捕らわれた女性達の中に、ひときわ落ち着いた様子の少女がいた。
どこか気品のある佇まい――それは幸か不幸か、スピア姫だった。
「あなた達……ここに来たということは、外の状況を知っているのですね?」
彼女は状況を悟ったように静かに言う。
そして、#朔夜たちにとって重要な情報を口にした。
「クンタック王子なら……この城の地下牢のさらに奥にいるはずです。正確な場所までは分かりませんが、配置の記憶はあります」
それは収穫だった。
だが同時に、今すぐ救出に踏み込むには危険すぎる情報でもあった。
ナツメが小さく通信機を取り出す。
「ドラえもん、聞こえる? 今スピア姫と接触。クンタック王子の位置情報あり。ただし救出は別動で行う」
すぐに短い応答が返る。
『了解。無理はするな。撤退優先で』
作戦は二手に分かれることになった。
ナツメは他の女性達を安全に城外へ誘導する役目。
そして#朔夜はスピア姫と共に、地下牢の位置確認へ向かう。
スピア姫は静かに頷いた。
「王族として、責任は果たします」
#朔夜は短く息を吐き、頷き返す。
「行こう。情報だけでも持ち帰れば十分だから。」
秘密通路は湿った石壁に囲まれ、蝋燭の火が不規則に揺れていた。
◇
進むたびに空気は重くなり、まるで城そのものが“生きている”かのような圧迫感があった。
やがて、奥から声が漏れ聞こえる。
聞き覚えのある声だった。
「ここだ……確かにこの先だ!」
#朔夜はスピア姫と視線を交わし、慎重に覗き込む。
そこには――捕らわれたクンタック王子と数名の犬人族の姿があった。
「やはり……ここに」
スピア姫の表情がわずかに強張る。
朔夜は低く問いかけた。
「鬼太郎は?」
クンタック王子は顔を上げる。
「……彼は神殿へ連れて行かれた。あの“黒い太陽”の中心へ」
その言葉に、空気が一瞬だけ凍る。
神殿――それは城よりさらに深い場所。
この戦いの“核”に近い領域だった。
「まずいな……」
#朔夜は小さく呟く。
これ以上の深入りは危険だ。
情報は十分に得た。今は撤退するしかない。
[newpage]
「村に戻ろう」
スピア姫も頷いた。
城内を抜け、来た道を引き返す。
しかし、戻る途中で違和感が生まれる。
通信機が微かにノイズを拾った。
「ナツメ達はもう外に出てるはずだよな……」
スピア姫も眉をひそめる。
「私たちより先に出ていなければおかしい距離です」
嫌な予感がした。
そして―彼らは城外で“それ”を見つけた。
ナツメ達だ。
しかし、どこかがおかしい。
「……おかしい」
#朔夜は足を止める。
本来なら、彼女達はとうに村へ戻っているはずだった。
だが、そこにいるナツメはまるで“待っていた”かのように立っている。
ゆっくりと、こちらへ近づいてくる。
その表情は――空虚だった。
「"朔夜……」
声は確かにナツメのもの。
だが、その奥に“別の気配”が混ざっている。
次の瞬間。
ナツメが一気に間合いを詰めた。
「っ――!」
#朔夜は反射的に身を引く。
その直後、ナツメの口元から鋭い牙が覗いた。
「カミーラ……!」
スピア姫が叫ぶ。
カミーラは、最初から何もしていなかったわけではないようだ。
むしろ――すでに仕込みは終わっていたらしい。
#朔夜は即座に動いた。
「離れろ!」
ポケットに手を突っ込み、ドラえもんの道具を引き抜く。
目くらまし用の小型デバイス。
それを地面に叩きつける。
閃光。
視界が白に塗りつぶされる瞬間、朔夜はスピア姫の手を掴んだ。
「こっち!」
背後から獣じみた気配が追ってくる。
ナツメの姿をした“何か”が、確実に距離を詰めていた。
城の中は、すでに安全圏ではなかった。
カミーラは――最初から、この瞬間を待っていたのだ。