ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

79 / 165
#七十九話

翌朝。

#朔夜は騒がしい声で目を覚ました。

時計を見ると、まだ朝の六時にもなっていない。

何事かと思いながら居間へ向かうと、そこには重苦しい空気が漂っていた。

「だから早く探しに行ってくださいよ!」

声を荒げているのはユウマの母親だった。

目には涙が浮かび、髪も乱れている。

一睡もしていないのだろう。

「落ち着け。警察にも連絡しとる」

「落ち着いてなんかいられません!」

祖父や近所の人々が必死になだめているが、半ば錯乱状態だった。

それも無理はない。

幼い息子が一夜にして消えたのだ。

しかも目撃証言は曖昧で、残されたのは巨大な黒い羽だけ。

普通の失踪事件ですらない。

#朔夜は何も言えず、その様子を見つめた。

胸の奥が重い。

自分が目を離さなければ。

そんな後悔ばかりが浮かんでくる。

やがて捜索隊が編成され始めた。

消防団。

警察。

近所の住民たち。

皆が慌ただしく準備を進めている。

当然、#朔夜も行こうとした。

だが――。

「お前は駄目だ」

祖父に即座に止められた。

「なんで!」

「山を甘く見るな」

低い声だった。

「桜島の山は危険じゃ。火山地帯でもある。子供が入る場所じゃない」

「でも!」

「駄目じゃ」

有無を言わせぬ口調。

結局、#朔夜は家に残されることになった。

納得などできるはずもない。

だが大人たちは次々と出発していく。

気付けば家には祖母しか残っていなかった。

――今だ。

#朔夜は静かに立ち上がった。

昨日見たもの。

季節外れの桜。

あれが関係している気がしてならない。

誰にも気付かれないよう玄関を抜けると、そのまま山道へ向かった。

[newpage]

朝の山は静かだった。

蝉の声だけが響いている。

昨日の夜と違い、視界は良好だ。

だからこそ違和感があった。

「確か……この辺だったはず……?」

何度も辺りを見回す。

だが。

桜がない。

一本もない。

昨夜、確かに見たはずだ。

月明かりに照らされた満開の桜を。

夢だったのだろうか。

そんなはずはない。

あまりにも鮮明だった。

#朔夜はさらに奥へ進む。

すると。

「……あれ?」

木々の隙間に何かが見えた。

近付く。

そこにあったのは古びた祠だった。

かなり小さい。

しかも壊れている。

屋根は崩れ、柱も傾いていた。

長年放置されていたのだろう。

昨日読んだ本の内容が脳裏をよぎる。

[chapter:――悪さをする天狗が封じられた祠。]

まさか。

胸騒ぎがした。

#朔夜はそっと手を伸ばす。

[newpage]

その時だった。

「関わるな」

突然、背後から声が響いた。

「っ!?」

飛び上がるほど驚いて振り返る。

そこに立っていたのは昨日資料館で見かけた青年だった。

黒と白のパーカー。

無造作な髪。

どこか眠そうな目。

そして。

昨日見た半透明の鬼の姿は今は見えない。

だが。

普通の人ではない。

そんな確信があった。

青年は祠を見つめていた。

その視線は鋭い。

資料館で見た時とは別人のようだった。

「……あなたは」

「帰れ」

即答だった。

「ここは子供が来る場所じゃない」

「でも!」

#朔夜は思わず叫んだ。

「ユウマがいるかもしれない!」

青年の眉が僅かに動く。

「従兄弟なんだ!」

「……」

「昨日、目の前で消えたんだよ!」

感情が溢れる。

悔しさ。

不安。

恐怖。

全部。

青年は少しだけ目を伏せた。

意外そうな顔だった。

だが次の瞬間には元に戻る。

「必ず助ける」

静かな声だった。

「だから家に帰れ」

「でも!」

「足手まといになる」

その言葉に#朔夜は息を呑む。

反論できなかった。

今の自分では何もできない。

それは事実だ。

青年は続ける。

「任せろ」

短い言葉だった。

だが不思議と嘘には聞こえなかった。

#朔夜はしばらく黙り込んだ。

やがて。

「……分かった」

小さく答える。

そして踵を返した。

山道を下る。

青年はそれを見送っていた。

やがて。

#朔夜の姿が見えなくなる。

青年は小さく息を吐いた。

「頼むから大人しく帰ってくれよ……」

そう呟く。

そして。

祠の脇へ歩み寄る。

何もない空間へ手を伸ばした。

その瞬間。

空間が揺らいだ。

まるで見えないカーテンをめくるように。

景色が波打つ。

青年はそのまま森の奥へ消えていった。

[newpage]

数分後。

木陰からひょこっと顔が覗く。

「やっぱり……」

#朔夜だった。

もちろん帰っていない。

引き返したふりをしただけである。

青年が見えなくなるまで隠れていただけだ。

そして。

見てしまった。

あの消え方を。

「絶対おかしい……」

普通の人間ではない。

それだけは分かる。

そして。

消えた場所も覚えた。

#朔夜は慎重に近付く。

そこには何もない。

木しかない。

だが。

違和感があった。

空気が揺らいでいる。

熱気のような。

水面のような。

奇妙な感覚。

恐る恐る手を伸ばす。

すると。

指先が何かに触れた。

「うわっ!?」

柔らかい。

だが確かに壁がある。

見えない壁だ。

「結界……?」

妖怪と関わるようになってから何度か聞いた言葉。

まさか本当にあるとは。

心臓が激しく鳴る。

怖い。

当然だ。

だが

ユウマがいるかもしれない。

そう思った瞬間。

迷いは消えた。

「……行くしかない」

小さく呟く。

そして。

一歩踏み出した。

空間が波打つ。

景色が歪む。

風が吹く。

世界が反転する。

次の瞬間。

#朔夜の姿は森の中から消えていた。

[chapter:――境界の向こう側へと。]

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。