ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#第七十四話

サーベルは死んだはずだった。

崩れ落ちる巨神像。

砕ける石壁。

鳴り響く轟音。

クンタック王子を追い続けたその果て。

最後に見たのは崩落する天井だった。

身体を押し潰す瓦礫。

砕ける骨。

遠ざかる意識。

そして――

闇。

完全な闇だった。

次に目を開けた時。

自分は水の中にいた。

いや、違う。

水のような液体だった。

身体は動かない。

息は出来ている。

奇妙な感覚だった。

視界の先には透明な壁。

円筒状の容器。

自分はその中に浮かんでいた。

「……ここは」

声にならない。

気泡だけが浮かぶ。

その時だった。

足音。

コツ、コツ、と規則的な音が近づく。

やがて一人の人間が姿を現した。

赤い髪。

白衣。

鋭い瞳。

見覚えはない。

だが、その女はまるで待っていたかのように微笑んだ。

「目が覚めたのね」

その声は妙に冷たかった。

 

 

どれほど時間が経ったのか。

サーベルは容器から解放されていた。

白い部屋。

無機質な空間。

そして目の前にはあの女。

「……ここはどこだ」

掠れた声で尋ねる。

女は答えなかった。

代わりに椅子へ腰掛ける。

「その前に条件を呑んでもらうわ」

「条件だと」

「ええ」

女は笑った。

まるで実験結果を眺める研究者のように。

「あなたは一度死んだ」

その言葉にサーベルは黙る。

否定出来なかった。

「私はあなたを蘇生した」

「……」

「だから働いてもらう」

その目に感情はない。

あるのは利用価値だけだった。

[newpage]

条件は単純だった。

バウワンコ王国を襲撃すること。

それだけ。

サーベルは理解出来なかった。

なぜ自分が。

なぜ王国を。

だが拒否権は存在しなかった。

女は淡々と言う。

「断れば生命維持を停止する」

それは脅しではなかった。

事実だった。

サーベル自身、自分が生きている理由を理解していなかった。

身体のどこかがおかしい。

時折記憶が霞む。

感情も鈍い。

自分はもう正常ではない。

それだけは分かった。

やがて王国侵攻が始まった。

黒い太陽。

怪物達。

吸血鬼。

人狼。

狂人。

かつてなら剣を向けていた相手ばかりだった。

だが今の自分は違う。

命令されるまま剣を振るう。

王国は蹂躙された。

城は落ちた。

民は怯えた。

悲鳴が響いた。

その光景を見るたびに胸が痛んだ。

だが身体は止まらない。

まるで何かに縛られているようだった。

せめて。

せめてこれ以上は。

サーベルは密かに動いていた。

幹部達から民を守る。

目立たぬように。

怪しまれぬように。

人狼が暴れれば止める。

兵士が暴走すれば叱責する。

子供が巻き込まれそうになれば逃がす。

誰にも気付かれないように。

ほんの少しだけ。

だがそれが限界だった。

守ろうとすれば命令が下る。

従えば民が傷付く。

逆らえば疑われる。

板挟み。

それが今の自分だった。

[newpage]

夜になるたび思う。

願うことなら。

もう一度。

あの日々を。

前王が笑い。

王妃が微笑み。

幼いクンタック王子が城を駆け回っていた。

あの平和な日々を。

だが現実は残酷だった。

気付けば自分は王国の敵になっていた。

守るべきものを傷付ける存在になっていた。

忠義とは何だったのか。

自分は何を守っていたのか。

答えは見つからなかった。

そして現在。

巨大な身体が暴れている。

敵も味方も分からない。

ただ破壊だけが続く。

それなのに。

聞こえた。

[chapter:「サーベル!!」]

その声を。

間違えるはずがなかった。

クンタック王子。

あの少年の声だった。

胸の奥が痛む。

何かが軋む。

忘れていた感情が蘇る。

見下ろした先。

そこにいた。

剣を握る王子。

傷付きながらも立つ仲間達。

そして。

希望。

確かにそこにあった。

そうだ。

思い出した。

前王が守ろうとした未来。

それが彼だった。

クンタック王子。

前王の忘れ形見。

希望の光。

そのものだった。

[newpage]

巨大な腕が止まる。

振り下ろそうとしていた攻撃が止まる。

王子がこちらを見る。

驚いた顔。

そして悲しそうな顔。

その表情だけで十分だった。

気付けば涙が流れていた。

どうしてなのか。

分からない。

もう何年も泣いていなかった気がする。

だが止まらない。

申し訳ありません。

陛下。

私は間違えました。

王子を信じられませんでした。

王国を守れませんでした。

私は――

忠臣失格です。

その瞬間だった。

視界いっぱいに青白い光が広がる。

月。

まるで月のような輝き。

優しく。

静かで。

どこか懐かしい光。

身体から力が抜ける。

意識が遠のく。

最後に見えたのは。

こちらへ駆け寄ってくる王子の姿だった。

「サーベル!!」

その声を聞きながら。

サーベルの意識は静かに闇へ沈んでいった。

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