ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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いくつかありそうな設定をピックアップして投げたらこうなった。うん。


#第七十二話

冷たい雨が降っていた。

空は鉛色の雲に覆われ、路地には泥水が流れている。

少年は崩れかけた石壁にもたれながら膝を抱えていた。

腹が減っていた。

昨日から何も食べていない。

いや、その前も大したものは口にしていない。

空腹はもはや日常だった。

寒さも同じだ。

薄汚れた服では雨風を防げず、体の芯まで冷え切っている。

それでも生きている。

生きるしかなかった。

「全部、王族のせいだ」

酒場から聞こえてくる声。

「税を上げやがって」

「食料を持っていきやがって」

「俺たちだけ苦しめばいいと思ってやがる」

何度も聞いた言葉だった。

毎日のように。

朝も昼も夜も。

少年はそれを信じた。

信じるしかなかった。

現実に苦しみがあったからだ。

隣に住んでいた老人は病で死んだ。

幼馴染は冬を越せなかった。

親類もまた、飢えによって命を落とした。

誰も助けてくれなかった。

だから憎んだ。

顔も知らない王を。

見たこともない王族を。

彼らが悪なのだと信じた。

[newpage]

ある日。

町が騒がしくなった。

「王が来るらしいぞ」

その噂は瞬く間に広がった。

地方視察。

民の様子を見るため。

そんな名目だった。

だが酒場の男たちは笑った。

「いい機会だ」

「やってしまえ」

「王さえ死ねば変わる」

変わる。

その言葉だけが少年の胸に残った。

変わるのなら。

苦しみが終わるのなら。

やるべきことは一つだった。

その夜。

少年は盗品市で粗末な短剣を手に入れた。

刃こぼれした安物。

だが十分だ。

近づいて刺す。

それだけでいい。

そう信じていた。

 

 

そして当日。

広場には大勢の人が集まっていた。

兵士。

役人。

商人。

住民。

その中心に一人の男がいた。

王だった。

少年は息を呑んだ。

想像と違った。

もっと傲慢な男だと思っていた。

豪華な服を着て威張り散らすような。

だが実際は違った。

老人の話を聞き。

子供に微笑み。

農民の悩みに耳を傾けている。

偽善だ。

そう思った。

そう思い込もうとした。

だが心のどこかで違和感が生まれる。

それを振り払うように少年は走った。

短剣を握り締め。

一直線に。

「死ねぇぇぇぇぇ!!」

叫びながら飛び出した。

あと一歩。

届く。

[newpage]

その瞬間だった。

鋭い衝撃。

視界が回転する。

気付けば地面に叩きつけられていた。

短剣が転がる。

腕を兵士たちに押さえつけられる。

「確保しろ!」

「王を守れ!」

怒号が飛び交う。

終わった。

そう思った。

王族暗殺未遂。

死罪は確実だった。

だが――

「待ちなさい」

静かな声が響いた。

兵士たちが動きを止める。

王だった。

王はゆっくりと近付いてくる。

怒りはなかった。

憎しみもない。

あるのは悲しみだった。

「何故、私を殺そうとした」

問いかけ。

少年は叫んだ。

「全部お前のせいだ!!」

「みんな苦しんでる!!」

「家族だって死んだ!!」

「王族が食い物を奪ったからだ!!」

広場が静まり返る。

兵士たちは険しい表情を浮かべていた。

だが王は黙って聞いていた。

最後まで。

一言も遮らずに。

そして静かに頷いた。

「そうか」

それだけだった。

「……それだけかよ」

思わず声が漏れる。

言い返さないのか。

怒らないのか。

否定しないのか。

王は少しだけ目を伏せた。

「そう思わせてしまったことは、私の責任だ」

その言葉は少年の予想を裏切った。

言い訳ではなかった。

責任転嫁でもなかった。

ただ受け止めていた。

それが逆に理解できなかった。

「殺さないのか?」

少年は尋ねた。

王は答える。

「殺して何になる」

「憎しみは次の憎しみを生むだけだ」

意味が分からなかった。

こんな綺麗事を言うヤツがいるのか。

だが王は続けた。

「この者を牢へ」

やはりそうか。

少年は歯を食いしばる。

だが次の言葉で耳を疑った。

「治療を施せ」

「温かい食事も出せ」

「それと――」

王は少年を見た。

まっすぐに。

「騎士団で預かろう」

広場全体がざわついた。

兵士たちですら驚いている。

当然だった。

王を殺そうとした者だ。

普通なら処刑される。

それが騎士団?

正気ではない。

「何を考えてる!」

少年自身が叫んだ。

「俺はお前を殺そうとしたんだぞ!」

王は笑った。

穏やかに。

「だからだ」

「その力を、人を守るために使え」

その言葉は少年の胸に刺さった。

理解はできない。

だが忘れられなかった。

[newpage]

数年が過ぎた。

騎士団での日々は過酷だった。

剣術。

体術。

戦術。

礼儀作法。

毎日が訓練だった。

何度も逃げ出そうとした。

何度も反発した。

それでも追い出されなかった。

むしろ先輩騎士たちは本気で向き合ってきた。

「強くなりたいなら立て」

「剣を握れ」

「王に拾われた恩を忘れるな」

最初は反発した。

だが少しずつ変わっていく。

ある日。

王に同行する任務を命じられた。

地方の孤児院だった。

少年は驚いた。

そこは自分が育った地区だったからだ。

荒れた街。

貧しい人々。

変わらない現実。

そう思った。

だが違った。

王は大量の食料を持ち込んだ。

薬もあった。

孤児院の修繕費も。

住民たちは感謝していた。

少年は困惑した。

酒場で聞いていた話と違う。

王は奪う側ではなかった。

むしろ与えていた。

 

 

後に彼は知る。

当時の政策の真実を。

流行病。

凶作。

限られた資源。

王は王国全体を生かすために苦渋の選択を続けていた。

誰かを見捨てたのではない。

誰も見捨てないために足掻いていた。

その結果として恨まれていたのだ。

理解した瞬間。

少年は自分を恥じた。

そして初めて。

王へ謝罪したいと思った。

[newpage]

騎士叙任の日。

彼は片膝をつく。

剣を捧げる。

王は静かにその姿を見つめていた。

少年は頭を下げる。

「私は愚かでした」

「真実を知ろうともしなかった」

「それでもあなたは私を見捨てなかった」

声が震える。

王は何も言わない。

ただ待っていた。

だから彼は誓った。

心から。

初めて。

「この命を王国に捧げます」

「あなたが守ろうとしたものを守ります」

王は微笑んだ。

そして剣に手を添えた。

「ならば――」

その言葉は生涯忘れられないものになる。

[chapter:「我が剣となるのだ」]

その瞬間。

少年は騎士になった。

後に親衛隊長サーベルと呼ばれる男の物語は、そこから始まったのである。

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