

何か問題が起きている。

だがそれ以上に――ヴォルフガング自身が妙に苛立っているように見えた。

「サーベル」

振り返りもせずに呼ぶ。

「……なんだ」

「いつもの部屋に案内しろ」

それだけ言い残し、ヴォルフガングは城の奥へ歩き去っていく。

呼び止める兵士達も追いかけていった。

残されたのはサーベル隊長と#朔夜、ナツメだけだった。

数秒の沈黙。

そして――

「チッ」

盛大な舌打ち。

サーベル隊長は額を押さえた。

「私はお前の犬ではないんだがな……」

振り返る。

しかし既にヴォルフガングの姿は消えていた。

「……まったく」

再び舌打ち。

機嫌は最悪らしい。

#朔夜とナツメは思わず身構える。

だが彼は二人を見ると、

「着いてこい」

それだけ言って歩き出した。

断れる空気ではない。

二人は大人しく後を追う。

[newpage]

城内は豪華だった。

赤い絨毯。

巨大な燭台。

壁を飾る肖像画。

だがどこか息苦しい。

笑顔の兵士が一人もいないのだ。

皆、何かを恐れているように見える。

(やっぱり変だ)

ナツメも同じことを感じているらしい。

ちらりと視線が合った。

その時だった。

通路の途中で給仕服の女性がやってくる。

「サーベル様」

「なんだ」

「こちらを」

差し出されたのは一本のワイン瓶だった。

「今夜のために用意した品です。よろしければ――」

サーベル隊長は瓶を受け取る。

軽く匂いを嗅いだ。

「ほう」

僅かに目を細める。

「まだこんな酒が残っていたのか」

価値のある酒らしい。

「もらっておく」

そう言って脇に抱えた。

もちろん#朔夜達は知らない。

それが強い眠気を誘う特殊な酒だということを。

やがて一行は大きな扉の前へ辿り着いた。

サーベル隊長が扉を開く。

「ここだ」

同時に。

ふわり。

甘い香りが流れ出した。

「っ……」

#朔夜が思わず鼻を押さえる。

花のような香り。

だが少し強すぎる。

室内を見ると香木が焚かれていた。

薄紫色の煙がゆっくり漂っている。

「入れ」

背中を押される。

二人は部屋へ入った。

すると。

「――あら?」

「新入り?」

奥から声が聞こえた。

振り返る。

そこには十数人ほどの女性達がいた。

誰もが美しい。

長い耳の者。

ふわふわした尻尾を持つ者。

華やかな衣装を纏う者。

年齢も様々だ。

だが共通していることが一つ。

皆、この部屋から出られないのだ。

[newpage]

「かわいい子ね~」

「本当~」

「見たことない毛並み」

女性達が近づいてくる。

そして。

「きゃー!」

「すごい!」

一斉に#朔夜へ集まった。

「月みたいな色!」

「綺麗!」

「触っていい!?」

「耳ふわふわ!」

「ひゃっ!?」

#朔夜は完全に包囲される。

頭を撫でられ。

尻尾を見られ。

耳を触られ。

完全に混乱状態だった。

「な、なんで!?」

「珍しいもの」

「選ばれるのも納得だわ~」

「え?」

「ヴォルフガング様こういうの好きだもの」

さらっと恐ろしいことを言われた。

#朔夜の顔が引きつる。

一方。

その騒ぎに紛れていたナツメは冷静だった。

(今しかない)

部屋の奥。

テーブルの上には酒瓶が並んでいる。

おそらく夜の晩餐用。

彼女は自然な動作で近づいた。

袖の中から小さな包みを取り出す。

村で受け取った薬だ。

強力な睡眠薬。

少量でも十分効果がある。

誰にも気付かれぬよう。

静かに。

慎重に。

一本ずつ混ぜていく。

(これでよし)

成功だった。

誰も見ていない。

女性達の意識は全て#朔夜へ向いている。

「た、助けてナツメ!」

「頑張って」

「助けてよ!?」

小声で叫ぶ朔夜。

ナツメは微笑みながら目を逸らした。

完全に見捨てている。

[newpage]

その時だった。

――バンッ!!

乱暴に扉が開いた。

室内が静まり返る。

女性達も振り返る。

そこに立っていたのは――

ヴォルフガングだった。

先程よりさらに機嫌が悪い。

黄金色の瞳が鋭く細められている。

何かあったのは明らかだった。

部屋の空気が一瞬で張り詰める。

そして彼の視線は真っ直ぐに――

#朔夜へ向けられた。

「……なるほど」

低い声。

どこか疲れている。

しかし。

その瞳には獲物を見定める獣の光が宿っていた。

#朔夜は背筋に冷たいものが走るのを感じた。

潜入作戦は成功した。

だが同時に。

最も危険な場所へ足を踏み入れてしまったのだと。

改めて理解するのだった。

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