クルトの私室を後にした朔夜たちは、再びミュージアムの展示エリアへと戻っていた。
「そういえば、みんな大丈夫かな」
歩きながらドラえもんがふと思い出したように呟く。
「みんなって?」
のび太が首を傾げると、ドラえもんはポケットからスマートフォンを取り出した。
画面にはミュージアムの館内マップが表示されている。
その上には、いくつもの光る点が映っていた。
「入館するときに渡されたバッジ、覚えてる?」
「ああ、服につけてるやつ」
#朔夜は胸元のバッジを見下ろした。
「実はあれ、GPSが内蔵されてるんだ」
ドラえもんが画面を拡大する。
そこにはそれぞれの位置情報が表示されていた。
アキノリ。
ケータ。
トウマ。
ジャイアン。
スネ夫。
全員ちゃんと館内にいるらしい。
もっとも――。
「まとまってないな」
#朔夜が言った。
表示された点は一ヶ所に集まっておらず、同じ展示区画の中でそれぞれ離れている。
「自由行動を満喫してるみたいだね」
ドラえもんが苦笑する。
「探しに行こうか」
「そうだな」
一行はそのまま展示スペースへ向かった。
広い展示ホールへ足を踏み入れる。
未来のひみつ道具や歴史的資料が並ぶ空間には、多くの来館者が行き交っていた。
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その中で真っ先にナツメが足を止める。
「あ」
視線の先を追った#朔夜も気付いた。
展示ケースの前。
ケータとトウマが誰かと話し込んでいる。
その相手を見た瞬間、#朔夜は小さく目を細めた。
「……あの人」
職員専用通路で見かけた女性だった。
クルトの先輩。
工芸科所属の研究員。
リーゼ。
「あ、本当だ」
のび太も気付いたらしい。
しかし二人が話している内容を耳にした瞬間、#朔夜は少し意外に思った。
「だから妖怪は本当にいるんだって!」
「いや、正確には妖怪というより妖怪エネルギーを持った存在というか……」
熱弁しているのはケータとトウマである。
完全に妖怪談義だった。
「大丈夫なの……?」
思わず#朔夜は呟く。
専門外の話ではないのだろうか。
だが。
「なるほど」
リーゼは真面目な顔で頷いていた。
「興味深いわね」
「信じてくれるの!?」
ケータが目を輝かせる。
「全部を理解できたわけじゃないけどね」
リーゼは苦笑した。
「でも民間伝承や神話が実在の現象を元に生まれることは珍しくないもの」
「おおー」
「工芸科は遺跡や伝承資料も扱うから、その手の話は結構触れるのよ」
なるほど、と#朔夜は納得する。
遺跡調査を担当しているのなら、民俗学や伝承学とも無関係ではないのだろう。
むしろ思った以上に守備範囲が広いらしい。
「友達がすみません」
ドラえもんが近付いて頭を下げる。
「急に変な話を始めちゃって」
「いえいえ」
リーゼは笑顔で首を振った。
「とても面白かったわ」
「面白かった?」
「ええ」
リーゼは頷く。
「私の知らない分野の話だったから」
余裕のある大人の微笑みだった。
ケータとトウマはどこか誇らしそうである。
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その様子を見ながら、朔夜は一歩前へ出た。
「あの」
「ん?」
リーゼがこちらを見る。
「あなたは、さっきの――」
言いかけた瞬間だった。
「ああ、クルトの友達ね」
先に言われた。
リーゼは人懐っこい笑みを浮かべる。
「また会うこともあるだろうし、ちゃんと名乗っておこうかな」
そう言って軽く姿勢を正した。
「私はリーゼ」
一拍置いて続ける。
「照海リーゼ」
「照海……」
#朔夜は思わず復唱した。
聞き慣れない名前だった。
漢字とカタカナ。
珍しい組み合わせである。
「よろしくね」
「よろしく」
軽く会釈を返しながらも、#朔夜はどこか引っかかるものを感じていた。
何だろう。
名前だろうか。
それとも別の何かだろうか。
「照海ってことは――」
思わず口を開きかけた、その時。
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「ドラえもーーーん!!」
展示ホール中に響き渡る大声。
全員が反射的に振り返った。
「うわっ」
ドラえもんが肩を震わせる。
人混みをかき分けるようにして近付いてきたのは――。
「ジャイアン」
のび太が呟いた。
張本人はずかずかと歩み寄ってくる。
そして。
「なんで黙ってたんだよ!」
開口一番、それだった。
「え?」
ドラえもんが目をぱちくりさせる。
「何の話?」
「何の話じゃねぇよ!」
ジャイアンは勢いよく指を突き付けた。
「ミステリートレインだ!」
「あ」
ドラえもんの表情が固まる。
その反応だけで何か察したらしい。
「知ってたんだな!?」
「いや、その……」
「運行予定決まってるじゃねぇか!」
ジャイアンが不満そうに言う。
「俺たち、さっき聞いたんだぞ!」
「誰から?」
しずかが尋ねる。
するとジャイアンは得意げに胸を張った。
「アストン達からだよ!」
親指で後ろを示した。
その瞬間。
#朔夜は初めて気付く。
ジャイアンの後ろに、三人の少年が立っていた。
全員ジャイアンと同年代くらい。
見覚えのない顔だった。
来館者だろうか。
だがどこか雰囲気が違う。
三人とも自然体で、まるでこの場所に慣れているように見えた。
「……?」
#朔夜は小さく首を傾げる。
誰だろう。
少なくとも自分たちの知り合いではない。
そのうちの一人がこちらを見て、にっと笑った。
まるでこれから面白いことが始まるとでも言いたげな笑みだった。
そして三人はゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
#朔夜たちは思わず顔を見合わせた。
どうやら、また新しい出会いが待っているらしい――