クルトの案内で一行は展示区画を離れ、職員専用の裏通路へと足を踏み入れた。一般来館者用の華やかな展示空間とは打って変わり、そこは機械音と静かな足音だけが響く無機質な空間だった。
壁面にはひみつ道具の保管リストや座標ログが並び、定期的に光る表示が、ここが単なる博物館ではなく“研究施設”であることを示している。
「こっちだよ。近道になる」
クルトの案内に従い、#朔夜たちは薄暗い通路を進んでいく。
その途中だった。
前方から歩いてきた職員らしき人物が、軽く手を上げてクルトに声をかけた。
「あ、クルト。あの件は?」
一瞬だけ、空気が変わる。
クルトは足を止めず、淡々と返す。
「データは既に送っているはずです。リーゼ先輩」
そのやり取りはあまりにも自然で、まるで日常会話の延長のようだった。
しかし、その名前が耳に残る。
リーゼ。
のび太が小声で首をかしげた。
「え?誰?」
クルトは歩きながら軽く説明する。
「僕の先輩だよ。遺跡とかを調べてる工芸科の人なんだ。今日は出張でいなかったはずだけど……」
通路の向こうで、リーゼと呼ばれた人物は軽く手を振ると、そのまま別の区画へと消えていった。
#朔夜はその背中を見送りながら、胸の奥に小さな違和感を覚えていた。
(……どこかで、会ったことがある気がする)
だが思い出せない。初対面のはずだ。それでも、記憶の奥に引っかかる“気配”だけが残っている。
「どうしたの?」
ナツメに声をかけられ、#朔夜は首を振った。
「いや……気のせいだと思う」
その言葉で無理やり違和感を押し込めるようにして、再び歩き出す。
やがて一行は、クルトの私室前へと到着した。
通路の最後は一転して静かで、扉の向こうからは微かな生活音のようなものが漏れている。
「ここだよ」
クルトはそう言うと、扉の前で一瞬だけ眉をひそめた。
中から、何かを咀嚼する音が聞こえている。
ずるずる、と麺をすする音。
そしてスープを啜る気配。
クルトはため息をついた。
「……また勝手に入ってる」
そして次の瞬間、勢いよくドアを開け放つ。
[newpage]
「何しているんだ!」
そこにいたのは。
テーブルに足を投げ出し、インスタントラーメンを堂々とすすっている少女だった。
金髪の少女
その姿を見た瞬間、ナツメと#朔夜は固まる。
「……誰?」
ナツメの声には警戒が混じっていた。
しかしジンジャーは気にした様子もなく、麺を飲み込みながら顔を上げる。
「ん?ああ、来客か」
クルトは呆れたように腕を組む。
「ここは僕の私室なんだけど」
「知ってるよ。だから居心地がいいんじゃない」
堂々とした態度だった。
まるで“侵入している”という意識すらない。
ナツメが小さくクルトに耳打ちする。
「この人も博物館の人?」
クルトは一拍置いてから答えた。
「……正式には、違う」
その一言で、空気が少しだけ変わる。
ジンジャーは箸を止めずに続ける。
「まあいいじゃない。どうせ君らも“黒いドア”の話をしに来たんでしょう?」
その言葉に、#朔夜の視線が鋭くなる。
初対面のはずの少女が、核心を最初から知っているような口ぶりだった。
クルトが低く言う。
「ジンジャー。その話はまだ外には──」
「外じゃないからいいじゃん?」
ラーメンをすすり終え、彼女は笑った。