ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#六十六話

薄暗い石造りの部屋で、ウォルフガングは目を覚ました。

鈍い頭痛。喉の渇き。

そして何より――周囲の静けさが異常だった。

「……?」

ゆっくりと体を起こし、部屋を見渡す。

そこには誰もいなかった。

拘束具も、捕らえた“獲物”の痕跡すらも消えている。

まるで最初から何もなかったかのような空間。

数秒遅れて理解が追いつく。

「……やられたか」

毒か、眠りの術か。

いずれにせよ、自分が一時的に無力化されていたことは明白だった。

カミーラから「侵入者がいる」と警告は受けていた。

だが内心では、どこかで軽く見ていた。

この城に踏み込める人間などいない、と。

しかし現実は違った。

(あの娘達……)

思い出すのは、捕らえた“異質な毛並み”の少女たち。

その中の一人――サクと呼ばれていた存在。

見た目は少年にも見えたが、違う。

匂いが違う。

本能が警鐘を鳴らしていた。

――あれは、ただの獲物ではない。

ウォルフガングの口元がわずかに歪む。

「……面白い」

その時、扉が開いた。

現れたのはヴィクター・フランケンシュタイン。

少年の姿のまま、白衣を引きずるように歩いてくる。

「収容区画は空。脱出されたのを確認。非効率的だ」

淡々とした声。

感情の起伏はほとんどない。

だがその言葉の端々には、どこか苛立ちに似た“分析欲”が滲んでいた。

「実験対象が自力で脱出するとは……再評価が必要だよ」

ヴィクターは続ける。

「特に“あの個体”。標本としての価値が想定より高い可能性があるね」

ウォルフガングは椅子にもたれたまま、彼を見た。

「慌てているのか?」

「いいえ」

即答だった。

「事実確認だよ。ボクは感情で動かないので」

だがその目は、どこか鋭い。

失われた“材料”への執着だけが、そこにあった。

[newpage]

定例会議。

薄暗い広間に、幹部たちが集まる。

カミーラは上機嫌だった。

「逃げた? ふふ、いいじゃない。増やせばいいだけよ」

その言葉と同時に、彼女の後ろに無数の蝙蝠の影が揺れる。

そして報告が続く。

捕らえた人間たちはすでに吸血鬼化されつつあり、その中には昨夜の娘の姿もあった。

ウォルフガングの視線が一瞬だけ止まる。

だが、すぐに逸らす。

「……好きにやるがいい」

それだけだった。

その反応に、カミーラはわずかに目を細める。

「随分と余裕ね」

「余裕ではない」

ウォルフガングは静かに言った。

「ただ、順番が変わっただけだ」

沈黙。

その空気を破ったのは、部屋の奥から現れた“黒い圧力”だった。

バックベアード。

姿そのものが重力のように場を支配する。

誰も言葉を発さない。

ヴィクターは一瞬だけ視線を上げるが、すぐに記録に戻る。

カミーラも笑みを引っ込める。

ウォルフガングだけが、視線を逸らさない。

会議は短く終わった。

命令はない。指示もない。

ただ“見ている”という事実だけが残る。

廊下に出たヴィクターが、小さく呟く。

「逃走個体……再収容の必要があるね」

その声は少年のまま、どこか機械的だった。

だが、その背中の影だけが、わずかに揺れていた。

まるでまだ“観察を続けている何か”のように。

ウォルフガングは一人、窓のない廊下で足を止める。

誰に言うでもなく呟く。

「逃がしたのでもない」

ゆっくりと目を細める。

その言葉には、奇妙な納得があった。

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