巨神兵とバックベヤードの激突によって揺れる大地を背に、#朔夜達は神殿へ向かっていた。
遠くでは巨大な咆哮が響き、時折閃光が空を照らしている。
「急ぐぞい」
目玉おやじの声に、朔夜は頷いた。
その隣では猫娘が険しい表情のまま前を見据えている。
鬼太郎が捕らわれている。
その事実だけが、彼女を突き動かしていた。
神殿へ近付くにつれ、一行の足取りは慎重になった。
巨大な石柱。
古代神殿のような構造。
薄暗い通路。
敵の気配を探りながら進んでいく。
すると。
「いたぞい」
目玉おやじが小声で告げた。
神殿内部の広間。
そこには多数の見張り兵が配置されていた。
正面突破は不可能。
#朔夜は背中の矢筒から一本の矢を抜く。
そして小さな筒状の道具を括り付けた。
ドラえもんから渡されていた催涙弾である。
「いくよ」
静かに弓を引く。
放たれた矢は柱の陰へ飛び込み――
次の瞬間。
ボンッ!!
白煙が一気に広がった。
「ぐあっ!?」
「目がぁぁぁ!!」
「な、なんだこれは!?」
兵士達が一斉に悲鳴を上げる。
涙。
鼻水。
咳。
広間は大混乱になった。
◇
「今じゃ!」
全員がゴーグルを装着する。
これは作戦会議で決めていたプランC。
催涙弾使用を前提とした突入作戦だった。
#朔夜もゴーグルを装着し、煙の中へ飛び込む。
視界は悪い。
だが敵はさらに見えていない。
その時だった。
煙の向こう。
高い天井付近。
巨大な鉄製の鳥かごが吊るされているのが見えた。
中には――
鬼太郎。
間違いない。
[newpage]
「いた」
#朔夜は即座に弓を構える。
狙うのは鳥かごそのものではない。
吊り下げている連結部分。
鉄鎖と金具。
わずかに露出した一点。
呼吸を整える。
世界の音が遠ざかる。
視界が一点に収束する。
指が弦を離れた。
ヒュッ―――
放たれた矢は、微かに青白く輝いていた。
だが誰も気付かない。
#朔夜自身ですら。
ただ異様なほど速かった。
空気を裂く音すら遅れて聞こえるほどに。
ガギンッ!!
金属が砕ける音。
続いて。
ゴゴゴゴゴッ!!
巨大な鳥かごが大きく傾いた。
「えっ」
#朔夜は思わず目を見開いた。
まさか本当に落ちるとは思っていなかった。
せいぜい揺らせれば十分だと考えていたのである。
しかし現実には。
連結部が完全に破壊されていた。
次の瞬間。
ドォォォン!!
鳥かごが地面へ激突した。
神殿全体が揺れる。
兵士達の悲鳴がさらに大きくなった。
「鬼太郎!」
猫娘が駆け出した。
迷いはない。
一直線だった。
煙をかき分けるように走り、崩れた鳥かごへ飛び付く。
「大丈夫!? 怪我は!?」
「猫娘……」
鬼太郎は目を瞬かせた。
朔夜も周囲を警戒しながら近付く。
まだ敵が潜んでいる可能性がある。
弓を構えたまま辺りを見渡す。
しかし今のところ増援はない。
鬼太郎が顔を上げた。
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そして。
#朔夜の姿を見た瞬間。
その表情が変わる。
「君は……!?」
驚愕。
そして。
怒り。
「来るなと言っただろう!!」
神殿に響くほどの大声だった。
猫娘ですら驚く。
目玉おやじも目を丸くした。
「こんな場所まで来て……!」
「何を考えてるんだ!」
「危険だって分かっているだろう!」
怒鳴る。
本気で怒っている。
いや。
怒っているように見える。
#朔夜は少しだけ肩を竦めた。
「でも助けに来た」
「……っ」
鬼太郎が言葉に詰まる。
沈黙。
数秒。
やがて鬼太郎は視線を逸らした。
そして。
本当に小さな声で。
「……でも」
呟く。
「助かった」
その横顔を見て。
#朔夜は気付いた。
鬼太郎の頬を一筋の涙が流れていた。
(あ、催涙弾か)
#朔夜は妙に納得した。
煙はまだ神殿内に残っている。
妖怪だから効かないということは無かったらしい。
鬼太郎も。
猫娘も。
目玉おやじも。
少し涙目になっている。
だが。
何故だろう。
鬼太郎のその涙は。
催涙弾だけではないような気もした。
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「ほれ、積もる話は後じゃ」
目玉おやじが咳き込みながら言う。
「まずはここから脱出するぞい!」
「そうね!」
猫娘も頷く。
鬼太郎を救出した一行は、再び動き出す。
まだ戦いは終わっていない。
仲間達はそれぞれの戦場で戦っている。
そして、この先にはバックベヤードとの決着が待っている。
だが今だけは。
鬼太郎が無事だったことに、誰もが安堵していたのだった。