ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#第七十七話

資料棚の前から離れた#朔夜は、小さく息を吐いた。

「……なんだったんだろ」

先ほど見た黒白のパーカー姿の青年。

そしてその背後に立っていた角の生えた半透明の存在。

気のせいではなかったと思う。

だが考えても答えは出ない。

#朔夜は頭を振った。

するとふと思い出す。

入口近くに置かれていた自動販売機。

しかもアイスの自販機だった。

「……アイス食べよう」

調べ物は頭を使う。

頭を使うには糖分が必要だ。

そう自分に言い訳しながら、自販機へ向かった。

数分後。

#朔夜はベンチに腰掛けながらアイスを食べていた。

冷たさが身体に染み渡る。

外の猛暑が嘘のようだった。

「生き返る……」

最後の一口を食べ終えた頃には、少しだけやる気も戻っていた。

ゴミを捨てる。

そして再び資料コーナーへ向かう。

しかし。

先ほどの青年の姿は既になかった。

「あれ」

思わず周囲を見回す。

いない。

どこかへ行ったらしい。

少しだけ気になったが、追いかける理由もない。

朔夜は棚から何冊か本を抜き取った。

[newpage]

民俗学。

郷土史。

神社について。

伝承について。

そして一冊。

タイトルに目が止まる。

[chapter:桜島横山町について]

「これでいいか」

そのまま自習スペースへ向かった。

幸い利用者はいない。

広い机を独り占めだった。

静かだ。

エアコンの音だけが聞こえる。

#朔夜は椅子に座ると、本を積み上げた。

そして一番上の本を開く。

町の歴史。

火山との共生。

古い祭り。

地域信仰。

ページをめくっていく。

すると。

ある神社の紹介が目に留まった。

「月讀神社……?」

思わず読み返す。

祭神。

月読命。

聞いたことのない神様だった。

「月の神様かな?」

気になった#朔夜は、別の本を手に取った。

神話関係の資料だ。

索引を探し、該当ページを開く。

月読命。

三貴子の一柱。

[chapter:天照大御神]

[chapter:須佐之男命。]

__そして

[chapter:月読命。

]日本神話において非常に重要な神とされている。

さらに読み進める。

黄泉の国。

根の国。

死者の世界。

黄泉から帰還したイザナギ。

禊。

そして生まれた三柱の神々。

「へぇ……」

思わず声が漏れた。

知らないことばかりだ。

月読命については資料によって説明が少し違う。

夜を司る神。

月の神。

死者の世界と関わる神。

様々な説があるらしい。

だが共通している部分もある。

それは。

生と死の境界に近い存在だということだった。

[newpage]

「なんか……」

#朔夜はページを見つめる。

「妖怪に近い?」

もちろん違う。

神様だ。

妖怪ではない。

だが。

死者の国。

黄泉。

霊。

魂。

そういったものと深く結び付いている。

今まで出会ってきた妖怪たち。

鬼太郎。

目玉おやじ。

猫娘。

そして様々な怪異。

思い返せば。

どれも生と死の間に存在しているような気がした。

気付けば時間を忘れていた。

本を読み。

メモを取り。

また別の本を開く。

資料館の静けさも忘れていた。

その時だった。

館内放送が流れる。

優しい音楽。

そして閉館を知らせるアナウンス。

「え?」

顔を上げる。

窓の外は夕焼けだった。

オレンジ色の光が差し込んでいる。

「もうこんな時間!?」

思わず立ち上がる。

夢中になり過ぎていた。

慌てて本を閉じる。

ノートをまとめる。

借りられる資料を確認する。

そして帰る準備を始めた。

だが。

机の上に置かれたメモ帳には。

いつの間にか。

何度も同じ言葉が書かれていた。

[newpage]

[chapter:月読命]

[chapter:黄泉]

[chapter:境界]

なぜそんな言葉ばかりを書いていたのか。

その時の朔夜は、まだ気付いていなかった。

自分が少しずつ。

"月"へ近付いていることに。

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