ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#第八十話

結界の向こう側へ足を踏み入れた瞬間、#朔夜は思わず息を呑んだ。

そこは別世界だった。

見渡す限りの桜。

山肌を埋め尽くすように咲き誇る淡い桃色の花々が、風に乗って舞い続けている。

昨日、月明かりの中で見た桜と同じだった。

いや、それ以上だ。

今は真夏。

本来ならば咲くはずのない季節だというのに、ここだけは春のまま時が止まっているようだった。

「なんだよ……ここ……」

思わず呟く。

背後を振り返る。

だが結界の入り口は既に見えなかった。

代わりに広がるのは桜の森だけ。

静かで、美しくて。

そしてどこか不気味だった。

その時だった。

山頂近くに何かが見えた。

「あれ……?」

目を凝らす。

屋敷だ。

立派な日本家屋。

古いが威厳のある造りをしている。

昨日も今朝も、こんな建物は見えなかった。

間違いなく結界の中にだけ存在している。

「ユウマ……」

胸がざわつく。

もし天狗が連れ去ったのなら。

もし捕まっているなら。

あそこしかない。

#朔夜は背負っていた弓を握り直した。

「待ってて」

小さく呟く。

そして山道を駆け出した。

[newpage]

途中。

突如として空気が震えた。

ドォォォン!!

耳をつんざく轟音。

「っ!?」

反射的に顔を上げる。

山頂付近から黒煙が上がっていた。

次の瞬間。

何かが吹き飛んだ。

巨大な木だった。

何十年も生きてきたであろう大木が真っ二つになり、空中を舞う。

「なに……!?」

その向こうに二つの影が見えた。

一人は昨日資料館で見かけた青年。

黒と白のパーカー。

無愛想な横顔。

だが今の彼は明らかに異様だった。

腕が異常なまでに膨れ上がっている。

筋肉が隆起し、血管が浮き出し、まるで別人のようだった。

そしてもう一方。

巨大な翼。

長い鼻。

赤黒い顔。

禍々しい妖気。

「天狗……!」

間違いなかった。

あれがユウマを攫った存在。

天狗は怒号を上げながら突進する。

青年もまた地面を蹴った。

次の瞬間。

二人が空中で激突した。

衝撃波が山全体を揺らす。

「うわっ!」

#朔夜は慌てて身を伏せた。

桜吹雪が嵐のように舞う。

凄まじい戦いだった。

だが――

「今は!」

助けに行く方が先だ。

#朔夜は視線を切り、再び走り出した。

屋敷へ辿り着くまでにそれほど時間はかからなかった。

警備らしいものも見当たらなかった。

玄関を抜ける。

廊下を走る。

襖を開ける。

空っぽ。

また開ける。

空っぽ。

さらに奥へ。

そして――

「あっ!」

見つけた。

座敷の一室。

布団の上で眠る小さな男の子。

ユウマだった。

[newpage]

「ユウマ!」

駆け寄る。

肩を揺する。

「起きろ!」

返事はない。

だが呼吸はしている。

怪我もない。

眠っているだけだ。

その事実に胸を撫で下ろす。

「よかった……」

本当に。

よかった。

その時。

[chapter:チリン――]

小さな音が聞こえた。

「?」

振り返る。

部屋の隅。

古びた木箱の上に神楽鈴が置かれていた。

巫女が舞う時に使う鈴だ。

なぜこんな場所に。

不思議に思いながら手に取る。

すると昨日読んだ本の内容が脳裏をよぎった。

神社。

祭祀。

信仰。

奉納。

そして――

天狗。

「そういえば……」

昔聞いたことがある。

地域によっては天狗を山の神として祀る場所もあると。

悪い妖怪として語られることもある。

だが一方で守護神として信仰される場合もある。

もし。

もし本当に神として扱われていた存在なら。

「話くらいは聞いてくれるんじゃ……」

ふとそんな考えが浮かんだ。

[newpage]

屋敷を出る。

少し離れた場所。

来る途中に見かけた広場へ向かう。

石畳が敷かれた小さな空間。

周囲を桜が囲んでいる。

まるで舞台だった。

上空ではまだ戦いが続いている。

轟音が響く。

だが#朔夜は神楽鈴を握り締めた。

静かに息を吐く。

昔から体が勝手に覚えていた。

理由は分からない。

誰に教わったのかも曖昧だ。

けれど舞を舞うことが出来た。

不思議なほど自然に。

鈴を鳴らす。

チリン。

小さな音が響く。

一歩。

また一歩。

ゆっくりと足を運ぶ。

風が吹いた。

桜が舞う。

鈴が鳴る。

チリン。

チリン。

#朔夜は静かに舞い続けた。

誰に見せるわけでもない。

ただ祈るように。

願うように。

争いが終わりますように。

ユウマが無事でありますように。

誰も傷付かなくて済みますように。

そんな想いを乗せながら。

ふと。

風が止んだ。

いや。

違う。

風そのものが#朔夜の周囲へ集まり始めていた。

「……?」

鈴の音が響く。

桜が舞う。

青白い月光が差し込む。

そして。

空で戦っていたはずの二つの気配が、同時にこちらを向いた。

青年も。

天狗も。

まるで何かに引き寄せられるように。

広場を見下ろしている。

桜吹雪の中心で。

神楽鈴を手に舞う#朔夜の姿を。

誰よりも美しく。

誰よりも儚く。

月光の下で舞うその姿は、まるで――

遠い昔に失われた何かを思い出させるようだった。

そして天狗の瞳が、大きく見開かれる。

[chapter:「__サクヤ、姫様?」]

何かを呟いた。

だが距離が遠すぎて聞こえない。

それでも。

確かに。

その顔から怒りが消えていた。

桜が舞う。

鈴が鳴る。

そして物語は、少しずつ真実へ近付いていくのだった。

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