[chapter:――排除しろ。]
頭の奥で、誰かの声が響く。
[chapter:――王国を害する者を。]
そうだ。
私は騎士だ。
王国を守る剣だ。
ならば、害する者は斬らねばならない。
それだけだ。
それだけのはずだった。
轟音とともに、大地が砕ける。
三つの首を持つ巨大な魔獣――ケルベロスとなったサーベル隊長は、咆哮を上げた。
咆哮だけで木々がなぎ倒され、地面がひび割れる。
目の前にいた兵士たちも、妖怪たちも、人間たちも。
すべてが吹き飛んでいく。
いい気味だ。
王国を害する者どもめ。
右の首が炎を吐く。
左の首が衝撃波を放つ。
中央の首が牙を剥き出しにして暴れ回る。
逃げ惑う影。
叫び声。
崩れ落ちる建物。
その光景を見ているはずなのに。
なぜか胸の奥がざわついた。
[chapter:違う。]
[chapter:何かが違う。]
だが考える必要はない。
私は王国を守っている。
ただそれだけだ。
[chapter:「サーベルッ!!」]
声が聞こえた。
白い毛並み。
剣を手にした人物。
こちらへ向かって走ってくる。
何か叫んでいる。
だが聞き取れない。
いや。
[chapter:聞き取る必要がない。]
敵だ。
王国を害する敵。
ならば排除するのみ。
巨大な前脚を振り下ろす。
轟音。
土煙。
衝撃。
しかしその人物は跳躍し、間一髪で回避した。
[chapter:「目を覚ましてください!」]
また何か言っている。
知らん。
[chapter:知らんはずなのに――]
[chapter:なぜだ。]
[chapter:なぜ心のどこかで攻撃をためらう。]
[chapter:なぜその声が耳に残る。]
[chapter:なぜその姿に見覚えがある。]
私は知らない。
知らないはずだ。
前脚を振るう。
尾を叩きつける。
炎を吐く。
だが。
だが――
攻撃のたびに。
何かが引っ掛かる。
まるで。
まるで昔。
どこかで。
同じように。
[chapter:誰かへ剣を向けた時のような。]
[newpage]
[chapter:――貴様ァァァァァ!!]
怒号。
鉄のぶつかる音。
土煙。
血の匂い。
違う。
これは今ではない。
記憶だ。
遠い昔の。
忘れたはずの。
[chapter:「何故だ……」]
自分でも気付かぬうちに呟いていた。
王国を守る。
そのために戦う。
それだけのはずなのに。
胸の奥が痛む。
何かを忘れている。
何か大切なものを。
その時だった。
脳裏に。
一人の男の姿が浮かぶ。
優しい目をした男。
威厳に満ちた王。
そして聞こえる。
あの日の言葉。
[chapter:『我が剣となるのだ』]
[chapter:ーーああ]
そうだ。
思い出した。
私は。
私はあの日――
[chapter:王を殺そうとした、少年だった。]