「バックベヤード!」
救出された直後だというのに、鬼太郎は休む間もなく立ち上がった。
「お、おい鬼太郎!」
目玉おやじの制止も聞かず、鬼太郎は一反木綿へ飛び乗る。
「まだ終わってない!」
その声には焦りが滲んでいた。
バックベヤードが健在である以上、戦いは終わらない。
一反木綿は大きく翻り、そのまま神殿の外へ飛び出していった。
「あっ!」
猫娘が慌てて追い掛ける。
「まったく、無茶ばかりしおって……!」
目玉おやじも頭を抱えながら後を追う。
#朔夜も弓を握り直した。
「行こう」
頷き合い、一行は再び戦場へ向かう。
神殿を出ると、戦況はさらに激化していた。
遠方では巨神兵とバックベヤードが激突している。
黒い太陽と巨神の戦い。
大地が揺れ、空気そのものが震えていた。
その途中。
轟音が響く。
ドォォォン!!
巨大な樹木が根元から吹き飛んだ。
「うわっ!?」
#朔夜が振り返る。
そこには巨大な怪物がいた。
全身が膨れ上がり、筋肉が異様なまでに肥大化している。
目は血走り、理性の欠片も見えない。
ヴィクター・フランケンシュタインだった。
「侵入者、トラエル」
巨大な拳が振り下ろされる。
アニエスが箒で飛び退く。
その隣でアキノリが叫んだ。
「言ってることとやってることが違うんだけど!?」
「チガワナイ。ジャマスルナッ!」
叫びながら岩を投げるヴィクター。
もはや説得力は皆無だった。
「こっちは大丈夫!」
トウマが叫ぶ。
幻魔・お松の力が周囲を覆っていた。
洗脳されていた王国の民達も次々と正気を取り戻している。
[newpage]
「先に行け!」
「了解!」
#朔夜達は走った。
その先。
最も激しい妖気がぶつかり合っていた。
「ケータ!」
「ナツメ!」
そこではケータ達が苦戦していた。
砂かけ婆。
アデル。
そしてケータ。
三人がかりでも押されている。
相手は吸血鬼カミーラ。
そして。
吸血鬼化したナツメだった。
「ナツメ!」
#朔夜が叫ぶ。
しかし返事はない。
虚ろな瞳。
青白い肌。
完全に操られていた。
「ふふふ」
カミーラが笑う。
「仲間同士で戦う気分はどうかしら?」
「……っ」
ケータが歯を食いしばる。
攻撃できない。
ナツメがいるからだ。
その時だった。
#朔夜の脳裏に鳥かごの光景がよぎる。
鬼太郎を救出した時。
自分の放った矢。
(あの時……)
鳥かごは落ちた。
狙った場所に当たった。
なら。
#朔夜は静かに弓を構える。
カミーラ。
その姿を見据える。
「#朔夜?」
ケータが振り返る。
だが#朔夜は答えない。
集中していた。
[newpage]
外せない。
ナツメが近い。
失敗は許されない。
深く息を吸う。
世界の音が遠ざかる。
カミーラだけが世界に残る。
弦を離した。
ヒュッ―――
誰も見えなかった。
矢が飛ぶ姿を。
音すら無い。
まるで最初からそこにあったかのように。
次の瞬間。
ドスッ。
カミーラの胸に矢が突き刺さっていた。
「……え?」
誰よりも驚いたのは#朔夜だった。
「な……」
カミーラが目を見開く。
ゆっくりと胸を見る。
刺さっている。
確かに刺さっている。
「まさか……」
数歩後退る。
身体が崩れ始める。
「そんな……」
「ありえない……」
声が掠れる。
「あなた……何者……?」
そして。
身体が光に包まれた。
「バックベヤード様……」
最後の言葉を残し。
カミーラは無数の光となって消滅した。
[newpage]
静寂。
誰も動かなかった。
「……倒した?」
ケータが呟く。
#朔夜自身も理解できていなかった。
ただ矢を放った。
それだけだった。
だが結果として。
カミーラは消えた。
その瞬間。
ナツメの身体から黒い靄が抜けていく。
「う……」
ふらりと膝をつく。
「ナツメ!」
ケータが駆け寄る。
アデルも慌てて支える。
「ここ……どこ?」
ナツメは目を瞬かせた。
そして周囲を見回す。
「ケータ?」
正気だった。
「戻った!」
ケータが叫ぶ。
#朔夜はようやく安堵の息を吐く。
どうやら成功したらしい。
◇
一方その頃。
巨神兵の足元。
「うおおおおっ!!」
名刀電光丸が閃く。
ガギィィン!!
サーベル隊長が後退した。
「まだだ!」
その隣ではブルススが巨大な拳を叩き込む。
ドォォォン!!
サーベル隊長は吹き飛ばされた。
さすがの彼も余裕を失っていた。
額には汗。
呼吸も荒い。
「貴様ら……!」
追い詰められていた。
確実に。
その時。
不意に。
頭上から声が降ってきた。
「力が欲しいか?」
サーベル隊長が顔を上げる。
木々の上。
夕陽を背にした人影が立っていた。
その姿は逆光で見えない。
だが。
どこか不気味な気配だけが漂っている。
[newpage]
「……お前は!?」
サーベル隊長が唸る。
すると人影は笑った。
「お前は敗北する」
「だが――」
その声は妙に甘く。
耳に残る。
「力を得れば、まだ戦える」
夕陽が沈み始める。
そして。
戦場には新たな影が差し込もうとしていた――。