クルトの私室へ入った#朔夜たちを迎えたのは、研究者らしい整然とした空間――ではなかった。
資料の山、開きっぱなしの端末、床に散らばった設計図。そして部屋の中央では、まるで自分の家であるかのようにくつろぎながらカップラーメンをすすっている金髪の少女_ジンジャーの姿があった。
「……」
ドラえもんは無言でクルトを見る。
その目は明らかに引いていた。
「クルト」
「は、はい」
「ジンジャーに話したの?」
責めるような口調ではない。
むしろ呆れ半分である。
クルトは途端に慌て始めた。
「ち、違うんだよ! 誤解だよ!」
「何が違うの?」
「だから、その……送ってくれたデータを整理していたら、黒い扉に使われている材質が気になって」
「うん」
「それでペプラーメタルの可能性があると思ったんだ」
クルトは早口で続ける。
「だからペプラー博士に相談したんだよ! 本当にそれだけなんだ!」
「それで?」
「その後いつの間にかジンジャーに知られてて……」
「なるほど」
ドラえもんは納得したように頷いた。
そして小さくため息をついた。
「ペプラー博士かぁ……」
その反応を見た#朔夜は察した。
たぶん博士の管理体制が雑なのだろう。
秘密保持とかそういう概念があまりない人なのかもしれない。
あるいは話した相手が悪かったのか。
[newpage]
どちらにせよ。
「つまり漏れたんだな」
と#朔夜が言うと、
「漏れたわね」
とナツメ。
全員の意見が一致した。
クルトだけが申し訳なさそうな顔をしている。
一方のジンジャーは気にした様子もなくラーメンをすすっていた。
「ズルズルズル……うまい」
「反省しろ!」
ドラえもんのツッコミが飛ぶ。
ひとしきり騒ぎが落ち着いたところで、ドラえもんは本題へ入った。
「それで?」
クルトも表情を引き締める。
「何かわかったの?」
部屋の空気が少しだけ変わった。
クルトは端末を操作しながら答える。
「残念だけど、決定的なことは何も」
「何も?」
「うん」
クルトは苦笑した。
「材質分析も年代測定もほとんど意味を成さなかった」
「どういうこと?」
のび太が首を傾げる。
「データが噛み合わないんだ」
クルトはモニターを表示した。
そこには黒い扉の解析結果らしきグラフや数値が並んでいる。
しかしどれも異常値ばかりだった。
「未来の技術でも説明できない?」
しずかが尋ねる。
クルトは頷く。
「少なくとも、ひみつ道具として登録されている技術体系には存在しない」
部屋が静まり返る。
#朔夜はモニターを見つめた。
やはり黒い扉は普通ではない。
未来の道具ですらない可能性がある。
するとクルトが続けた。
「ただ、一つだけ妙な反応を見つけた」
「妙な反応?」
「うん」
クルトは別の画面を表示した。
そこにはいくつもの遺物の写真が映し出されていた。
「工芸科が発掘した古代遺物のデータベースと照合したんだ」
「古代遺物?」
「つまり――オーパーツ」
[newpage]
その言葉に一同の声が重なる。
「オーパーツ?」
#朔夜も聞いたことがなかった。
ナツメも首を傾げている。
そこでドラえもんが説明を始めた。
「オーパーツっていうのはね、本来その時代には存在しないはずの技術や道具のことなんだ」
「例えば?」
と#朔夜が聞いた。
「昔の地層から現代レベルの加工技術が見つかったりとか」
「テレビで聞いたことあるかも。古代文明なのに異常に進んだ技術が出てきたとか言ってた気がする。」
とナツメが補足する。
「要するに、その時代じゃ説明できないもの?」
「そうそう」
ドラえもんは頷いた。
しかし説明した本人もどこか困った顔をしていた。
結局のところ、それは「分からないもの」の総称でもあるからだ。
ナツメが腕を組む。
「つまり?」
その問いに答えたのはクルトだった。
「つまり、まだ何もわかってないんだ」
乾いた笑いが漏れる。
どうやら本当に疲れているらしい。
「ごめん」
クルトは肩を落とした。
「でも黒い扉と似た反応を示す遺物が過去にいくつか見つかっていることだけは確かなんだ」
「どこで?」
「それもバラバラ」
クルトは首を振る。
「時代も場所も一致しない」
つまり共通点が見つからない。
あるのは異常な反応だけ。
それがかえって不気味だった。
黒い扉は一体何なのか。
誰が作ったのか。
なぜ現れたのか。
答えは依然として見つからない。
沈黙が流れる。
するとクルトがふっと笑った。
「まあ、今日はこのくらいかな」
「え?」
「君たち、友達と一緒に来てるんだろう?」
そう言ってクルトはモニターを閉じた。
「迎えに行ってあげなよ」
その言葉で、#朔夜たちは別行動していたジャイアンたちやトウマたちのことを思い出した。
そういえば自由に見学すると言っていた。
今頃どこで何をしているのだろうか。
「確かに」
ドラえもんも頷く。
「これ以上聞いても分からないみたいだしね」
「ごめんね」
「いいよ」
ドラえもんは笑った。
「調べてくれただけでも十分だから」
クルトは少し安心したような顔を見せた。
[newpage]
その横ではジンジャーが二個目のカップラーメンを開けている。
「お前まだ食べるの?」
「育ち盛りだから」
「絶対違う」
そんなやり取りを背に、一行は私室を後にする。
結局、黒い扉の正体は分からないまま。
だが一つだけ確かなことがあった。
未来の技術でも説明できない存在。
そして古代遺物――オーパーツとの奇妙な共通点。
その事実だけが、新たな謎として朔夜たちの前に残されたのだった。