ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

76 / 165
#七十六話

バウワンコ王国での戦いから数日。

#朔夜は母方の祖母の家に来ていた。

蝉の鳴き声が朝から晩まで響き続ける田舎の夏。

縁側の向こうでは陽炎が揺れ、庭先のアサガオさえ暑さにぐったりして見える。

そんな中。

#朔夜は冷房の効いた居間で完全にだらけていた。

「……暑い」

ごろりと畳へ転がる。

手にはスマホ。

祖母の家のWi-Fiに接続し、動画を延々と眺めている。

ゲーム実況。

動物動画。

弓道の解説。

怪談話。

おすすめ欄に流されるまま見続けていた。

「夏休みって最高……」

そう呟いた瞬間だった。

「宿題はいいのかい?」

祖母の一言が突き刺さる。

「……あ」

完全に忘れていた。

自由研究。

まだ終わっていない。

正確には途中で止まっている。

妖怪と幽霊の違い。

神話。

民俗学。

伝承。

鬼太郎や目玉おやじから聞いた内容は大量にある。

だが整理が終わっていない。

というか多すぎる。

「テーマが難しすぎた……」

頭を抱える#朔夜。

祖母は麦茶を飲みながら笑った。

「なら資料館でも行けばいいじゃないか」

「資料館?」

#朔夜は顔を上げた。

「この辺にあるの?」

「あるとも」

祖母は当然のように答える。

「町おこしで去年できたばかりさ」

「え?」

初耳だった。

祖母の家には何度も来ている。

だが聞いたことがない。

「最近できたからねぇ」

「知らなくても無理はないよ」

そして数十分後。

祖母の軽自動車に乗せられた#朔夜は目的地へ向かっていた。

[newpage]

山道を抜け。

小さな川を越え。

田畑の広がる道を進む。

やがて見えてきたのは。

木材とガラスを組み合わせた比較的新しい建物だった。

『郷土歴史民俗資料館』

そう書かれた看板が立っている。

「帰りは電話しな」

「はーい」

車を降りる。

熱気が押し寄せた。

だが。

自動ドアをくぐった瞬間。

「うわ……」

思わず声が漏れた。

冷気。

館内は空調が効いている。

むしろ少し寒いくらいだった。

火照った身体が一気に冷やされる。

生き返る。

本気でそう思った。

受付で簡単な説明を受け。

#朔夜は館内を歩き始めた。

展示内容は主に郷土史。

古い農具。

祭具。

神社関係の資料。

古文書。

地域伝承。

興味深いものばかりだった。

だが。

人は少ない。

かなり少ない。

数人の高齢者が展示を眺めている程度。

広い館内に対して利用者が圧倒的に足りていなかった。

「大丈夫なのかなここ……」

思わず心配になる。

この町の過疎化を感じる光景だった。

そんな時。

ふと視界の端に一人の人物が映る。

若い。

高校生ではない。

大学生か。

あるいは社会人か。

黒と白のパーカーを羽織った青年。

資料館では少し珍しい格好だった。

熱心に文献を読んでいる。

年齢的にも浮いている。

珍しいな。

そう思った。

[newpage]

そして。

ふいに。

青年が顔を上げた。

目が合う。

「あ」

思わず視線を逸らした。

別に悪いことをしたわけではない。

だが何となく気まずい。

その瞬間だった。

#朔夜の身体が固まる。

青年の後ろ。

少し離れた場所。

そこに。

何かが立っていた。

半透明。

人ではない。

大柄な影。

頭部には大きな角。

鬼。

そう呼ぶのが一番近い。

妖怪かもしれない。

しかし普通ではない。

まるで護衛のように。

当然のように。

青年の背後へ立っている。

(……え?)

瞬きする。

消えない。

見間違いではない。

確かにいる。

しかも。

その棚を見て気付く。

そこに並んでいるのは。

地方伝承。

妖怪伝説。

神道資料。

民俗学。

まさに。

#朔夜が今から調べようとしていた分野だった。

(なんで……)

偶然か。

それとも。

胸の奥に小さな違和感が生まれる。

冷房とは別の冷たさ。

静かな緊張。

蝉の声すら聞こえない館内で。

#朔夜はもう一度だけ。

そっとその青年の方を見た。

青年は再び文献へ目を落としていた。

まるで何事もなかったかのように。

だが。

その背後に立つ鬼の影だけは。

こちらを見ているような気がした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。